コラム:「ちゃんとしようよ」

はじめてのコラムを書きます。
実はこれまでに二度ほどコラムを書きかけて断念しているのですが、今回はなんとか最後まで書き切りたい、書き切れればいいなあ、ま、ちょっと覚悟はしておく、という気持ちです。

書きたいことはもちろんジャニーズ事務所のこと。
事務所に対して思うことは数えきれないほどありますが、それらは日々「X」(馴れないですねえ、これ)にポストすることでなんとか気持ちを抑えているといった感じです。
それでも、Xだけではどうしても気持ちが抑えられないものも中にはあり、こうして文字にしてこの気持ちをなんとかしようと試みるわけです。

ジャニー喜多川が半世紀以上にわたっておこなった、夥しい数の子どもに対する性暴力。
意味・人数・期間・影響力・構造など、どこから何を引っ張り出してきても卑劣で非道で悪逆で最低最悪、非難の言葉が追いつかないくらいの極悪な所業です。
そんな行為がなぜ半世紀以上も続いたのか?
再発防止チームも指摘したように、そこには「マスメディアの沈黙」があるわけですが、それだけでは足りません。
そこには、「マスメディアの沈黙」を包括するシステムがあり、それが私がXでたびたび使っている「暗黙のカルテル=利益共同体」というものです。
具体的にいうなら、ジャニーズ事務所・広告代理店・マスメディア(テレビ中心)・スポンサー企業などのことです。
これらのことは、収益構造とそれぞれの役割、金銭の流れなどを考えればわかることではないでしょうか。
ここではそれ以上の詳しいことには言及しませんが、この「暗黙のカルテル=利益共同体」を成立・維持させるには重要なファクター、キャストが必要です。
それはファンの存在。

ジャニー喜多川が子どもに性暴力をふるうこと自体は、再発防止特別チームが指摘したように、ジャニー個人の「性嗜好異常」なのでしょう。
しかし、それを長期にわたって可能にしてきたのは「暗黙のカルテル=利益共同体」があるからで、それを成立・維持できた(今もできている)のは多くのファンがいるからです。
もっとはっきり言いましょう。
ジャニーズ事務所およびジャニーズタレントが存在できるのはファンがいるからです。

ジャニー喜多川の行為は現行法であれば重大な犯罪です(当時も犯罪だったと思いますが)。
そして、ほぼすべての犯罪には加害者と被害者が存在します。
では、ジャニー喜多川がおこなった行為において、ファンはどこに位置するのでしょう?
……ということをここで深堀りするつもりはありません。
私が言いたいのは、数あるジャニーズ事務所が負わなければならない責任のうち、ファンに対する責任がもっともおろそかにされているということです。

ジャニーズ事務所は本日、ジャニーズネット内にファンに向けた注意喚起をアップしました。
リンクは貼りませんが、未見の方は各自で確認してください。
その注意喚起は、ジャニーズ事務所のタレントに対して誹謗中傷等をするな、というもの。
ファンによる被害者に対する誹謗中傷については一切触れられていません。
それについては、先に行われた記者会見で東山紀之新社長がわずか3秒触れただけです。
ジャニーズファンによる被害者への誹謗中傷はずっと(今も)続いています。

ジャニーズのタレントたちは子どもの頃からジャニーズに所属し(といっても本当は「所属」ではなく、専属契約です。タレントは個人事業主。家族やファミリーといったような関係ではありません)、ジャニーズで育って有名タレントになった人たちですから、ジャニーズの人たち(具体的にはジャニー喜多川、メリー藤島、藤島ジュリーら)の価値観・世界観・考え方・やり方などがたっぷりしみ込んでいます。
それが“ジャニーズらしさ”をつくり上げているといってもいいでしょう。
しかし、ジャニーズ事務所が育てた(今も育てている)のはタレントだけではないのです。
言及する人をほとんど目にしませんが、ジャニーズ事務所はタレントを育てているのと同時に、ファンも一緒に育てているのです。
タレントがローティーン、ミドルティーンの頃からジャニーズに育てられているのと同じように、ファンもまたタレントを通じてジャニーズの価値観・世界観・考え方・やり方を、多くは子どもの頃から“無意識に”植え付けられているのです。

今、ジャニーズ事務所は組織としてのあり方が問題にされています。
「タレントに非や責任はない」と多くの人は言いますが、ジャニーズ事務所が組織としてのあり方を問われるのであれば、その価値観・世界観・考え方・やり方等を無意識に植え付けられているタレントやファンのあり方も問われて然るべきなのではないかと私は思うのです。
「タレントは被害者であって加害者ではない」という人もいますが、被害者だから加害者ではないという理屈は成立しません。
犯罪には、被害者でありながら加害者でもあるということは実際にいくらでもあります。
……いえ、ここでは今、そういうことを主張したいのではありませんでした。

ジャニーズ事務所はメリー氏存命の頃からこれまでずっと「ファンファースト」を繰り返し発信していますが、それがいかに実態を伴わない空疎なものであるかは、一部の狂信的ジャニーズ信者でなければ理解していることと思います。

ジャニーズ事務所から発信される公式な文章を誰が指示して、誰が作成し、誰がサイトにアップしているのかはわかりませんが、今、被害者に誠心誠意の対処が求められているときに、自社タレントに対する誹謗中傷だけを注意喚起し、被害者に対するそれには手をつけない。
この期に及んでまだそんな姿勢でいるのがジャニーズ事務所です。
看板(社名)を変えようが、社長を変えようが、株式の保有比率を変えようが、中の人が変わらないのであれば本質は何も変わりません。変わりようがないのです。

