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俺の実家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。

 俺の実家に聖火が一時的に安置されることになって半年が過ぎた。家の前に変な車が停まっている、とお袋が言ったのが3月の末。乗っていたオッサンがスマホでハイ、ええ、ここでですね、と言いながら車を降りた。そして玄関のチャイムを鳴らした。すいません、聖火課の者なんですが。正式に延期が決まったもので、この聖火はもう町の中を走れないことになっちゃいまして。ええそれで、こちらのお宅に安置させていただくことになります。はい。憲章に書いてありまして。断ったり火を消した場合は死刑までアリです。憲章で。はい。
 そんなわけで居間に聖火が安置されたわけだがそれからが大騒動だった。テレビ局、雑誌に新聞ネットメディア、野次馬野郎に観光客、無尽蔵かつ概して無礼なものだから頑固なオヤジは七日目にプッツン、家宝の日本刀を持ち出して貴様ら出ていけさもないとウウ~ンンン~。プッツンしたのは堪忍袋の尾だけではなく脳の血管もだった。ばったり倒れてそのまま寝ついた。お袋は俺が止めるのも聞かず丸三ヶ月、家にゾロゾロやって来るアホどもを四六時中クソ丁寧にもてなしてある日ウウ~ンンン~。過労でばったり倒れてそのまま寝ついた。
 行政もマスコミも市民も同情はしてくれたが同情してくれただけで補償はなかった。ゼロ円。おまけにテレビやネットで「両親が倒れるまで息子は何をしていたのか」と書かれる始末。何をって、働いてたんだがね。老いた父母との平和で幸せな生活の為に。

 半年前まではにぎやかだったのに今やひっそり静かになった家の居間の真ん中で、聖火はずっと燃えている。二人に柔らかいメシを喰わせてやる時のほかは、俺はぼんやりとその炎の揺らぎを見つめている。
 報道のせいで仕事はクビになった。貯金もそろそろ底をつく。
 俺たちがみんな死んでしまっても、この火は開催日まで消えることはないのだろう。

 俺たちの命を燃料にしながら、聖火は絶えることなく、燃え続けている。
 

(完 800字)

これはなんじゃらほい?

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