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【禍話リライト】「煙の仏壇」
体験された方の幼稚園児の頃の思い出。
その方は大学生になるまで、父親の仕事の都合で引っ越しの機会が、非常に多い家庭で育ったのだという。
基本的に引っ越し先はマンションがほとんどだったが、ある時期一軒家に借家で住んでいたことがあった。
今となってはどこの家だったかは覚えていないが、この体験はちょうどそんな家に住んでいた時の出来事だという。
その借家と隣の家の境目には壁があった。下からでは無理だが、借家の2階の屋根からその壁に上ることができた。
落下する危険や親に怒られる恐れはあったが、当時のその方は冒険気分で、その壁に上って壁の上を渡るという遊びを定期的にしていたのだという。
ある日の昼頃、家族が外出している隙を見て、いつものごとくその遊びをしていた。最初は綱渡り感覚で立とうとするが、怖くて四つん這いになってしまう。そうしていると、隣の家の換気扇から黒い煙が出てくるのが見えた。
隣の家の奥さんは、趣味でパンやアップルパイなどをよく作っていた。
作ったものをその方は頂くことがあり、当時は幼く純粋であったが故に、単純に(パンとか焼いてくれるいい人だ。)と思っていた。
その時も、(パンかなんかを作ってんだ!昼間から!なんか作ってんじゃないかなぁ~)と思い、煙が発生しているであろう部屋に近づいてみる。
その部屋のカーテンが開かれており、窓から中を覗くことができたが、そこは台所ではなかった。
(あれ?そういえば台所別のところだったよな。あれ?ここなんだ?)
部屋の中をよく観察するとその詳細が分かった。
その部屋には仏壇のようなものが置いてあったという。
そこにその家の奥さんと高校生ぐらいの長男の息子がいた。
長男はその日学校のはずなのだが、夏服の学生服を着てそこにいた。
二人は、定期的に交互に頭を下げ拝んでいるような動きを繰り返しており、
時折奥さんは(いやぁ…どうかな…)とでも思っているのかのように、首を振るリアクションをして再び頭を下げている。
(なにしてんだろう?なんで煙出てんだろう?どっから出てんのかな?)と思って見てみると、件の仏壇から煙がモクモクと出てきている。
しかし、蝋燭の火などが引火して火事になっているという様子でもないようだった。
(えっ、なになになに、これ?なに?)
初めは、(不思議。)ぐらいに思っていたが、(これは異常な状況だな。)という思いに変わっていく。
怖くなり、壁の上から2階の屋根に移り借家に戻った。
(えっえっ、全然分かんない。なんで仏壇から煙が出てんの?火事じゃないよね、あれ?燃えてないし、あれどっから?何?)
と混乱していると、庭から音が聞こえた。
母親が帰ってきたのかと思うが、全然家に入ってくる気配がない。
疑問に思い外を見ると、隣の家の奥さんと長男が庭をグルグルとうろついていたという。
(うわっ!)と驚くが、どうも様子がおかしい。
仏壇の一件を見たことを咎めるために来たならば、一直線に自分のいる借家を訪問すればいいはずだ。また、自分がいることも分かっているはずなのだが、二人はただ当て所もなく庭をぶらぶらとしている。
その方曰く、大人になってゾンビ映画を見たとき、意思のない感じでぶらぶらとしているゾンビの様子がその親子の動きのようだったという。
(うわ~、怖い!はやく誰か帰ってきてくれ!)
と祈っていると、
「ただいま~」と祖母が借家に帰ってきた。
曰く『これほどばあちゃんがありがたいとは思わない』と感じるほどに、この時は安心したのだという。
しかし、余りにも気持ちの悪い出来事だった為、誰にも言うことができず、テンションの低いまま夕飯を食べ、8~9時頃には床に就いた。
不意に全力で布団を揺さぶられるような振動を感じた。
それに反応し、(えっ、地震!?地震!?)と思い起き上がる。
しかし、寝ていた自分の布団の周りには何もない。
普段は横に両親が共に眠っているはずなのだが、誰もおらず布団はもぬけの殻になっている。
(怖いな~、寂しいな~)と思いつつも、流石に二人同時にトイレにいくはずはないと、幼稚園児にも分かる。
(まだ大人は寝る時間じゃなくて、1階でテレビでも見ているのかな?)
