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【禍話リライト】『忌魅恐NEO』より「廃墟でカレンダーを破り続ける話」

年号が平成から令和に変わる頃にAさんが体験したお話。


Aさんの通っていた高校は、不良が在籍しているなどの問題はない、ごく普通の高校だった。

しかしある時から、クラスメイトの一部が、つるんで何処かに行っているような、そんな雰囲気をAさんは感じ取っていたのだそうだ。

初めは、ほんの数名の仲の良い男子のグループだけが、そこへ向かっていた様子だった。

しかしそのグループに統合されていくかのように、他のグループの男子生徒たちも徐々に加わっていき、結果そのクラスの大部分の男子が、その何かに参加していたという。

(どっかで飯でも食いに行ってんのかな?それとも、ゲーセンにでも行ってんのかな?)
そのような予想をしていたが、(まぁ、グループがあるから…)と比較的一匹狼な気質だったAさんは、特に深入りすることはなかったそうだ。


そんなある日の放課後。

Aさんが小テストの予習をしている最中に、クラスメイトの一人からよく分からないことを言われたのだという。

そのクラスメイトというのが説明下手だったこともあり、理解しがたい部分もあったが要約すると、

「最近チキンレースしてんだけど、お前もやんねぇか?」
という意味の言葉だったらしい。

(チキンレース?)
その一単語に疑問が浮かぶ。

(あー、そういえば隣町かなんかの奴が、自転車で急な坂をどこまでブレーキを掛けずに行けるかのか?とかやってるって聞いたことあんなぁ…。そういう事なのかなぁ?)

ふとそのことを思い出し、そういう類のことをしているのだろうと思ったAさんだったが、
「イヤイヤ、俺そういうのいいよ。俺そういうのあんまり…わりぃけど…」
と、その誘いを断ったのだという。

それに対しクラスメイトも、無理強いをすることはなくすぐに引き下がったそうだ。


しかし何かあった時に知らなかったとは言えない為、
Aさんは「危ないよぉ、そんなことー」と会話を続け、一応その【チキンレース】の内容をさりげなく聞いてみることにしたそうだ。

するとクラスメイト曰く、「スタント的なことではない」とのことだった。

(スタント的な、若干命に関わるようなことじゃないチキンレースって、逆になんだろうなぁ?)

そんな新たな疑問をAさんが抱いているのを見て、クラスメイトはさらに説明を続ける。

「日めくりカレンダーがいるんだ」
「日めくりカレンダー?」
「100均とか行ったらあるじゃん、時期とか過ぎたら…例えば1月売り始めて、2月3月なったら安くなったりするじゃん」
「あぁ…まぁ、ないことはないけど…」
「それを破っていくみたいな…」

クラスメイトはそう説明するが、Aさんは内心(何がチキンレースなんだろう?)と思わざるを得ない。

それでもクラスメイトは説明を続ける。
「とある家に行って、指定された柱があって、そこに引っかけるところがあって、そこに引っかけて、バーって、破いてくんだ」

(何がチキンなんだろう……?『何処で止めて~』とかのルールも全然分かんねぇし)

徐々に何をしているかは分かってきたものの、それの何が面白いのかが全く分からない。

結局いまいち理解が追い付かなかったAさんは、
(なんかが面白くなってやってんのかなぁ?よく分かんねぇけど)
と無理矢理自分を納得させ、「はぁ…へぇ…」と生返事をして話を聞き流していた。

クラスメイトの方も、自身が話下手なのを自覚していたのか、Aさんのその反応を見てなのか、結局それ以上の話をすることはなかった。



別の日。
その日はクラスの仕事の為、女子生徒と一緒に作業をしていた。

そしてその時、クラスメイトの一人の〇〇が別のクラスの男子生徒を、例のチキンレースに誘っているのを目撃したのだという。

(あ~、誘われてんなぁ~)
と、思いつつその会話に耳を傾けてみる。

「でも日めくりカレンダー持ってない」
「前に安く売られてるのがあって買い溜めしたんだ」
 「へぇ~」

(すげぇみんなやる気満々じゃん…)
そんな風に思っていると、別のクラスの男子生徒は興味深々な様子であり、これから行く気満々の雰囲気がひしひしと伝わってきた。

作業の途中だったAさんは、その話に加わることなく、ただ話を聞いていた。

(あぁ行くんだ。そんな面白いかねぇ?全然ルールが分からないんだけどなぁ…)
腑に落ちていないが、結局その時は作業を優先し、その時もチキンレースには深くは関わらなかった。



そしてその夜のことである。

風呂から上がったAさんは何か飲もうとして、台所に向かったそうだ。
しかし既に電気は消されていた為、仕方なく自分で台所の電気を点け、冷蔵庫から麦茶を取り出し飲んでいた。



