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壁。

 ビルは壁だ。僕を取り囲む、堅牢な壁だ。

 僕が今まで歩んできた道にビルはなかった。僕は大空の下で育ち、広がり続ける地面を駆けた。学校には真面目に通ったし、勉強にも熱心に取り組んだ。

 思えば、僕が言われたことをこなす毎に一段一段ビルは積み上げられたのだと思う。僕が自分の気持ちに従って、思うがままに行動しさえすれば。そうすれば、この牢獄が僕を受け入ることはなかった。僕が自分自身を確立することができかったから、牢獄は僕を迎え入れた。

 牢獄から飛び出すには、強い意志が必要だ。しかし、方法は分かりきっている。脱獄は決意さえ揺るがなければ簡単である。ドアは開いているのだ。

 しかし、僕を含めここに囚われている人々は、ドアに足を運ぶことすらでいない。初めから分かっていて、ここへ入獄したのだ。

 ビルは一段一段、今なお堆く建立する。「こんなとこ、来なければいいのに。」自分自身に問うことはできない。僕は、ダブルスタンダードが得意なのだ。

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