ベンチ。

 「人が死ぬのって、素敵よね」

 僕もそう思う。ふと、現実事であったとは思えない戦争を振り返ると、様々な形の死を目撃する。数理統計的な死、信仰的な死、魑魅魍魎的な死。死のデパートと言えるくらい、人間とは何かというテーゼが発せられ続けた事象だった。

 死体が、枯葉を掃くみたいに積み重ねられている。僕はそれを見て、畏怖の念に駆られてしまった。それは、確かに褒められる体験ではなかったかも知れない。しかし、僕はおそれおののいた。死体の畏怖体験は、それが二次元に落とし込まれているからではなく、人に根付いている神経のようなものだ。

 「人が死ぬのって、素敵よね」

 栞をはさむ。パタン。風は冷たく、僕はひとつくしゃみをした。

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