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【怖い話】 旅館の貼り紙 【「禍話」リライト新年号】


 場所も時期も明かせないため、都市伝説だと思ってお読みいただきたい。

 どこかにある、小さな旅館の話だという。
 フロントのそばに掲示板のようなものがあって、イベントやお知らせの貼り紙がしてある。

 その中に一枚、指名手配状のような紙があるそうだ。男の顔写真が印刷してあって、下にごちゃごちゃと説明が書いてある。

 大半の客は「あぁ、警察の人が貼っていくアレだな」と見過ごしてしまう。
 しかし少し注意して見ると、素人がパソコンで作って印刷したものだとわかる。
 説明書きには、


この●●●●は 平成■年に
当旅館の売上を持ち逃げした
元従業員です


 とある。

 ほとんどの客は
「なるほど、小さな旅館なのにお金を盗られて腹を立ててるんだなぁ」
「どうにか逮捕してほしくて貼ってるんだな」
 と合点する。

 だが幾人かの人は、そのまた下にある小さな文字に目をやってしまう。


館内で この男を見かけた際は
フロントまでお知らせください



 ……十数年前に売上を持ち逃げした男が、旅館内にいるはずはない。

 しかしここまで読むと、本当に見かけてしまうそうである。
 廊下ですれ違ったり、浴場の入口で入れ違いになったりする。
 あれっ! えっ? 今の……と振り向いても、もう誰もいない。

 見かけてしまっては仕方がない、とフロントまで出向く。

「あの、すいません……」
「ハイありがとうございます。どうされましたか?」
「ちょっと、変なことを言うようなんですけれど……」
「いいえ、大丈夫ですよ。なんでも仰ってください!」
「あそこの、ポスターの……」

 こう言ったあたりから、従業員さんが目を合わせてくれなくなる。

「ポスターの写真の男の人が……」
「えぇ。はい。そうですか」
 声が小さくなるし、視線を下に向けて、こっちの顔を見てくれない。
「さっき階段の踊り場で、すれ違ったんですけども……」
「はい。わかりました。お待ちください」
 奥へ引っ込み、戻ってきて、目を伏せたまま封筒を渡してくるという。
「どうか、ご内密にお願い致します」
 封筒には二万円ほど入っているのだという。

 帰る際も、声だけは愛想よく「ありがとうございました」「またのお越しを」と言うものの、絶対にこちらの顔は見てくれない。

 目撃した客が「ポスターの男が……」と告げた途端に、その男の顔が客の顔面に二重写しになるのではないか、などとも噂されている。

 この旅館は現在も営業しているという。




【完】


☆本記事は、無料&著作権フリーの怖い話ツイキャス「禍話」の2023年→24年の年越し特別放送、
 年越し禍話!怖い動画の話+怪談手帖新作三連発 より、編集・再構成してお送りしました。

 諸事情により開始15分ほどで抜ける予定だった私のために、放送の序盤でこのようなクッソ怖い話をしていただきました。ありがとうござ許さん!いました。


★禍話については、こちらもボランティア運営で無料の「禍話wiki」をご覧ください。


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