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HITO対ワクチン

私たちは、久しぶりに地球に戻ってきた。
地球上でのHITOの増殖状況を確認するためだ。
地球時間にして100年ぶりになる。

100年前
増えすぎたHITOの増殖を抑えるため、私たちは、地球環境を守る目的でH1N1型ワクチンの散布を決行した。
最初に散布する場所を決めるにあたり、HITOが活発に活動し、地球環境に大きな影響を与えていると思われる場所を探した。
そして、調査の結果、大きな陸地の西端付近に白羽の矢を立てた。

この地域のHITOは、生活圏が広く、他の地域まで活動範囲を広げており、UMIと呼ばれる地球の水蒸気が液体として広く存在する所でさえ、HUNEによって移動活動を活発にしており、H1N1型ワクチンの広がりに適していると思われたからだ。
また、この地域のHITOは、皮膚の色も白く、ワクチンの効果が確認しやすいのではないか、との意見もあったからだ。

これらの予想は、見事に的中し、地球全体に広がったワクチンは、HITOの3分の1に影響を与え、1億程度の減少を達成することが出来た。
HITOは、このワクチンに「Spanish flu」と命名し恐れていたようだ。

そして100年後、私たちは戻ってきた。
ワクチン散布効果のその後を確認するためだ。

暫くは地球環境も保たれるだろうと思っていたが、HITOは、そんなにも簡単な生物ではなかった。
100年後の地球環境は、Spanish flu型ワクチンに適応してしまったHITOの増殖によって、ますます悪化の道を歩んでいたのだ。
私たちが、苦労して増やしてきた種(しゅ)のいくつかを絶滅させてしまっていた。

私たちは、この現状に新たなワクチンの必要性を共有するようになった。
そこで、新型のワクチンを製造するにあたり、「変異しやすい」という特性をワクチンに持たせ、HITOの適応性に対抗させることにした。
1度の効果だけでは終わらせないためだ。

新型のワクチンの開発に成功した私たちは、そのワクチンを「SARS-CoV-2型ワクチン」と命名し、新たな散布地域の検討に入った。

100年の間にHITOの分布が大きく変わっており、今回は、最も多くのHITOが生息する地域を最大の因子とし、大きな大陸の東部にワクチンを散布することに決定した。

さっそく、HITOが多く集まるICHIBAと呼ばれる場所に散布すると、SARS-CoV-2型ワクチンは瞬く間に広がり、HITOの社会は混乱し始めた。
この頃になるとHITOは、高速で移動する手段を手に入れており、ワクチン効果は急速に地球全体へと広まった。

第1波は、効果が大きくなる前に終息へ向かったが、これは、予想の範囲であった。
100年前よりも文明を進化させていたHITOは、多くの対策を立てて来るだろうと、私たちは予想していたのだ。

一度目の波が収まると、HITOは安心して活動を再開した。と同時に、計画通りにSARS-CoV-2型ワクチンは変異をし、第1波よりも大きな効果を現し始めた。
第2波に対してもHITOは、多くの対抗策を取り始め、また終息へと向かった。
しかし、これに対しても、何度もSARS-CoV-2型ワクチンは変異をし、第3波、第4波とくり返しながら、ますます大きな効果を発揮していった。

「大成功だ!」

やっとHITOの増殖も止まり、これで地球環境は守られると、私たちは安堵した。

しかし
しかし
しかしである

SARS-CoV-2型ワクチンは変異をする度に、更に多くのHITOに影響を与えていったが、何故かHITOの減少が見られなくなってしまったのだ。

気が付けば、HITOは、SARS-CoV-2型ワクチンを、その形から、太陽のコロナになぞらえ「covid-19」と呼び、共存の道を選択するようになってしまっていた。
HITOは、「with covid」を軸足として活動し始めたのだ。

これでは、もはやこれ以上の効果は期待出来ない。
私たちは、このイタチごっこに疲れ果て、地球を後にした。

100年後にまた実施する計画を練りながら。

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