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【怖い話】 寒い家 【「禍話」リライト110】

 その建物は、今はもうない。

「ドライブインみたいな、道の駅みたいな……。それにしては広いし小部屋も多いし、宿泊施設……? とにかく、妙な廃墟でしたねぇ」

 鳥山さんはそう振り返る。

「妙な廃墟」には、怖いウワサがあった。
 女の子が走り回る、という。

 廃墟の中にいると、ぱたぱたぱた……と動くものがある。ハッと目をやると、女の子が駆けて行く。
 真っ白い服を着ているので、月明かりしかない夜目にもくっきりと見えるらしい。
 ただし、そこで人が事故死したとか、殺人事件があったなどという話は聞かない。

「じゃあガセじゃん、ウソじゃん? ってことになるじゃないですか。ところが俺の先輩がですねぇ」

 肝試しに出向いて、「さて乗り込むぞ」と歩を進めた廃墟の手前で。
 屋内に動く人影を目撃したのだそうだ。
 詳しくは語ってくれなかったものの、

「『いや、あれはヤバかったわ。ガチだなあそこは』なんて言うんですよ。そうなると……行きたくなるじゃないですか?」

 一般には理解しがたい考え方である。
 が、鳥山さんは友達3人と連れ立って、「じゃあ、行こうぜ?」となった。
「せっかくの心霊スポット突撃だから」と、時間は夜を選んだ。



 4人乗りの乗用車で山を登って、街灯の少ない道を進んでいく。

 平坦な道を走っている途中で、
「あっ!」
 助手席にいた遠藤というヤツが叫んだ。
「ひと! 人いるじゃんあそこ!」

 驚いて鳥山さん他3人が前方に視線をやる。
 街灯の下に、誰かしゃがんでいる。
 こんな夜の山道に人などいるはずがない。
 じゃあ、あれって。

 うーわ、ちょっとぉ。マジかよ。ヤバいヤバい……とみんなで声を上げる。
 車はどんどん近づいていく。

 しゃがんでいるように見えた人は、実際は倒れている様子だった。
 いや、倒れているにしても平べったい。
 というか、下半身がないじゃん?
 人じゃなくね?
 服じゃね?


 ゆるゆると車は街灯の下に止まる。みんなで降りてみる。
 フードのついたパーカーだった。
 街灯の根本、脱ぎ捨てたように置いてある。

「な~んだよォ~、パーカーじゃん!」
「誰だよ『人だ!』とか言ったのはよぉ~!」
「お前らだってビビってたくせに……」
「オメーが言い出したせいじゃんかよぉ遠藤よぉ!」

 騒ぎの元凶となった遠藤は少しスネた様子だった。
「だって、こんな所に服なんか落ちてると思わねぇだろ?」
「そりゃそうだけどさぁ」
「誰だよチクショー、こんな場所にパーカーなんて捨ててよぉ」
 悔しまぎれなのか遠藤はパーカーをつまむ。
「おい汚ねぇだろそれ」
「いや、これ全然汚れてないし……あれっ」
 指先で揉む。
「なに。どうした」
「……一昨日あたりに、雨降ったよな?」
「あ? あぁ、結構ダーッと降ったな」
「それから今日まで、ずっと曇りだよな?」
「そう……そうだと思うけど。で?」
「乾いてる」
 遠藤はパーカーの袖を握った。
「生乾きでもなくて、カラッカラなんだけど」

 え? と鳥山さんたち3人も触ってみた。
 パーカーは袖や裾、フードのあたりまで湿り気がまるでなかった。
 それに、まるで汚れていない。砂埃や土煙をかぶっていない。道路に接していた部分にわずかに砂利が付着しているくらいである。
 まるで今さっき置かれた、みたいな……

 ちょっと怖い雰囲気になった。
 それを見逃さず、遠藤がパーカーを逆さにして両裾を掴んだ。
「え、何してんの」
「まぁほら、着れるかなぁ~、って」
「いやいやいや! バッカじゃねぇのお前!」
「もったいない精神が沸いてきて……」
「拾った服を着るなよ!」
 暗い夜道に笑いが響いて、場が明るくなった。

 遠藤は「ったく、迷惑だよな!」とパーカーを放り捨てた。ぞろぞろと車へ戻る。
 まぁ本番前のフリとしてはよかったかもね、などと言い合いながら乗り込むと、車は発進した。



