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Twiggyウィルス  #ショートショート

ある研究所から、患者が救急搬送されてきた。
初めて見る症状に、救急担当医師は困惑した。
患者は、まるでミイラのように痩せ細っていたのだ。

世界では、多くのウィルスの研究がされている。
人類にとって有益なウィルスではなく、危険なウィルスの研究がされているのがほとんどだ。
何故なら、そのウィルスが人類に広まった際、ワクチン製造などの基礎研究ともなるからだ。(注:一部では戦争兵器としての研究も噂されている)

そんな中、新たなウィルスが、日本の研究所で発見された。
脂肪をエネルギー源に増殖するウィルスだ。

発見されたウィルスは、体内に蓄積する脂肪を分解し、それを成長エネルギーに変える特性を持っており、Twiggyウィルスと名付けられた。
この特性は、美容業界にとって大きなビジネスチャンスであることから、研究には多くの資金が提供されることとなった。

そもそも人の遺伝子は、自然界での食料不足等に対処するため、脂肪を蓄える機能を有している。
新しいウィルスは、その機能を破壊する恐れがあり、人の遺伝子に含まれる情報に悪影響を与える可能性に危惧されていたからだ。

そんな状況の中、女性研究員が、規定を破り、自分自身を検体にしてしまった。
彼女は、好意を寄せていた男性が、「スレンダーな女性が好み」だと言う噂を聞いていたのだ。

救急搬送された女性の痩せ細った姿を見て、医師は、緊急的な栄養補給を指示したが、既にその命を保つだけのエネルギーは残っていなかった。そして、思いを寄せていた彼が、自分に好意を寄せていたという事実を知らないまま息を引き取った。

駆けつけた彼は、その死の原因を知り、涙を流しながら、彼女の唇に最後の熱い口づけを捧げた。
それが、人類を重大な危機へと導くことも知らずに‥‥‥。

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