そう思い時計を見るが、時計の針は12時を指している。
その日の明日も平日だった。幼稚園児でも、まだ起きているはずがないとは理解できる。
祖父母の部屋も確認するが、そこにも誰もいない。
(え?なんで?じゃあ、居間とかにみんないるのかな?)
そう思うが、借家中明かりはなく、真っ暗な闇が見えるばかりだ。
それでも借家中を見て回るが、やはり誰もいない。
そうしていると庭の方向からごそごそと物音が聞こえた。
(えっ!)と思い見てみると、隣の家の奥さんと長男と旦那が、昼頃に見たときと同じように、当て所もなくぶらぶらと庭を歩き回っていた。
(うわ~怖い~、これはもう言っていいだろ、あの家族いるんだし)
と思うが、肝心の自分の家族が見当たらない。
(どこだ!どこだ!)
と思うと、まだ自分の家の仏間に行っていないことに気付いた。
(いないとは思うけど…)そう思いつつ仏間に向かう。
仏間に着き、中を覗く。
家族全員が座布団を敷いて座っていた。
(あれ!?えっ、なにしてんの!)
そう思い尋ねようとすると、祖母が振り返り「シ~」とその方に言う。
そして「こっち来なさい、こっち来なさい、○○ちゃん(体験された方の名前)の分の座布団もあるから」と話す。
困惑しつつ、勧められた座布団を見てみる。
その座布団は金の刺繡がされた豪華なものだったらしいのだが、その方の記憶ではそのような座布団を家で所持していたことはないはずなのだという。
大体何故こんな真っ暗な部屋で仏壇を見ているんだと思い、
「これ何してんの!?」
と尋ねるが、祖母は「いいからこっちこっち!」と話す。
そうしている内にその方は、今この真っ暗な仏間にいるその祖母が、本当に『自分の祖母なのか?違うのではないか』と思ったのだという。
座布団の件といい、疑問に残る点はある。
しかし「こっち来なさい」と言われるがまま、座布団に座ろうとした。
その直前に気が付いた。
今自分たちのいるこの仏間は、
どうみても昼間に壁の上で見てた、
隣の家のあの仏間なのだ。
(はっ!これ違う!隣んち!ええええ!)
そう思ったとき、誰かに肩をつかまれ無理やり座らされた。
(座らされたぁぁぁ!無理やり正座させられたぁぁぁ!)
そこで記憶が途切れた。
気が付いたら、庭にある木製のベンチに座り眠っており、その結果風邪を引いてしまったのだという。
そして両親は、朝その方がいないことに気付き、必死に探していたとのことだった。
(寝ぼけて出ていく癖でもあるのかな?)と思ったらしいが、
玄関はもとより、1階から外に通じる扉や窓の鍵も全部閉まっていた。
(こいつどうやって出て行ったんだろう?ちょっとわかんない…)
と不思議に思っていたという。
2階の窓からは出入りできるが、そこから飛び降りたとすれば、怪我をするなり、飛び降りた後に何かしらの痕跡が残るはずなのだがそういったものもなかった。
後年その方がいなくなった件について、両親からは「あの時はパニックだったよ~原因不明だったし」と話は締められたが、(ちょっと待って、俺は助かったのか?助かってないのか?どっちなんだ)と思ったとのこと。
結局その借家もすぐに引っ越してしまったのだという。
どこからどこまでが夢だったのか。
あれらの出来事は。真実は。それは分からない。
ただその方はこの一件以降、大きいオーブンでパンを作っているようなお店が若干苦手なのだという。
出典:【シン・禍話 第三十九夜 (聞き手の鬼登板回)】
(2021/12/25 )(41:44〜) より
本記事は【猟奇ユニットFEAR飯】が、提供するツイキャス【禍話】にて語られた怖い話を一部抜粋し、【禍話 二次創作に関して】に準じリライト・投稿しています。
題名はドント氏(https://twitter.com/dontbetrue)の命名の題名に準じています。
シン・禍話 第三十九夜 12月25日(通算238回目)https://t.co/Nbuspldg2E
— ドント (@dontbetrue) December 25, 2021
庭の茶室/青い物置・補遺/見たことのある……/校庭の穴/悪口娘/犬はいない/煙の仏壇/余寒さんの褒め褒めパワー/中の叫ぶ顔 ★佐藤実さんによる替え歌が適宜挿入されます
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