 しばらく進むと広い駐車場があって、その端にぽつりと廃墟は建っていた。
 山の月明かりがぼんやりと周辺を照らしている。生ぬるい空気が漂っている。

「お、おぉ。いいじゃん。出そうじゃん?」
「外とか内とかの写真撮って、あとで他の連中に見せようぜ」
「そうなると、奥まで行って撮らねぇとなぁ」
「いやぁ~、肝試しには最高の場所だなぁ~」

 口々に呟きながら建物に接近していく。
 窓がずらりと並んでいた。「屋内に動く人影が」と語った先輩の体験を思い出す。

 4人、誰とも言わず同時に立ち止まった。
 しばらくの間、揃って無言で真っ暗な建物を眺める。

 動きはないし、動くものもない。
 風もなく、物音ひとつしない。

「……よしっ」
「よし、じゃねぇよ」

  止まった時と同様、4人同時に前進しはじめた。

 カギが壊れているというドアを開けて、建物の中に入った。
 飛び飛びについた窓から、月明かりが射している。意外と明るい。

「山の月明かりって結構すげぇもんだな」
「木とか岩とか、遮るモンもないしね」
「あ、そっか」
「街中じゃそういうの、わかんねぇよなぁ」

 廊下は照明なしでも歩けるほどだったが、すぐ脇に並ぶ部屋の内部はさすがに暗い。
 スマホのライトを点けて、光を向けてみる。
 がらんとした部屋ばかりで、面白味がない。

「ハァ~なんだこれ。なんもねぇな?」
「まだまだ序盤戦だからな」
「とか言ってると、白い服の女が、そこを……」
「はは。ビビんねぇよバーカ」


 などと喋りつつ探索していたものの、めぼしいものはない。
 風や雷でも鳴っていたらまた違ったろうが、ひどく静かな夜であった。

 そのうちに遠藤が、
「あ~面倒くせぇな。手前から一個ずつ見ていくのマジてコスパ悪ぃわ」
 とだるそうに体の力を抜いた。
 そうしてから、スマホのライトを廊下の奥にやる。
 先に行くにつれて窓は少なくなり、月明かりもなくなり、あちらはもう漆黒の闇だ。弱々しいスマホの光は届かない。

「俺、奥見てくるわ」
「えぇ~っ?」
 鳥山を含めた3人は声を上げた。

「無謀じゃね?」「床とか壁とか壊れてるかもしれねーし」「マンガだと死ぬヤツだぞ?」
 などとやんわりと止めてみたものの、実際は本気ではない。
「大丈夫大丈夫。穴とかに落ちたら連絡すっから」
 軽口を叩いてから遠藤は「じゃ!」と手を上げ、真っ暗な方へとひとり歩いていった。

「あれは死ぬな……」「幽霊にやられるなアイツ……」「お前のことは忘れないぜ……」

 こちらも軽口を叩きつつ、廊下の隅やら部屋の中を覗いていく。

 いくつめの部屋かはわからない。
 鳥山さんがさっとスマホをかざすと、壁際に四角いものがあった。

「おっ、あったあったぁ!」
 面白そうなものがろくになかったので、自然と嬉しい声が出た。
 3人で浮き足立ちながら部屋に入る。

 事務机だった。
 シンプルな、灰色で無骨な事務机だ。
 そういえばこの部屋はどことなく、他の部屋と違う気がする。職員の事務室だったのかもしれない。

 
 上には何も乗っておらず、経年相応にサビも浮き出ていた。
「書類とか手紙とかねぇの?」
「謎の怪文書とかあったらいいよな」

 引き出しを開ける。左右上段のふたつはカラだった。そのひとつ下もがらんどうだ。
「なんだよぉ、ハズレかよォ」
 そう言いながら鳥山は、いちばん下の引き出しを開けた。クリアファイルや書類ケースを入れる、大きなやつだ。
 3人でスマホをかざして、覗きこむ。

「え」
 空気が止まった。

 引き出しの底に、紙切れが落ちていた。
 コピー用紙を引きちぎったような、手の平にも満たない大きさの切れ端だった。
 その白い紙の表面に、



     サムイ  サム イサムイ
     サム  イ   サムイ
     サムイ サムイ  サムイ
   サムイ サムイサムイ サムイ
    サムイ サムイ サムい  サムイ 
  サムい サムイサ ム イサ ムイ  サムイ
   サ ムイ サムイイサムイ サムイサムイ
 さむい サムイ サムイサムイ サムイ 
さむいサムイサムイ サム イサムイ サムイ





 と、ぎっしり書いてあった。

 え……なにこれ。
 何?