そして、実質的にファンをも育てているジャニーズ事務所に対して、誹謗中傷以外にもファンに注意喚起して欲しいことがあります。
それは、全体からみればごく一部なのだとは思いますが、ジャニーズに関してコミットする人たちを敵味方に分け、自分の意にそぐわない人や集団・組織等を左翼、反日、売国奴、共産党、中国・韓国などとむりやり結びつける人たちのことです。
そういう人には何を言っても無駄だと私は自分の経験で感じているので、何かをいうつもりはありません。
でも、大半がそうではないかと思われる、心の中に葛藤を持っているファンの人たち。その人たちのことはどうか救ってやって欲しいと思うのです。
「極端に偏った歪な政治思想や差別的言辞とは距離を取りましょう」とひと言、公式に発信するだけで、大きな効果があると思うのです。
(「政治思想」と書きましたが、正確に言うなら彼・彼女らのは政治思想などではなく、単なる差別です。そういう連中の多くは、政治でどんなことがおこなわれているのか、政策の中身など何も知らないのがほとんどです)
それは常識や社会通念に照らし合わせて、ごく当たり前のことではないでしょうか?
当たり前でないことがジャニーズファンの中で実際に起こっているのです。
それはジャニーズ事務所にとっても、もちろんタレントにとっても憂慮する事態ではないかと思うのですがいかがでしょうか?

タレントだけではなく、ファン一人ひとりにも人生があります。
たった一度きりの大事な人生です。
有名であろうが無名であろうが、お金があろうが無かろうが、どれもみんなその人にとってはかけがえのない人生です。
そして、その人を大事に、大切に思っている人もきっといるでしょう。

ジャニーズのタレントを好きになり、お金と時間をつぎ込みながら青春を、人生を、そのタレントとともに過ごすファンたち。
日々の嫌なことも、コンサートや、出演するテレビ番組・映画・ラジオ・雑誌などに接することで忘れられ、決して大げさではなく、明日への生きる糧にしているファンはたくさんいると思うのです。

そうやってただ自分の好きなタレントを応援しているだけなのに、ジャニー喜多川とジャニーズ事務所を起因とする問題のせいで、いつの間にか訳のわからない陰謀論を発するような一部の人間に取り込まれ、ジャニーズとはまるで違う種類の泥沼にハマりこむファンを、そのまま見て見ぬふりすることは、ジャニー喜多川に対して取ってきた姿勢と何ら変わりません。
ジャニーズファンの大半はごく普通の、どこにでもいる、平穏な生活を望んでいる人たちなのだと思います。
それが今、マスコミのコントロールやチケットの入手等を通じて忠誠を強いてきた事務所のせいで、それと気づかないまま陰謀論を発する「向こう側」に堕ちようとしているファンがたくさんいます。

私は今ここで、中韓差別を云々しているのではありません(中韓に限らず人種差別がよくないのは当然のことです)。
いつか今の騒ぎがおさまったとき、彼女たちに残っているのが陰謀論の泥沼だとしたら、あまりにも悲しすぎると言っているのです。

私個人はジャニーズのあり方に強い批判の目を向けていますが、正反対の認識を持っている人たちであっても、それは仕方のないことだと思っています。
今は絶対的正義を云々する時ではないと私自身は思っていますので(でも、深く掘り下げていけば、必ずそこに行き着くのですが)。
だけど、そうであっても、人ひとりの人生を狂わせていいとは考えていません。
ジャニーズ事務所にタレントとファンの人生を左右している自覚と責任があると考えるのならば、そうした“善良なるファン”に手を差し延べるべきだと思うのです。しかも早急に。

東山さん。
東山紀之さん。
あなたはまがりなりにも経営者なんですよね?
ジャニーズ事務所の代表取締役で、トップに立つ責任者なんですよね?
あなたの考え方、やり方ひとつで、タレントだけじゃなく、ファンの人生も大きく変わるんですよ?
どこまで本当のことなのかは知る由もありませんが、何年か前にあなたの名義で出版されました『カワサキ・キッド』を読みました。
私は韓国や中国に対する差別について、どんなことが起こっているのか詳しいことは知らないのですが、『カワサキ・キッド』には川崎のコリアン・タウンで育った東山さん自身の少年時代のことが書かれていますよね。
私、当時読んで驚いたんです。
一部の者たちによる韓国人や中国人に対する差別が強まる世相の中で、アイドルが韓国人に友好的なエピソードを書いた本を出版するなんて、と。
下手したら差別者たちにバッシングされるんじゃないかとも思いましたし。
よく事務所がOKしたものだと。

あなたがどんなに長生きしたってあと50年くらいのものでしょう。
現役で今の職に就いていられるのはもっと短いですよね?
その短い間でも、あなたにできることはたくさんあるはずです。
あなたやジャニーズ事務所が、極端に偏った政治に絡めた差別思想や、めちゃくちゃな陰謀論を肯定しないのであれば、どうかタレントのことだけを考えるのではなく、あなたたちが育ててきたファンも救ってやってください。
あなたとジャニーズ事務所にはそれができますし、あなたたちにしかできないのです。
ましてや、東山さんは『カワサキ・キッド』の著者じゃないですか。
それほど長くはない残りの人生、ちゃんとしましょうよ?

どうか、どうか、本当によろしくお願いします。


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