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吾輩は文豪である

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森先生からの課題
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取っ手

取っ手なんてものは、本来、ひとつの引き出しごとに、ひとつ、ふたつ それが、そのタンスには……その少し大きめのタンスには、たくさん付いてたんだ、ところ狭しとね あまりにもたくさん付いていたものだから、タンスの引き出しの境目がわからない どんな大きさの引き出しがあるのかも、いくつあるのかもわからない、当然、何段あるのかも それくらい、びっちりと取っ手が付けられている、まるでテトラポッドに張り付いたフジツボのよう 眺めていると、なんだか気味悪く、気持ち悪く、ムズがゆい感じ

Sol-pac(2)

(1)です☟ とくに虐待の場合、その怒りや悲しみを晴らしてしまうと「その子のためにならない」というのだ 袋を使わせないのは、なにより「その親のために」とも 包丁でも持って、立ち向かう そうでもしないと、ただただ現状を維持することになり、ともすれば「我慢すればするほどに助長することになりかねない」 虐待児童による刃傷沙汰なんて、児童相談所の担当からすれば、たまったものではないが、彼の言うことも一理あると頷かざるを得なかった さらに彼はこう続けた 「アーティストの依

Sol-Pac(1)

ちょっとした短編です ー 気がつくと、私はひたすらに捲(まく)し立てていた 自分の中で蟠(わだかま)っていた、あらゆる怒り、悲しみ しゃべりだしたら、もう止まらなかった 目の前の相手が、絶妙な頃合いでうなずきつつ「なるほど」や「たしかに」などと肯定の相槌を挟んでくれることも、その勢いを助長していた 堪え切れなくなり、いつのまにか嗚咽していた 涙が溢れそうになる そのときだった 「泣かないでください、どうか泣かないで。というか、涙は特にやめてください」 こうい

ブレインウィッシュ

宇宙と脳は構造が似ているという ありがたいことに、親も優秀で、両親それぞれ死ぬまで自力生活が可能 本来であれば、ちゃんと老後の面倒をみないといけないところだが、その必要がない 三度ほど結婚したが、そのどれも成就せず、これまたありがたいことに、嫁と子供もいない 親戚一同優秀で、そういった一族の揉め事も一切ない ペットも飼っていない 仕事もウイルス騒ぎを期にひとつの区切りとし、ひとりでやれる仕事以外は一切合切辞めてしまった たとえ俺がのたれ死んだとしても「まぁ、いつ

とりっくアート

※ショートショートに挑戦してみました ー 一人旅というのは、誰にも気兼ねせず自由気ままではあるが、反面、非常に退屈極まりない時間も多い その退屈こそが醍醐味と感じる日もあれば、今日はその逆、退屈を持て余していた ふと道中でみた看板を思いだす ちゃんとは観ていなかったが、たしかその看板には〈とりっくアート〉と記されていた トリックの部分が、片仮名ではなく平仮名で〈とりっく〉となっていたからか、もしくは、その看板があまり質素でなんの飾り気もなかったからか そのあたりの

文豪的初心表明

文豪になりたい 文豪でありたい 今日は、仮にミステリーを書くのであれば、たいてい登場するであろう「銃」について描写してみたいとおもう ー 美しいお箸 持ち手の装飾から、その鋭さまで、すべてが優美かつ端正なフォークやナイフ 手にチカラが入らなくても、僅かなチカラで食べ物を口に運べるスプーン 造形ひとつで、人の食環境を変えてしまう 造形の妙 デザイン どんなモノでも、造形の妙というのは有るのだろうか 例えば、銃、であるとか その銃は、素人目からみても異彩を放っ

紐とトリガー

文豪になりたい 文豪でありたい そう思う理由のひとつに「ミスリード」がある 漫画や映画よりも、それが容易(たや)すい 文字だけ、文章だけなので、読み手の想像に委ねることができるからだ それぞれが自由に描くイメージに耽っていただくことができる 叶うならば、そのトリガーでありたい そんなことを思いながら散歩していると、ふと、同じように散歩をしている老犬が目にとまった 本来であれば駆動すべきジョイント、関節という関節がカタまってしまっているのだろう 生まれ、そして土

