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夢遺し。

 「ここいらでこの記憶も混ぜておこうかしら」

 私は半年前の記憶を取り出し、ボックスに入れる。だいぶ、形になってきた。

 「あとはこの感情を入れて…と」

 夢遺しは、その日の夢を拵える仕事だ。頭の中にある煩雑とした記憶や感情を整理して、夢に昇華させる。毎日夢を象るのだけれど、ほとんどはうまく形にならずに消えてしまう。整理がてきとうであったり、調合を間違えると形にならないのだ。夢遺しになってから二年。修行期間を含めればもっと長いけれど、ようやく様になってきた。

 「さて、うまくいくかしら…」

 どのような化学反応が起こるかはわからない。法則のようなものはほとんどない。経験を積むことで、これは形になりそうだな、という職人的勘を養うほかがないのだ。今日の手応えはまずまず…。

 ボックスを閉じ「完成」の付箋をつける。なぜ、私が夢を遺しているかは分からない。気づいたら修行をしていて、夢遺しという職業に就いていた。私が夢を象ることに失敗することでどのような不具合があるかは分からないが、夢を見ることがかけがいのない何かであることを願って、私は次の夢遺しに移る。

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