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一万編計画

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一万編の掌編小説(ショートショート)を残していきます。毎日一編ずつ。
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#ハーフエッセイ

酩酊。

 激しいクラクションが僕を現実へと引き戻す。僕はぼんやりとした頭で必死に状況を整理する。…

腹痛。

 ひどい腹痛で何もする気が起きない。数年に一回、このようなことがある。病院にいっても原因…

地震。

 まるで新幹線が十台まとめて通ったかのような轟音が響く。その瞬間、大地が鳴動する。俺は、…

四分三十三秒の完成。

「四分三十三秒」の演奏が始まる。僕はその瞬間、イヤフォンで耳を塞ぐ。それは一見不思議な行…

サンクチュアリ。

 近所の公園が幼少期の僕のホームならば、隣町の公園は僕にとってのサンクチュアリだった。そ…

大人になるということ。

 何気なく乗った電車。僕はそこでの邂逅に驚くと共に悲しんだ。君が目の前に立っているからだ…

来訪猫。

 家に半ば住み着いていた黒猫が死んでから数ヶ月。たがが一匹の猫の消失に、僕は小さくない影響を受けていた。魚の骨や皮を取っておいたプラスチックのトレイ。今でもふとそこに皮を置いてしまう時がある。魚の脂はべっとりと何かの印みたいに残ったままだ。  祖父が遺してくれた庭は広い。僕はぼんやりと松の木に積もった雪を眺めていた。雪の上には、蹄の跡や小鳥の紅葉の様な足跡が残っている。この庭も、自然の一部であることを思い知らされる。僕と動物達は、ある尺度から見れば同じ側に属しているのだ。

精神の換金。

 「チッ、いまいちだから下方修正か。」  トレードに専念してから数ヶ月、自分の中では経験…

映画館の郷愁。

 父と観た映画を憶えている。あの日、どうして父と映画を観に行くことになったかを覚えてはい…

色喰女。

 ポルシェよりも真っ赤なコートを着た女が座っていた。僕がこの女性と出会うのは二度目だ。駅…

死んだ黒猫。

猫は自分の死体を隠す。梢のように過ぎ去り、ひっそりとかたくなる。それが、彼らの性質であり…

時間に蓋を閉めること。

 この世界には摂理という宿命があって、それに抗うことは許されない。抗えた瞬間に、それは摂…

木枯らし。

 冬の夜風は冷たい。至極当たり前のことだが、ぬくぬくとした部屋の中で、あるいは毛布にくる…

離水の波紋。

移動する距離とクリエイティビティは比例するという人もいるから、意識して旅行している。しかし、人生とはグランド・セフト・オートのように進行する、つまり自分の眼に映る世界に応じて広がるものであるため、数多の未踏の地を此の足で踏みしめていくのは何とも心地よい。 あくまで趣向の域を脱さないが、僕は海が好きだ。特に、汽水域が堪らなく好きだ。それは大海に繰り出す勇ましい流れが好きなのかもしれないし、悠然と広がる凪が好きなのかもしれない。いずれにせよ、僕は汽水域が大好きだ。