 顔を見合わせたが、3人とも首を横に振る。

 このあたりは温暖な地域で、冬でも雪が積もったり路面が凍結したりは。
 いや。
 いくら寒くても、紙切れにこんな風にびっしりと書き殴るなんて、どう考えたって普通ではない。 
「……こわっ、こーわっ!」
 鳥山さんが飛び退くように机から離れると、あとのふたりも真似するように動いた。
「いや、あれはダメだな。やべー臭いするわ」
「あれの写真、誰か……」
「嫌だよ。絶対祟るだろ。お前撮れよ」

 怖さを誤魔化そうと言い争いながら廊下に出た。そこでふっ、と、建物の奥に目が行った。
「アイツ、遅くね?」
 遠藤のことである。奥に行って20分くらい経っている。
 連絡のひとつもないと、少し心配になる。
「ほら、アイツ夢中になるとガーッとのめりのむタイプだし」ひとりが言う。
 それを受けてもうひとりが、
「そうそう。今の机みたいな変なものがあって、それを漁ってんじゃ」
 と全部言う前に、


「ああああああああああああっ」

 廃墟の奥から絶叫が聞こえた。続いて走ってくる足音が響く。
 遠藤の声だ。それは間違いない。
 しかし。

 絶叫しながらも、何か意味のあることを叫んでいるのがわかった。
 鳥山さんたちは反射的に逃げ出した。
 廊下を走る。
 ずっと先の方から叫び声と走ってくる音。すごい勢いでこちらに来る。
 走りながらなので声が揺れて、内容までは聞き取れない。けれど、

「さむい」

 という言葉が混ざっているように聞こえた。

 その単語を、奥にいた遠藤が知っているはずがない。


 全身が総毛立つ。わけもわからず出口へと殺到した。
 外に出て車へ走る。ロックを外して滑り込んだ。運転席と後部座席、遠藤が座っていた助手席には誰も座らない。

 エンジンをかけてドアをロックした瞬間に、ばしん! と窓を叩かれた。

 遠藤が叫びながら車を叩いている。ぐるぐると回りながら大声を張り上げている。

「おい! あのな! あのなぁ!」

 かろうじてそこは聞き取れるものの、息が上がっているし異常に早口なせいで後の文言はろくに聞き取れない。

 鳥山さんたち3人は、顔を伏せていた。
 叫んでいる中身は聞きたくはない。
 だが友達を山に置いて逃げるわけにはいかない。
 顔をわずかに上げて、どうすんだよ、と視線でやりとりする。
 どうしようもない。

 そのうち、走り回っていた遠藤に疲れが見えはじめた。
 車体を叩く頻度も減り、地面を踏む靴音もペースダウンしていく。

「あのなぁ! あの…… 時は…… ……だからぁ!」

 ほとんど歩くようになりながら、声を張り上げるのは止めない。集中すれば聞き取れるくらいにはなっている。
 3人は怖くて、車の座席で震えることしかできない。


 遠藤の息が絶え絶えになってきた。
 あえぎながら、途切れながらになって。
 何と叫んでいるのかわかった。



「寒いのに 暑く感じて 服を脱ぎたくなった時は 凍え死にかけているのだから 絶対に脱いではいけない」



 そういう意味のことを、遠藤は叫び続けていた。
 叫んでいる内容がわかった瞬間に、鳥山さんたち3人は顔を見合わせた。
 そして。


 あっはっはっはっはっはっは
 と大笑いした。


 どう可笑しいのかわからない。
 理由はないのにやたらと笑ってしまう。
 面白くて仕方ない。
 笑えて笑えて苦しい。

「あはははははは、何が、何が寒いんだよお」
「凍え死ぬわけねえだろお前、あははははは」
「ははははははは。あはははははははははは」
「無茶苦茶なこと言うなよ、あはははははは」

 シートの上で身をよじる。腹が痛い。笑いすぎて顔面がひきつる。息ができない。あはははは、あはははははははは。

 ひぃひぃ言いながら運転席の友人が「しゃ、しゃしん。しゃしん。写真とってやろ」と笑いながらスマホを出した。
 鳥山さんともうひとりも笑いながらスマホを出す。
 全身を笑いで痙攣させながら、車の外を歩いている遠藤をガラス越しに、他の友達の肩越しに、何枚も何枚も撮影する。

