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思い出と風

 あの日の風の匂いを覚えている。冷たく、僕の鼻を劈く風。粘膜にねっとりと垂れ込める血。あの日の風は血の香り。

 あの日僕はブランコに乗っていた。ギィー、ギィー。一日の大部分を建築物として過ごすブランコは、物寂しそうに佇んでいた。僕は腰をかける。ブランコは涙を流して喜ぶ。ギィー、ギィー。

 ダンッ。地面を力強く蹴る。僕とブランコは勢いよく持ち上げられる。このまま宇宙の果てまで吹っ飛んでしまいたい。僕はブランコと共に宇宙旅行。しかし、僕達は斜め四十五度で現実に連れ戻され、ギィコギィコと反復するばかり。宇宙は僕達にとって余りにも遠いし、現実は僕達にとって余りにも身近すぎる。

 ブランコは現実直視を僕に促す。まるで、中学校の先生みたいに、僕に現実を知らしめるものなのだ。

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