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十八番   #ショートショート

「もう、アナタとは暮らしてゆけないわ。」

突然の妻の言葉に、私の思考は止まってしまった。
予想もしない事態に、脳みそは機能停止してしまったのだ。
思わず出た言葉は、
「へっ!」
更に空気は最悪に。

なんとか言葉を絞り出し、
「どうして?何故?WHY?」
空気を和ませようとしたが、逆効果だった。

「アナタは、私なんか気にも留めていないでしょ!いつも他のメスばかり見てるじゃ無い。」
返す言葉も無い。

「私の良いところを18個言えたら許してあげるわ。」
「18個だって!」
「どうせ言えないでしょ。」
「そんな事は無いよ。」

脳細胞をフル回転させて搾り出す
「スラリとした長い足」
「すべすべした肌」
「つややかな爪」
「柔らかな産毛」












なんとか17番目に
「糸を紡ぐのが上手。」
と答えて18番目が出てこなくなった。
悩みに悩んで
「綺麗な目が18個並んでいる。」

せっかく優しくなりかけていた妻の眼は、18個全てが、つり上がってしまった。

5000万年経っても、夫婦げんかは今も昔も変わらない。

5000万年後の地球は、人類が滅亡し、昆虫類が繁栄してゆく中で、それらを補食していた蜘蛛が、その生態系の頂点に君臨していた。
5000万年の間に、八つだった目を十八に増やしながら。

種(しゅ)が変わろうとも、オスはメスを褒めるのは十八番(オハコ)ではないようだ。
特に、長く夫婦(ペア)だった場合には。

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