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第六液

これは夢なのか?

戦友であり英雄でもあるジョンに呼ばれ会いに行った

「やぁ、ロン、調子はどうだい?」

「悪くない。今日は何の用だ?厄介事はもうごめんだぞ」

「それは俺も同じだ、Mr.ロンバルド」

椅子に座り、顔を上げると、ジョンが銃口を向けている

「ジョン、な…」

もう弾は発射されていた

なぜだかはわからないが、発射された弾が、ゆっくりとこっちに向かってくるのが、視える

空間がゆっくりと歪んでいく…

記憶があるのはそこまでで、目覚めると自分の部屋のベッドにいた

どこも痛くない

起き上がれるし、あちこち触ってみたが、どこもなんともない

当たり前だった、ジョンに会う前に戻っていたのだから

約束の時間まであと1時間ある

思えば、長い6年だった

あと少しで地球に帰れる。嫁と子供に会うのも6年ぶりだ

映像や音声ではやりとりしていたが、それが余計に郷愁を駆り立てる

思えばとんでもない任務がいくつもあった

よく生き延びたもんだ

多少は頭がおかしくなっていても仕方がないかもしれない

俺もカウンセラーに相談してみるかな…本当におかしくなっていたんでは困る

仲間にカウンセリングを受けているヤツも多い

やたらと薬を処方され、その方がおかしくなるだろ?と、ついつい避けてきた

しかし、夢と呼ぶにはあまりに生々しかったな

普通は夢なんて起きてしまえば薄れていくもんだが、まだ鮮明に残っている

というよりも、本当に起きたことの記憶のようで気味が悪い

ジョンに限らず、特に撃たれる理由は思いあたらない

仲間うちの小競り合いはあったが、殺しあうほどの確執は皆無だった

「余計なビジネス」にも一切手を出していない

給料にも待遇にも不満はなかった

そもそも嫁と子供のことを考えたら、のちのち厄介なことになりそうなことに首を突っ込む気にはなれない

厄介事に巻き込まれたくないと言ったのは、任務自体がすでに厄介事で、という意味だった

ジョンが、任務以外の本当の厄介事に関わっているのなら、あの余計な一言が引き鉄に、まさに引き鉄になってしまったのかもしれない

だが、探りもいれてこないで、いきなり撃つか?

「これからジョンに撃たれてしまう。どうしたらいい?」

誰に言うっていうんだ?

ジョンは英雄でもある

それこそ本当に気がふれたかと思われる

チャックに一緒に行ってもらうか

チャックなら、夢の話をしても笑い話になるだろうし「一緒に行かないか?」だけで、特に事情も聞かれないかもしれない

あまりに鮮明な記憶の気味悪さに、なんだか弱腰になっている

地球への帰路だ。特に予定もないだろう

チャックにメッセージを入れると、OK、とすぐに返ってきた

待ち合わせの時間と場所をメッセージすると、またすぐにOKと返事がくる

さて、シャワーでも浴びるか

待ち合わせまであと50分ある

ーーー

待ち合わせ場所に着くと、チャックはすでにジョンと座っていた

「やぁ、ロン、調子はどうだい?」

「悪くない。今日は何の用だ?厄介…」

言いかけてやめた
そして、立ったまま変な間ができてしまう

「座らないのか?」

チャックが声をかけてきた
そうだ、チャックも一緒だ

ジョンを見たまま椅子に座った

ふと銃口が目に入った

言葉が出なかった

銃を向けていたのはチャックだった

弾が発射され…ゆっくりと向かってくる…

空間が歪み…

目が覚める…ベッドの上

天井を見たまま動けなかった

カラダも思考も完全にフリーズしていた

ーーー

なんとか起き上がり、一気に水を飲み干す。いくらか落ち着いてきた

心臓の鼓動は相変わらず早いままだが

チャックも仲間?

なんなんだ、これは?

ひとつだけわかったことがある

いずれにしても、撃たれるってことだ

それと、もうひとつあるな

撃たれると、リセットされる、1時間前のベッドの上に戻ってきてしまう

いや、この場合、戻ってくることができる、か

なぜ、撃たれるのか

人目につかず消されるのではない

わざわざ待ち合わせ、わざわざ人目に付くところで、しかも撃つ

銃声だって鳴り響く

なんのために?

なんとか地球に着くまで逃げる?

広いとはいっても限られた戦艦の中だ、すぐに見つかってしまう

それよりも、なんで逃げないといけないのか

チャック…というより、誰が味方で誰が敵で…敵…そもそも敵なのか?

考えれば考えるほど、ワケがわからなくなってくる

誰にも連絡せず、このままここでじっとしていたら、どうなるのだろうか

いまのところ、それくらいしか対応策は浮かばなかった

ーーー

「今日は、じっとしてるパターンかね?」

「そのようです」

これ以外に、待ち合わせ場所に行き、先に攻撃するパターンなどいくつかある

いずれにしても、勝手に気を失うか、暴れるので、仕方なく鎮静剤を打つか

ロンも自分の犯した罪の意識に苛まれ、自らを罰したい、処刑したいのだろうか

同じような症例だったテディという患者は救えなかった

テディはもう夢を見ることはない、見れないのだ、その生涯を閉じるまで

テディのことも、ついこないだのことのようだが、もう10年以上も前のことになる。時が経つのは早い…

おっと、こんな時間だ。今液はこれにて

そうそう、テディについて気になるようならこれを観ておくといい。この報告書は本当に良くできている☟

夢十夜☟


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