 遠藤はまだ「寒いのに」「暑い時は」「凍死する」「脱ぐな」などと途切れ途切れに言っている。
 それがまた可笑しい。可笑しくてたまらない。

 まだ、まだ言ってるよアイツ、本当におかしいよ、あははははは、信じらんねぇ、ウケる、あははははははは、ははははははは、あははははははははははははははは。

 3人は狂ったように笑いながら、車外でよろめく遠藤を撮影し続けた。

 遠藤はゼンマイが切れていく人形のように、動きがゆっくりとなり、足も動かなくなり、声も出なくなっていく。
 その様子がまた面白くて可笑しくて仕方なくてずっと笑ってしまって、頭に血が昇るくらい笑いつづけてしまう。

 やがて、遠藤は膝に手を当てて止まり、そのままドサリ、と地べたに倒れ伏した。



 …………あれっ?

 3人の笑いの発作が急に終わった。
 笑いすぎでフラフラするけれど、外で遠藤が倒れているのは理解できる。

「えっ。おい。おい!」
 運転席の友人と後部座席のふたりが降りるのはほぼ同時だった。
「おい! ちょっ……大丈夫か?」
「どうしたんだよお前」

 抱き起こすようにすると、遠藤は存外に早く起き上がった。
「あ? あぁ、何……なんだっけ? どうしたんだっけ?」
 息が荒く、喉は枯れている。その他には問題はなさそうに思えた。
「俺、なんか、すっげー疲れてんだけど……どういうこと?」

 混乱する遠藤を「とりあえず乗れよ」と助手席に乗せた。
 残っていた飲みさしの水を与えると、遠藤はぐったりと座席に身を沈めた。

「なんにもおぼえてない……」

 枯れた声でそれだけ呟いた。


 車で山を降り、途中コンビニに寄って水やジュースを買った。4人とも叫んだり笑ったりで喉をやられていた。
 遠藤には「半狂乱になって走ってきた」とだけ伝えた。遠藤は「おぼえてないよ……」と再度、呟いた。


 その場で解散という気分にはならなかった。時間も遅く、夜も暗い。この中を歩いて帰ることはできない。
 車で、ひとりひとりの自宅の前に送り届けることにした。

 最初が遠藤の家だった。
 まだ困惑が取れない顔つきのまま車を降り、「じゃあな……」としゃがれた声で挨拶をした。
 鳥山さんたちは彼がマンションの中に入っていく所までをきちんと見届けてから、車を発進させた。


「あの、あのさ」水を飲みながら、鳥山の隣の友人が言う。「あれって、なんだったんだ?」

「わかんねーよ。考えたくもねーし」と運転手が答える。

 鳥山さんも同意見だった。
 全くわからない。
 紙の切れ端のことも、遠藤のことも、自分たちが狂ったように笑ってしまったことも、遠藤の様子を写真に撮ったことも。


 鳥山さんも、自分のマンションの前で降りた。
 外の闇や薄明るいエレベーターホール、エレベーターや外廊下をこわごわと歩いたが、無事、自室に到着した。


 寝巻きに着替えて、ぼんやりとする。
 考えたくなくても考えてしまう。


 今日のことは忘れよう、と思った。
 心霊現象は起きなかったし、祟りとか呪いも今のところ発生していない。
 あそこに行った証拠も……


 写真。
 鳥山さんはスマホを手に取った。

 どうしてあんなに、車の外をパシャパシャ撮ったんだろう。
 どう考えても笑える要素などないし、撮影する意味もわからない。

 
 画像フォルダを開いた。暗いサムネイルがずらりと並ぶ。
 記憶は薄いけれどスマホのライトはつけていたと思う。それでも車内から外を撮ったのだから、大部分が暗い。
 一枚、開いてみた。


「え」

 鳥山さんの心臓が一瞬、停止した。
 それからどんどんと大きく脈打ちはじめた。

 嘘だ。

 次の写真を出す。
 そこにも写っている。
 次の写真にもいる。

 次の写真でも端に見切れていた。
 次の写真にはいなかった。
 けれどこれは窓に密着して撮ったからだ。
 次の写真では肩のあたりが写っていた。
 次の写真では。


「ひ……」
 鳥山さんはスマホを取り落とした。


 後部座席から前方を撮っている一枚だった。
 フロントガラスの向こうに遠藤の姿がある。
 その手前、運転席にいる友人がスマホを持ち上げながら、大口を開けて凄い顔で笑っている。

