バイト先のお客さんと付き合った話 2 仕事をする姿

バイトが終わり、先輩とマダムと共に生田さんの職場へと向かった。

先輩はバイク、私とマダムはママチャリを押しながら3人で歩いた。

バイト先から徒歩5分ぐらいのところに生田さんのお店はあった。
男性専用の美容室らしい。理容室というのだろうか。(ちなみに先輩と生田さんは「メンズサロン」と言っていた)

お店はガラス張りで、お客さんの髪の毛を切っている生田さんの後ろ姿が見えた。
生田さんの正面には鏡があったので、髪の毛を切る生田さんの顔も鏡越しに見えた。
お客さんの髪の毛を切る彼は柔らかい笑顔だったが、真剣さも窺えるようなまっすぐな眼差しだったのが印象的だった。

不覚にもちょっとドキッとしてしまった。
私のレジに来る時は下を向いてペコペコしているだけのちょっと変な彼だが、仕事をしている姿はかっこよく見えた。

髪の毛を切っている最中、お店の外で彼を見る私たちの姿が鏡越しに見えたらしく、一瞬だけ驚いたような顔をしたのがわかった。

この人はこんな表情もするんだ、と新鮮だった。

先輩が生田さんに鏡越しに手を振った。
生田さんはニコッとしながら会釈した。

笑顔が超かわいかった。子犬みたいだった。
それだけでちょっと好きになりそうだった。

生田さんはしばらくお客さんの髪の毛を切り続けていた。

「なんか忙しそうだし今日は帰っか。暇な時はお店の外まで来てくれるんだけどなあ」

「そんなに仲良いんですか?」

「んだよ、よく飲みにも行ってるしな」

その日はそこで解散することになり、帰路についた。

どうでもいいけど、先輩は見た目も中身もまあまあDQNだ。

当時DQNの男子の間で流行っていた、髪の毛をピーンとまっすぐにする縮毛矯正をかけており(いつも生田さんにかけてもらっているのだそう)ちょっとロン毛だった。
それなのに真面目そうなメガネをかけているのがチグハグで面白かった。

先輩は私の明るくておバカな性格を気に入っており、

「あのこってマジでおもしれーよな!今度タイマンで飲もうぜ!」

と言ってきたことがあった。

いわゆる「サシ飲み」のことを「タイマンで飲む」と言ってくるセンス。いかにもDQNという感じがして面白かった。
結局「タイマンで飲む」ことは一度もなかったのだけど。

帰ってからはなんとなく満たされて幸せな気持ちになっていた。

レジに来る時はあんなにペコペコして下を向いて無表情なのにな。
笑顔がとってもかわいかったな。

その日は寝る前まで彼のことばかり考えていた。

今度バイト先にやってくる時、どんな顔をして接客しようかなと思った。

続く

関係ないけど今日は誕生日。35歳になった。アラフォー。これからもしたいことをして着たいものを着て食べたいものを食べて生きていたい。

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