バイト先のお客さんと付き合った話 3 風邪と動揺

お店に生田さんを見に行った数日後、私はなぜか風邪を引き、声がいつもより3オクターヴぐらい低くなった。

咳も止まらず、病院でもらった薬を飲みマスクをしてバイトに臨んだ。

声と咳がひどいこと以外はいつも通りのバイトの時間。
その日は夕方まで授業があったので、夜からのシフトに入っていた。

19時頃、生田さんが私のレジにやってきた。
仕事終わりだろうか。

ちょっとだけ緊張したが、いつも通り愛想良く接客をこなした。(声はめっちゃ低かったけど)
生田さんも生田さんで、いつも通り下を向いてペコペコするだけだった。

何かしら話しかけてくれると勝手に思っていたのでちょっと拍子抜けした。

もしかしたら、この間お店の前まで見に行った時に先輩の隣に立っていたのが私だとは気付いていないのかもしれないなあと思った。

会計を終えていつものようにレンタルDVDを手渡す際、生田さんが受け取りながら私を見て何か言葉を発した。

「……ですか」

かろうじて聞き取れた言葉は「ですか」のみ。

「え?」

「大丈夫…ですか」

「え?何がですか?」

すると彼は慌てて自身の口の周りを両指で四角くなぞりながら

「あ、マスクで…声、風邪…」

と言った。

物静かな感じの彼が滑稽な動きをするのが面白くて思わず笑ってしまった。

かくいう私も突然話しかけられてかなり動揺していたため

「あ、えっ、はい、あ、ありがとうございます」

とめっちゃ低い声で返しながらペコペコした。
なんだかいつもの生田さんみたいなペコペコだな、と思った。

生田さんは私に軽く会釈し、小走りで店を出て行った。
腕をまっすぐ下に伸ばして小股な上に内股で走って出て行った。中学生の女子みたいだなあと思った。

接客を終えて落ち着かないまま仕事を再開していると、隣のレジにいた後輩の女の子が一連の流れを見ていたらしく

「何ですか今のやりとりは」

とニヤニヤしながら聞いてきた。

「いや、別に何でもない」

と返したが、他の同僚たちも

「見てたよ」

「僕も見てました」

「いつも来るよねあの人」

などと言ってきた。

レジ近辺にいるスタッフ全員に見られていたのである。

バイトが終わってから、後輩の提案でみんなでファミレスに行くことになった。

ファミレスでみんなに彼の情報を話したところ大盛り上がり。

「あのこさんのこと好きなんじゃないの」

「いや、そんなはずないでしょ。DQN先輩も特に何も言ってなかったし」

「でもあの人いつもあえてあのこさんのレジ狙って来てますよね」

「やっぱそうですよね?!私も思ってました」

「え?そうなの?」

「むしろ気づいてなかったんですか?!」

「ていうかあのこちゃんもちょっと好きなんじゃないの?」

「いや、別にそんなことないと思うんだけど…」

とりあえず夜も遅いし私の風邪と声もやばいので、早めに解散となった。

その日からちょっとだけ彼に対する恋愛感情が芽生え始めた。

続く

関係ないけど新入社員に1人とんでもないマウント女がいて面白い。鼻につくけどマウント話は面白いのでもはや毎日の楽しみになっている。

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