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はじめて学ぶ「動物実験」④Q&A

*③のつづきです。



海外の運動との違いは?


生田
 僕は先日フィリピンの貧困問題の現場に行って意見交換してきて、いろんな刺激を受けたんですが、JAVAさんは各国の支援団体と連携して日本との違いを感じることはありますか?

和崎 一番はやはり規模の違い——それは動ける人員の人数の違いもそうですし、財政的な点でも違いを感じます。やはり海外の大きい団体はすごい豊かで、サポーターの方の数も違います。何十万人といった規模のサポーターを有しているところもあって、一つのキャンペーンをやったときの動く波、企業に与える影響というのも違いを感じることはやっぱりあります。特に欧米の団体はすごく大きいと感じます。

生田 中には、動物奪還、といった実力行使も辞さない団体もあると思うんですけど、運動の姿勢の違いはあるのでしょうか? 

和崎 私達は動物に対する暴力は当然否定していますが、それは人に対しても一緒です。残念ながら暴力的な活動をする団体もありますが、そういうところとは一線を置いています。たとえ実力行使をして動物は助けられたとしても、1回そういうことをしてしまうと、国や企業と話し合いができなくなってしまいます。

 先ほど「過剰に警戒される」というお話がありましたが、私達も、情報の開示請求をしても、実験に関する情報はもう真っ黒(黒塗り)なんですね。そうやって情報を隠してる理由は「自分たちに危害が加えられるから」。私達は半分テロ扱いされてしまっているような感じです。

JAVAウェブサイト「情報公開はどこまで?大学のサルの実験1」より(https://www.java-animal.org/topics/2018/07/11/4747/)
JAVAウェブサイト「情報公開はどこまで?大学のサルの実験2」より(https://www.java-animal.org/topics/2019/07/10/5220/)



 
 「被害を被るかもしれない」「暴力行為を受けるかもしれない」と言っている彼らの根拠は、やっぱり欧米で実力行使が実際に起きてるからなので、実力行使というのは、そのときは動物を助けることができても、長期的に見ると活動にダメージを与えてしまうんじゃないかなと思います。


動物運動内のジェンダーバランスは?


生田 海外の団体のジェンダーバランスはどうでしょう? 今日もおそらく男性は僕だけなんですが、動物問題をやっていると、女性が登場する機会が多いような気がするのですが。

和崎 動物の活動をしている方、日本だと多分8割以上は女性なんじゃないかなと私も感じますね。

生田 海外でもそうですか?

和崎 海外も女性の方が多いですが、日本よりは男性の割合は多いです。それはさっきお話しした財政的な問題もあるのかと思います。海外の団体ですと、職員の方のお給料もいいので、家庭を持ってる方も、職員を本業として生活していける、といったところも影響してるのかなと思います。

 日本の場合、活動家の方がほとんどボランティアで、まだまだ男女平等と言っても男性側が仕事をしてる家が多く、ボランティアで参加してくれる人が増えていかないということもある気がします。

生田 ただ、貧困問題でも、ほぼボランティアで動いてるんですが、男性が明らかに多いです。動物問題やこの座談会におけるジェンダーバランスの悪さは何なのかな、と感じるところです。

和崎 動物問題だと「かわいそう」という感情から入る人も多いので、そういうところに女性の方が影響を受けやすいのかもしれないです。でもうちの団体でも、男性でも頑張ってくれてる人もいます。代表も男性です。



実験動物たちはどこで生まれるの?


 実験動物たちがどこで生まれて、どこで管理されているのか、というシステムについてもうちょっと詳しく聞きたいです。

和崎 一番多いルートとしては、実験動物を繁殖させて売る企業がたくさんあります。そこの大きな施設で、マウスやウサギや犬などをたくさん産ませて、注文が来たら、専用の輸送ボックスで商品のように納入します。しかし、実験では化学物質の作用を見たりするため、動物自体が外の空気に触れたりして他の菌に触れてしまうと影響が出てしまうので、通常は室内の滅菌室に入れられて、厳密な管理をされて売られていきます。そのため、実験動物たちは生まれてからずっと外の太陽も見ることなく一生を終えます

関 そうすると研究開発や企業の研究で使われる動物というのは、専門の業者が産ませて飼育したもので、外にいる動物を捕まえて使用したりはしていないのでしょうか?