 その隣、助手席。
 誰もいないはずのそこに。
 座っているものがいた。

 白い服を着ている女だった。

 ブレのせいかピントが合っていないのか。
 体も顔も、全ての輪郭がどろどろに溶けたようになっている。

 女は横を向いている。
 目の位置に、細く糸を引いたような山の形が見てとれた。
 顔の下の方はぼこり、とえぐれていた。


 女は、笑っていた。
 大きく口を開けて、嬉しそうに、狂ったように笑っていた。


 俺たちは車の中で、この女と一緒になって、笑ってたんだ。
 鳥山さんはそう思った。

 写真は全部消したが、満足に眠れなかった。




 翌日、遠藤以外のふたりと連絡をとってみた。
 ごく短いやりとりだったが、鳥山さんの写真と同じモノが写っていることは伝わってきた。

 3人とも、写真は全て消したという。


「いちばん様子がおかしくなった遠藤は、本当に何にも覚えてなくって。ただ疲れたのと、喉をやられただけで済んだんですよね。
 俺らは紙切れ一枚見つけただけなのに、あんなモンに遭遇っていうか、同席して写真にまで収めちゃって。なんか、不公平って言うかね……」



「まぁこういう体験があったんですけど、ヤバい話でしょ? これ。ヤバすぎて今まで誰にも話してなかったんですけど……」
 そこで言葉を切って、鳥山さんは少し得意気な顔つきをした。
「まぁなんで話せるようになったか、っつうと、そこの廃墟ね、取り壊されたんですよね! なのでもうOK。大丈夫。解禁! と」

 廃墟がなくなったからには、女のオバケだって、もう出ませんから! 
 鳥山さんはそう話を結ぶのだった。


 廃墟の跡地に現れるのではないか、とか。
 残骸にくっついて別の場所に出るのでは、とか。
 更地になって人が来なくなると、山を下りて街まで来るのではないか、とか。


 そういう可能性が頭に浮かんだものの、黙っていることにした。



 とにかくその建物は、今はもうない。
 女もいなくなったかどうかは、わからない。




【完】



☆本記事は、無料&著作権フリーの怖い話ツイキャス「禍話」と、怪談蒐集家「煙鳥」さんとのコラボ放送、
「僕らの禍話 ver かぁなっき」
より、編集・再構成してお送りしました。

 なおリライトに関しましては、放送の主催者である煙鳥さんより許可をいただいております。ありがとうございます。
 なお出てくる名前は、煙鳥さんの「鳥」と「煙=えん」を取った仮名であることを申し添えておきます。


【煙鳥(えんちょう)さんとは?】
 怪談蒐集家にして語り手。ニコニコ動画やYouTubeで怖い話を披露する傍ら、竹書房文庫からは「煙鳥怪奇録」シリーズ(髙田公太・吉田悠軌両氏との共著)、『会津怪談』などを出版。
 note(リンク)ではご本人の筆による実話怪談「土地遣い」「足を食べる女」(両作とも『忌集落』『足を喰らう女』に改題し竹書房より刊行)などを読むことができる。
 また斉砂波人名義によるフェイク・ドキュメンタリー小説「Fall down」(リンク)もある。



●大量のおしらせ●



5月23日(木)~
ついに! この男が筆をとった!
カクヨムネクストにて連載開始!(毎週日曜&木曜更新)

(※最新話はカクヨムのサブスク加入で先読みできます。3~4日待てば準・最新話は無料開放)


6月26日(水) 書店発売
6月28日(金) ネット販売
待ってました! 第3巻!!

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7月5日(金) 集英社より発売 
ホラー界、ヤバい奴らの夏祭り!!

(※はっきり言って、すごい面子です)



7月?
 梅田ラテラルさんで、配信/現地ライブ? を、やる? かも?(完全に未定)


8月24日(土)
語り手聞き手、参加者全員、命知らずの巌流島!
香川の孤島で怪談会! 

(※夜の部に参加した方は、泊まりです。孤島で……)


🍐梨さんによる禍話第n回情報募集は、諸事情により休止中です(2024.6.15時点)。よろしくお願いいたします。


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