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おばあちゃんのノート

亡くなった祖母がまだ元気だった頃、何かにつけてノートを取り出し、あれこれと書きつけていた。

それは読んだ本の名前や感想だったり、気に入った短歌や俳句だったり、新聞の切り抜き、ラジオで聴いたいい話、思いついた時だけ少し書く日記、そしてきっとばあちゃんが「なるほど!」と感心して書き留めたのであろう様々な知識。

「おばあちゃん、ちゃんとメモしてあるから。ほら見てご覧」と時折差し出された手帳をじっくりと読むことが出来たのは、祖母がもう長くない、ということで呼ばれた病室でだった。

「青丹よし 青=緑 丹=赤 春の奈良は緑と赤が美しい」
「蒲団 昔、綿を入れたふとんができる前はガマの穂を詰めていたから」
「千両箱の重さ=15kg」
なんと勉強になることか。

子供の頃、よく野毛山動物園に連れて行ってもらった。

あんまり面白いので、ノートをめくりながら母や弟たちとあれこれクイズを出し合ったものだ。

「日本の癌患者第1号は誰?」 「答えは岩倉具視」
「太平洋戦争の開戦勅書を書いたのは誰」 「徳富蘇峰」
「ルビの語源は」 「イギリスで活字の大きさを宝石の名前で呼んでいたことによる」

そんな面白知識のあいだに「日本尊厳死協会」の連絡先なども書かれていた。人生や老い、死への覚悟を意識させるような言葉たちも。

大さん橋に船を見に行ったり。

「ホント面白いな、このノート。何度でも読みたいもんな」と弟は感心し、「この人博学なのよね」と母がしみじみ言っている横で、私は「私もこういうノート作ろう」と心に決めていた。

そんなわけで。

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