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ワクチンで「黒幕が人類管理」「人口削減が狙い」…はびこる陰謀論、収束の妨げにも

新型コロナウイルスを巡り、SNS上で「感染拡大はウソ」「世界の黒幕が、ワクチンで人類を管理するのが目的」といった虚偽の言説が広がっている。欧米では昨年から、不満や不安を背景に同種の陰謀論が浸透し、社会問題になった。日本でも緊急事態宣言下で経済的に困窮する人が増えており、惑わされないよう注意が必要だ。

上の文章はR3.9.14の読売新聞の記事です。そこでは東大特任講師(科学コミュニケーション論)の先生の「陰謀論は荒唐無稽に見えるが、政府などが科学的に正しい情報を発信するだけでは広がりを防ぐのは難しい。全ての人間に備わっている(認知バイアス)が関係しているからだ。」という分析を紹介しています。後追いとして同日夕刊フジが

ナゼ?頭のいい人も信じてしまうコロナやワクチンめぐる「陰謀論」 発信元は専門知識ある愉快犯…善意で情報拡散も

という見出しの記事で、「発信元はごく一部の専門知識のある人の愉快犯と考えられる。医療従事者や公務員など知的な人や若い人も信じやすく、善意で情報を拡散する傾向にある」という電通大の先生の分析を紹介しています。いずれの記事も、困った人がいるからそれに煽られないように注意が必要だという論調ですね。

このnoteにもコロナ陰謀論の記事を書いている「困った」方がおられます。しかしこれらの方々の書く記事はどうも「困った」と受け取られておらず、むしろSF小説のような娯楽として人気を博しているようです。陰謀論ファンなら「メディアはそのように大衆を洗脳している」と思うのが楽しいので、このような記事は「困った人」の主張の信憑性及び信頼性を向上させるものになっており、「困った人」は寧ろ大歓迎していることでしょう。

読売が取材した東大の先生の言葉から「政府がいくら正しく情報を発信してもどうしようもない」という嘆きが読み取れます。しかし失礼を顧みず忌憚なく申し上げれば、苟も最高学府の先生にしてはツッコミが甘いという印象を持ってしまいました。(まだ若い先生なのでしょう。突然取材されて当たり障りのないコメントをしたら、このようなボケ老人に文句をSNSに書かれて、気の毒に思います。) 

私は昭和30年代の生まれ、高度成長期の真っ只中が子供時代です。当時の公害、環境破壊は現在と比べ物にならないくらい酷いものでした。しかし当時のメディアはちゃんと機能しており、そのおかげで公害が激減したと言えるでしょう。例えばゲゲゲの鬼太郎やウルトラセヴンという当時の子供向けのテレビ番組ですら自然に対する人間の傲慢さを批判するメッセージが込められており、それが子供の心にしっかり届いていたのです。対して今のメディアの「陰謀論に煽られないようにしましょう」キャンペーンでは、なぜ陰謀論が生まれるのかという分析がかなり表層的に思えます。陰謀論が生まれるには大衆が不安を感じているという土壌が欠かせませんが、大衆を不安にさせているものに鋭く切り込んでいく姿勢が感じられないのが残念です。確かにコロナはインフルエンザよりも致死率の高い怖い病気です。東大の講師の先生は誰もが持つ認知バイアスのせいだと言われますが、そのバイアスは如何に作り出されるのでしょうか?生来のものだけでしょうか?読売は苟も900万部という世界最大の発行部数を誇る新聞なのですから、そのあたりをキッチリ詰めて読み捨てされない記事を配信してもらいたいものです。

以下は日本固有の認知バイアスに関わるお話です。イギリスでは12〜15歳の子供に対するワクチン接種が議論され、それを行わない決定をしましが、またこれが覆されたました。このように紆余曲折しながら大事な問題の対策が決められているように見えます。それでは日本ではどうでしょうか?いつの間にか12歳以上の接種が始まったように思えませんか?一体、これはどういうことかとボケた頭でネットで検索してみました。幸い日本のお役人様は几帳面なので、それがいつどこで行われたかはすぐに分かりました。今年の5月31日開催の第22回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の会議です。その会議資料はここからダウンロードできます。

