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農業なんてやってられません

これからの農業は大規模化して若い人が希望を持てるように目指したいっていう記事をよく目にします。若い人が希望を持てるっていうと、やはり農業所得が1000万円を超えるくらいが最低ラインでしょう。そうでないと袖ヶ浦ナンバーのポルシェに乗って丸の内のOLを迎えに行くのは夢のまた夢になります。どのくらい頑張ればそうなれるのでしょうか。

米価は低迷を続けています。消費者としては嬉しいですが生産者としてはかなり厳しいでしょう。一俵60kgでたったの一万二千円です。一反(10a=1000平米=300坪)あたりの収穫量が大体8俵くらいとして、一反当たりざっくり10万円です。ところがそれにかかる経費はざっくり8万円くらいになります。つまり一反あたりの収益はたったの二万です。1年間(特に春季と秋季)、汗水垂らして働いても、市原の格安ソープに1回行ったらそれでおしまいです。つまり農業収入1000万円プレーヤーになるには500反、つまり50町(=50ha)、もっとわかりやすく言えば東京ドーム10杯分以上の規模のプロ農家にならなければなりません。こんな規模の農家って北海道以外でどれくらあるって言うんでしょうかね。

もし私が50haの田んぼを持っている地主なら、自分では農業やりません。農業委員会には体力的に。。。って言って誤魔化して、その裏でしっかり小作人に作らせて小作料を取ります。これでな〜んにもしないでも年1000万以上の小遣いが入ってくるんです。就農希望の若い人が増えればもちろん大喜びです。応援してますよってくらい、ニコニコして言いますよ。手元に入った小作料を丸の内の尻軽OLに注ぎ込むのもよし、あるいは銭ゲバのように貯めそして80過ぎた爺婆の猫の額のような農地を二束三文で買い叩き、オーナーの勢力範囲を拡大していくのもよしです。

若い人は当然このような小作人人生を送ることは望まないでしょう。斯くして日本の農業は衰退するのです。これを食い止める方法はあることはあります。例えば定年退職したおっさんの就農です。こう言う類のおっさんは例えばサライの読者に多そうです。おっさんには年金があります。子供もすでに巣立っており、住宅ローンも完済しています。そして有る程度鍛えていれば八十過ぎの爺婆百姓よりは動けるでしょう。おしどり夫婦なら都内あるいは近郊の住宅を売っ払って夫婦で移住してもいいですし、そうでなければおっさんだけ崩れかけた古屋をちょっと手直ししてそこで暮らして、年金の大半を奥様に差し上げるってことになるかもしれません。まあそれでも少なくともストレスから解放された生活を満喫できるはずです。しかしそれでもやはり就農のハードルが高すぎると思ってしまうはずです。

水田の小作人のお仕事は、荒起こし、代かき、苗代作り、畦塗り、田植え、草取り、刈り取り、脱穀、乾燥、籾摺り等等です。荒起こし、代かきにはトラクターが必要になり、田植えには田植え機が必要になります。トラクターは1馬力当たり10万くらいで、ちょっとしたのでも新品なら150~200万円くらいします。2馬力くらいのマメトラを中古で10万以内で仕入れても、かなり割高感があります。多分、新規就農先は中山間地の耕作放棄地です。やはり立ち上げにはそれなりのトラクターが必要になるでしょう。草刈機もいるでしょう。そして田植え機も高いですね。2条植えの手押し式でも新品だと40万を超えます。10万以下の中古しか候補に上がらないでしょう。稲刈りは定年過ぎたおっさんが鎌でやるのは大変でしょう。かといって何百万もするコンバインなんて贅沢すぎます。稲を刈り取って束をむずぶバインダーなるものがありますが、これも中古で10万くらいはします。その他、脱穀機、籾摺り機もバカにはなりません。ご近所の40、50代のうら若き奥さまとエロ話しながら千歯漕ぎってのなら楽しい爺もいるかもしれませんが、五万円で買った足踏み式脱穀機を使って一人で黙々と作業するっていうのは仏道の修行に近いものがあるでしょう。収穫量が少ないとは言え、やはり中古の動力付き脱穀機や電動籾摺り機(各10万くらい)が欲しくなります。このようにたった一反の猫の額のような田んぼの小作人になるのですら、初期投資にはなんだかんだで最低100万円くらいかかってしまうのです。いくら年金生活者の小遣い稼ぎとはいえ、年2万の収益を上げるために100万の投資はアホですよね。私なら不動産投資でもやりません。よほどのマゾ的思考の持ち主か、あるいは農作業に憧れてしまっている方(可愛い孫に手作りの無農薬の安全な米や野菜を食わせてやりたいと願う方も含みます)以外は手を出さないでしょう。たとえ地域の方々の協力が得られ、これらの設備を格安で借りることができたとしても、まだ不安は払拭されません。苗代ってどうやって作ればいいの?トラクターなんて運転したことない、まして田植え機なんて。。。。チャレンジ精神に富んだ爺しかやれませんよね。日本の爺は情けないことに大半がワクチン4回以上打ってます。そんなヘタレにそれを期待するほうがどうかしています。いわゆる福岡正信クラスの人物が出家するつもりでないとなかなかできないことだと思います。折角、農業の担い手として年金爺を考えて見ましたが、あまり期待できそうも無いと言う結論になってしまいました。