和崎 私たちはちょうど今、牛の虐待問題を扱っていて、その牛は畜産センターの牛なのですが、酪農用の牛ではなく、牛の繁殖や飼育環境の研究用の牛なんですね。そこなどは普通の酪農家のような感じで研究用の牛を飼っていますが、劣悪な環境です。

 研究内容によっては、そのように外で飼育してる場合もありますし、あと大学の実習用だと、化学反応の細かい反応をみるためではない手技の練習のための動物もいるので、その場合は、滅菌室ではない大学内の施設で繁殖させている場合もあります。外部から購入するとどうしても金額も上がりますので。



法律・規制をつくることには反対?


栗田 先ほど、規制の法律に関して、「海外では規制があっても、実験動物の殺戮や実験動物そのものの存在がまだ絶えていない」というお話をされていましたが、規制というものが、むしろその実験を守ることになりかねないので、規制を作ることに反対されているという認識でよろしいんでしょうか? それについて、動物の団体内でも意見の違いがあるんでしょうか? 

 というのは、女性問題でも、様々な法律が日本でも出てきたんですが、法律を作ることによって、むしろ活動団体が割れたり、意見の違いによって運動が縮小してしまったりする歴史もあるので、海外も含め、規制の法律というものに対し、活動してる人たちの意見の相違があるのかな、というのが気になりました。

和崎 実験の規制に関しては、「できるだけ厳しくした方がいい」という方はいらっしゃいますね。そういうふうに思うのは必然の流れかなとは思います。JAVAでも全部の規制に反対しているわけではありません。

 愛護法の改正でも求めているのが、動物実験の施設の場所や、どこに何の種類の動物が何匹ぐらいいるのか、といったことは、当然国とか自治体が把握していなければいけないものなので、そういった規制は私達も求めているのですが、ただ、イギリスのように、動物実験の内容を国が審査し許可する制度には、JAVAは反対しています。そうしたいと思っている活動家の方もいらっしゃると思うんですが、先ほどお話したように、国の許可をもらってしまうと、「もう国が許可出してるんだから動物実験に対して何も文句言わせない」と、今よりも守られてしまう可能性があるので、そこは私達が反対してるところです。



代替法は研究費がもらえない?


栗田 動物実験が倫理的に許されない、という話は当然のこととして——これは畜産でも動物園でもつくづく思ったんですけど——そもそも科学的でもないというのが衝撃でした。

「科学で必要だからやらなきゃいけないんだ」という教育なり一般常識なりが浸透してたと思うんですよね。でも実は科学的にも大して必要ない。もっと言えば、それこそさっき生田さんが言っていた731部隊なんて何の役にも立たずに——戦争に勝てばいいわけじゃないけど——戦争にも負けているということを考えれば、科学という言葉でごまかされてきたことが動物に関しては特に多い、ということをこの座談会で感じています。

 残念ながら、倫理的に可哀想と思えない人はいるのかもしれないけれど、科学的ですらないじゃないか、というのに私は怒りを感じました。

和崎 「科学的ではない」というのはおっしゃる通りで、研究者自身も気づき始めています。私達が学会に出ても、研究者自身、「動物実験のデータはそのまま人間に当てはめられるものではない」というのはみんなわかっているんですね。

 ただ、いままで長年、動物実験をガイドラインの中に盛り込んで製品を作ってきた歴史があるので、そこを急になくすところまでまだ行ってない。それを変えるには、それに代わる方法ができないといけないので、代替法の研究というのも進んではきていますけれども、まだ全てを変えるまでに至っていない、というのが現状です。

 ただ、科学的に間違いがあるので、「動物実験のままではいけない」ということに気づいている研究者はいて、代替法学会などでも、いかに代わる方法を作るかというところで皆さん研究を進めています。さきほど石島の方からドイツの団体の動画を少しご紹介しましたが、あれは今注目されている小さなチップの上で体の中の作用を見るというボディ・オン・チップの研究で、期待されている代替法の分野です。日本だと実用化まではいっていないですが、欧米ではベンチャーなどが既に発売して使っています。

 代替法に切り替えられない原因としてネックになっているのは、全身作用が見られる代替法がまだない、ということです。皮膚や目など、部分的には少しずつ代替法ができてきているんですが、全身の作用を見ることができる代替法がない。薬だとどうしても口から入れて、消化〜排泄までの過程をすべて見られなければいけないですから、ボディ・オン・チップでできるようになると大きな進歩を遂げられるんじゃないかと思います。

栗田 先ほど、どこにどのぐらいの動物が飼育されているのか、といった実態についての調査が日本では全然進んでいないから、情報開示からスタートしなきゃいけない、という話をされてたと思います。代替法についての研究も、結局そこにどれだけお金と人をかけてやる気があるのか、という政治的な話で、「できるのにしない」という要素も強いのかなという印象を受けました。