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000192554_00010.html

実はこの会議資料は、会議の四日前の5月27日に権威ある医学雑誌、The New England Journal of Medicine (以下NEJM)で出版された論文をベースにして作られていることがわかりました。(Safety, Immunogenicity, and Efficacy of the BNT162b2 Covid-19 Vaccine in Adolescents)厚生労働省のお役人様はたった三、四日しかない期間に徹夜で資料を準備されたのでしょう。その献身及び事務能力の高さに敬意を表したいです。この分科会の直後にその上部会議である審議会が開催され、そこでワクチン接種の年齢の下限の引き下げの承認が答申され、これを受けて厚労大臣はその翌日の6月1日にこれを認める通達を出していることがわかりました。お役人様ご苦労様でしたと言いたいところですが、この会議が予定調和の形式的なシャンシャン会議、つまりは唯の儀式に過ぎないことは、私のようなボケ老人ですらわかります。子供に対するワクチン接種は万国共通、非常に関心の高い問題です。日本ではこのような問題ですらシャンシャンと決まるのです。これは大多数の日本国民がうすうす知っていることですよね、

これに対してイギリスでは日本より三ヶ月以上かけてこの問題を議論し、その過程を曲がりなりにも公開しています。最後は政治的な決着なのだろうと推察されますが、しかし少なくとも、透明性、道徳性を保ちたいと言う姿勢を見せようと努力しているのは国民に伝わったでしょう。それでもイギリスで陰謀論は無くならないのです。アメリカの決定を易々と受け入れ、形式的な会議を行ってその体裁を整えただけの日本政府は、アメリカを支配する黒幕の言いなりになっていると愉快犯に言われても、明確に反論できないのです。このように日本の土壌は愉快犯にとっては実に都合がいいものです。下々はお上に従いますが、決してお上を信じているわけではありません。政府は所詮アメリカの言いなりと言うバイアスが存在するわけです。先の新聞記事の分析にはこのことが欠けているのですね。

なお、厚生労働省の資料の中に個人的に興味深いと思われる箇所を見つけました。委員に配るプリントの最後のほうに、ワクチン接種との因果関係が否定されない重篤な有害事象が約1000人の治験接種群の中から一件あると言う説明があるのですが、委員に見せるスライドではワクチンとの因果関係が否定されているとなっているのです。約0.1%の重篤な有害事象の発生は看過できないことですので、この不整合は見逃すことは出来ず、そこで基になった英語論文を鉛筆舐め舐め、辞書ペラペラしながら、読んでみました。すると重篤な有害事象のワクチンとの因果関係は客観的にではなく、治験考察者の主観によって否定されていることがわかりました。このあたりも陰謀論者の好物となるネタでしょう。以下に小説風に書いてみました。

正義感に溢れた若き厚労官僚が、会議出席者に配布するプリントに因果関係は否定できないとする客観的説明を書き入れた。さらにスライドもそれに合わせて準備した。会議当日朝、資料の完成を待ち侘びてやきもきしていた様子の上司がチェックする。出世頭だけあって切れ物だ。早速問題箇所を見つける。

「おい、こんなスライド見せられたら委員の先生方はお困りになるだろう。会議が進まなくなるぞ、すぐに直せ。」

「でも事実を曲げることは出来ません。」

「お前、よくそれで国I通ったな。事実なんて光の当て方でなんとでも表現できるだろ、だからおまえは出世できないんだよ、事務次官になって奥さんにマホガニーのシステムキッチンで料理してもらえないんだよ、いつまでもボロい宿舎の狭い風呂に足を曲げて入っていたいのか?いいか、この論文のここを読んでみろ、因果関係がないと治験考察者によって考えられているってところだ、つまり否定されてんだよ、わかる?」

「でもそれは客観的ではなくあくまで主観で、、、。」

「主観であっても否定されたんだ。それが客観的な事実だ。いいからさっさと直せ。お前がやらないなら俺が直す。」

しかし若き厚労官僚は配布プリントに因果関係は否定されないと書いたことを上司には黙っでいた。せめてもの意地だ。彼が上司のように出世していくかどうかは、誰もわからない。