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地下人。

 「…行ってしまったか。」

 空を見上げ、男はそう呟いた。西暦3XXX年。もはや、地球人なんて数えられるくらいしかいない。

 古びれた廃屋の中で煙草をふかす。此処一体はうん百年前から置き去りにされたゴーストタウンだ。未だに雨風はしのげるんだから、耐久性は悪くない。それでも、かつての地球人達はこの限界惑星に見切りをつけた。

 この廃屋の地下へ下る階段に腰を下ろす。資本主義が極まると、富める者は上へ、貧しき者は下へ行く。それは、ブタの子供に似ている。ブタの子供は、一度吸った乳首を変えることがない。子供同士の競争に敗れると、出の悪い乳首に追いやられ、そこに留まるほかがない。

 かつての地球人達は、地球人というアイデンティティさえも投げ捨てこの惑星を飛び出してしまった。地上にはゴーストタウンが広がるばかりで、地上で運命を受け入れても咎める者はもう誰も居ないのだ。

 「…。」

 男は無言のまま、ゆっくりと階段を降り始めた。母の子宮に帰るように、地球の中心へと吸い込まれていった。

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