防塞の要災

やまない雨はない だといいのだが、 とけない氷はない だと、ちょっとだけ厄介なことになる 永久に溶解(とけ)ないからこそ「永久凍土」と名付けられたシベリアの氷が溶けて2年目の2021年冬 人類が知る限り、初めて溶解た 溶解ないはずのものが溶解たのだから、致し方なかろう やたらと雪が降る冬になる 天気や環境に関わる人間であれば、桶屋が儲かるシステムよりも、何段階も少ないステップで容易に予測できる 案の定、日本海側や山間部は、年の初めから予測していた通りの大雪に見舞わ

夢十液

文豪に成る、などと大言壮語する割には、何を課せども遅々として進まず 欲をかいているのか、将又すでに諦めのようなものを感じ始めているのか、彼方へ行き此方へ行き、一向に定まる気配すらない 文豪がなんたるかを解していない節もあり、業を煮やした森先生がまた一計を案じてくださった 「夢十夜を、夏目漱石に成りきってパスティーシュせよ」 間違えてパストリーゼを買ってしまったとしても、コロナ対策になるので問題はなかろう これを以て、あまりの才の差に打ちのめされ、筆を置くなり、元の道

第四液

夢ならば醒めて やわらかな愛いやつ それに何度救われたことだろう 些細なミスでも積み重なっていくと、それなりにしんどいものになっていく やっとの思いで課長に認められた企画のプレゼンが、午後に控えているというのに はじめてのことで準備に手間取っているだけでなく、思う以上の緊張や不安で、3日間ほどまともに寝れていないのも、ミスの引き鉄となっていた 私の名前は「梅子(うめこ)」という 大好きだった祖母がつけてくれた 母は私を産むとすぐに他界してしまい、ひとり残され消沈す

第五液

夢であってほしい 「いいから、早く握れ」 「これはなに?」 「だから、何度も言ってるだろう、人類の命運だ」 「なんで僕なんだよ」 「さぁな」 「どうしろっていうのさ」 「何度も言ったろう? 人類を消滅させるかどうかを決めてくれたらそれでいい」 「僕が?」 「そうだ」 「わからないよ」 「はい、か、いいえ。日本語がいやだったら、イエスかノーかでもいいぞ」 「そういうことじゃなくて」 「いずれにしても、答えてもらう」 「僕にはすべてを飲み込むことなんて

第六液

これは夢なのか? 戦友であり英雄でもあるジョンに呼ばれ会いに行った 「やぁ、ロン、調子はどうだい?」 「悪くない。今日は何の用だ?厄介事はもうごめんだぞ」 「それは俺も同じだ、Mr.ロンバルド」 椅子に座り、顔を上げると、ジョンが銃口を向けている 「ジョン、な…」 もう弾は発射されていた なぜだかはわからないが、発射された弾が、ゆっくりとこっちに向かってくるのが、視える 空間がゆっくりと歪んでいく… 記憶があるのはそこまでで、目覚めると自分の部屋のベッドに

第七液

夢なんて描いたことがない 親父が来るっていうだけで大騒ぎだな 伊豆にある名門のゴルフ場まであと少しのところで、検問やら報道陣やらでごった返し、渋滞していた 親父の政治戦略は、いうなれば炎上商法みたいなものだ マスコミが喜びそうな話題を提供し知名度をあげ、仲間であるはずの政治家たちに、あえて重箱の隅までつつかせ、常に時の人であることでその知名度を維持する それでいて一国の首相にまで登りつめたのだから、見事なものだ いまも、些細な金銭のやりとり、しかも、親父ではなく母

第八液

この子はどんな夢をみるのだろう ベッドの隣に座り、寝顔を眺めていると、気配に気がついたのか起きてしまった 突如、カラダを硬直させる 何事か?と思ったが、どうやら撫でようと頭に触れたことが原因のようだ 無意識で頭を撫でようとしてしまっていた 「イタい?」 「イタい」 「どこがイタい?」 「いろんなとこ」 「お水、飲む?ジュースがいいかな?」 「いらない」 「なにかしたいことある?トイレとか、お腹すい……」 「ここにいても、いい?」 「・・・」 〈 お