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石像の涙。

秋も深い公園は閑散であった。ただ斑の大きな1匹の天道虫が、小刻みよく羽音を響かせて悠々と飛んでいた。天道虫は、粛々とした石像の眼球に止まった。その石像は命が宿ったかのように、瞳を燃やした。

風が強く吹いた。天道虫は煽られる。やがて、脚が眼球から離れてしまう。本来、もう一度羽をパタパタと揺らせば助かるはずだった。しかし、天道虫は石像に拘ってしまった。命でありたいと、希求してしまったのだ。地面に落下した天道虫は、固まった。石像は静謐に、冷たい風を受け止めていた。

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