 実はそれってフェミニズムの分野でもあって、女性の労働の研究は、サラリーマンの労働の仕方の研究や、男の人がメインでやっていた肉体労働の仕事といった研究に比べると、全然研究が進んでないということがあります。

  だからやっぱり研究でも、そこにどれだけお金をかけるやる気があるのか、という政治の問題と密接なのかなという印象を受けました。

和崎 その通りでして、今研究界で力を持ってるのは動物実験をしている研究者なんですね。代替法の分野は研究分野としてはまだ確立していないので、研究してる人たちとしても、国の科研費といった補助金がもらえない。研究費がないと、研究する人も育たないし増えないので、それは実際に代替法の研究をされてる方も悩んでいます。

 私達は、国を挙げて代替法の開発や普及に全力を傾けてもらわないと困るので、動物愛護法の改正の際に、「代替法の普及は国の責務とする」という1文を入れて欲しいと求めているところです。そういう根拠があると、国の方も代替法研究の予算をつけやすくなると思います。



ヴィーガンのものは動物実験フリーなの?


 JAVAさんのコスメガイドが一つあるだけで、買い物に行ったときに何を選べばいいかがわかるので、こういった活動のあり方も重要だと思いました。

——この前、関さんと一緒にメイクを買いにいったときも、「これは動物実験してないのだろうか?」と言いながら、一品一品ネットで調べて大変だったよね。ちなみにヴィーガン表記のあるものは、動物実験はしてないんですか?

和崎 そこは全然関連性がないんですよ。動物性成分を使っていない製品と、動物実験は関係ないですし、また、オーガニックであっても実験してるかどうかというのも関係性がないです。

 それは勘違いしてました。表記も統一されていないのも問題な気がしますね。

生田 醤油もビーガン食品ですが、動物実験をしてましたよね。

和崎 はい、そこも国際キャンペーンを張ってやめさせたという経緯があります。

醤油というのはもう長年食べられているものなので、今さら安全性を確認する必要はないんですけれども、こういった実験は食品会社にありがちで、「トマトジュース飲むとこんなに体にいいよ」など、その商品が健康にいいということをお客さんに宣伝したいがために、リコピンをラットに無理やり飲ませる実験をしている会社もあったりします。



感想


——最後にみなさん感想をお願いします。

生田 根本的な問題として、世論が盛り上がらないとやはり駄目だと思います。テレビではかわいい動物や珍しい動物がバンバン出ますが、工業畜産の問題は全く出ません。ましてや動物実験の問題なんて見たことないので、そこはみんな目を背けてるんだろうなと思います。JAVAさんがSNSやYouTubeでやっておられるのは参考になりました。

 野宿・貧困問題でいうと、特に10代の少年グループによる野宿者襲撃があまりにひどいので、僕は2000年から全国の中学高校などで、野宿・貧困問題の授業をやってきています。そういった形で、直接運動をしている人間が、市民、あるいは学校に向けて話をしていくということはこれからも重要じゃないかということを改めて感じました。

栗田 やっぱり私が思ってる以上に、動物実験というものは幅広いジャンルに浸透してしまってるんだということを知りました。今までは、食品・薬・化粧品ぐらいが私のイメージしていた範囲だったんですけど、それをはるかに超えるジャンルに動物実験というものが及んでいたのは知らなかったです。

和崎 どうもありがとうございます。いつもどうしても動物に関係する活動をしてる方とお話することが多いので、違う分野でご活躍されている皆さんからのご意見やご指摘はすごく勉強になりました。ぜひまた違う場でもいろいろアドバイスなどいただけたらありがたいです。

石島 本日は本当にどうもありがとうございました。私もSNSや動画を通じて、いろんな幅広い層の方に動物実験の問題を伝えていくに当たって、皆さんのご意見をいただけて勉強になりました。私も初めて動物実験という問題に触れたときにどう思ったかなどを思い出して、そんなところからもどんなふうに皆さんに伝えていけばいいかを改めて考えていきたいと思いました。

——私自身は畜産の問題はそれなりに知っていたんですが、動物実験についてはあまり知らず、今回この座談会をやるにあたって事前に関連書を読もうと思ったんですが、つらすぎて読み切れなかったんですよね。

 JAVAさんの動画はかわいく作られていますが、ちゃんと動物実験の実態を学べるものになっていて、今日はこの2時間で、大変わかりやすく学ぶことができました。どうもありがとうございました。


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