自然農法の教祖様の名前が出てきたので、私の自然農法に対する感想を最後に述べておきます。YouTubeでよくアップされておられる自然農法の方々はみんな幸せそうです。でもそれが農業の主流にはなれないことも分かっておられるようです。自然農法の農業は儲かるなんて決して言いません。その代わりお金では買えない幸せはよく聞きます。そもそも福岡さんが自然農法を始めたのは、いわゆる悟りを得てからです。悟っていない衆生を端から相手にはしていないのです。悟られておられない方が福岡さんに憧れてその真似をしようとしても、悟っていないのでそれは苦痛になり、やがては安易な方向に流れて行くでしょう。土壌に微生物がたくさんいても見えないので気になりませんが、畑に大百足がいればスコップで叩きまくるはずです。虫と友達になるのは無理なんです。でもね、私はそれでいいと思います。思想・哲学から始まった自然農法ですが、それが農業の低コスト化に繋がるのなら大変結構なことだと思うのです。例えば、知多半島あたりの田んぼでは田植えが省略されています。不耕起V字なんとかという方法で、冬に代かきし、その後、水を引いて草ボウボウの乾田にして、V字の切れ込みをいれ、そこに種籾を直播し、芽が伸びたころあいを見計らって湛水するっていう農法です。これ、不耕起ってところからわかるように自然農法がヒントになってます。しかし除草剤をたっぷりつかうってところは全く違います。要するに省力化なんですね。確かに苗代作りのハウスや暖房は入りませんが、資材は結構入れるようです。私が自然農法をやっておられる方々に期待したいのはそんな紛い物の農法ではなく、究極の格安のサボり農業の確立です。自然農法の動画ではおっさんが一人で黙々と作業していますが、田植と稲刈りの段になると大抵大人数、おっさん、にいちゃん、おばちゃん、子供が現れて、和気あいあいとやってます。楽しさアピールなんでしょうが、私はひねくれ者なので、あれはボランティアだからなんとか採算が取れるが、もし人を雇うとなると、田んぼの借り賃もあるので、格安ソープにすら行けなくなるどころか赤字ってことになってしまいそうだなって思います。やはり一人でもできる楽ちんな自然農ってないのかって思ってしまうのです。つまりどうせ農業は儲からないのだから、自然農は自給に徹する。そのかわり安心できるものを楽に格安に作る。これをもっと前面に出された方が良いのではと思います。福岡さんの高尚な哲学はその後で良いでしょう。一般の消費者は大半が家畜なので、規格化されたものしか食いません。不揃いな人参10本200円より大きさが揃った人参3本200円を選ぶのです。そんなのを相手にする必要はないのです。親父は生前、不揃いのキウイを何百個も送ってくれました。その豊かさを理解するものを幸せにできればいいのです。