どこからか視線を感じる。

ふと庭に視線をやると、そこに誰かが立っているのが見えた。



簡単に入って来られる庭ではあったらしいが、既に日は沈み、人々が寝静まるような時間帯。
そこに誰かがいるべきではない。

本来であれば、悲鳴を上げるなどのリアクションを取るべきところではあるが、庭に立つ影はどこか見知った人物のそれだった。

(え?え?え?)
Aさんが困惑しつつ庭に近づくと、そこに居たのは別のクラスの男子生徒を誘っていた、あの〇〇だった。

この時間帯に自分の家の庭にいることを訝しみつつも、以前に〇〇を家に上げたこともあってか自然と話しかけることは出来た。

しかし…

「あれ?お前どうしたんだ?用があるなら玄関から来いよ。びっくりするなぁ泥棒かと思ったじゃねえか」
「いやぁ~、俺失敗しちゃってさぁ~」
「は?」
「いや、失敗しちゃった!」
「あぁ、そうなんだ…」
「イケる!と思ったんだけどなぁ~」

〇〇はしきりに何かに失敗したことを報告してくるばかりで、いまいち会話が成り立っていない。

「いやいや、分かったよ。何か用があってきたんだろ?庭で話すのもなんだからー」
と、家に入ることをAさんは勧めたが、

「いやぁ、ちょっと言いたくてさぁ。いやでもなぁ~俺ぎりぎりを攻めたのがよくなかったのかぁな~」
と、独り言を言っているかの如く、ただひたすらに自分の話ばかりをしてくる。



結局〇〇は、
「詳しいことは、また今度話すわ。じゃあ」
と、不審がるAさんをそのままに帰ってしまった。

そんな○○の行動に呆気にとられるAさんであったが、それ以上に気になることがあった。

(なんであいつ、両手を後ろに組んでたんだろうなぁ?)

Aさんに話しかけ、庭を出ていくその時まで〇〇は、ずっと両手を後ろに回していたそうであり、彼の話を聞きつつも、その様子にずっと違和感を覚えていたそうだ。

(変なポーズしてんなぁ…応援団じゃねぇんだから…)

そんな感想を持ちつつ、寝床に入り、また朝が来て高校に向かう。

しかし登校していつまで経っても、〇〇の姿は見えなかった。


また、それとは別に引っかかることがあった。

クラス内の大多数の男子生徒が、異常なまでに雰囲気が暗い。

その様子にAさんだけでなく、女子生徒たちも困惑しており、唯一まともそうなAさんに何かあったのか尋ねてくる。

「いや、ちょっと分かんない」
そう話し受け流しつつもAさんは、(チキンレースと関係あんの…?)と、思わざるを得なかった。



そして昼休み。
Aさんが一人で弁当を食べていると、仲の良い女子生徒の一人に声を掛けられた。

「ねぇ…今日男子8割位変な感じじゃん…。なんかソワソワしている感じっていうか、凹んでるし、怯えてるって感じで…。なんか知らない…?」

そう尋ねられたAさんは、自分も詳しくは知らないということを前提にしつつ、件のチキンレースの内容と、それをクラスの男子たちが行っていることを説明したそうだ。

Aさんの説明聞くその女子生徒の表情が、徐々に曇っていく。
そしてAさんの説明を聞き終えると、「えぇ…あぁそう…」と言葉に詰まりつつ、彼女は口を開いた。

「お父さんが警察官というか、そういう方面の仕事をしているから知ってんだけど…。○丁目にね、家に高校生位の男の子たちが最近不法侵入してるっていう話があって…」

「え?え?不法侵入してんの?じゃ、じゃあその話なのかなぁ…。なに?そこ行って、酒でも飲んだりとか、煙草でも吸ってるとかの、アジトとかにしてるってこと?」

「いや、騒いではいないらしいんだけど…。その家がさぁ…その地域の人は知ってんだけど、一人でずっと暮らしてた男の人が自殺してんだよね…。その家に最近高校生たちが来て、ふざけるでもなくなんかして帰ってくってのがあって、なんかおかしいなっていう話を聞いたから、それと関係あんのかなぁ…」

(え?え?え?)

Aさんはその話に、気持ち悪さを感じずにはいられなかった。
そんな心境のまま昼休みも終わり、午後の授業が始まった。
しかし、結局〇〇はその日登校することはなかった。



そして放課後。
一日を通し嫌な空気の中過ごしたAさんは、意を決して何があったのかを聞いてみることにした。

しかしその矢先、教室の外から「××と、△△と、□□来い!」と、殆どの男子生徒たちが呼ばれ、連れていかれてしまったのだという。


(あれあれ!?呼ばれて行っちゃったぞ、大人に呼ばれて行っちゃったよ)
完全に聞くタイミングを逃してしまった。

女子生徒たちも、「放課後に呼ばれてゾロゾロ行くじゃん…」と、戸惑いを隠せずにいる。

それは、Aさんと昼休みに話した女子生徒も同様であったが、互いに男子生徒たちの行方が気になり、二人で追いかけることにしたという。

後をつけてみると、人数が多すぎたこともあってか、生徒指導室ではなく、普段使われていない会議室にゾロゾロと入っていくのが見えた。

「なんかあったんだって、これ!」
「あぁ…そうなぁ…」
「気になるからさぁ…明日とかなったら、こっちにも言えることを話すのかもしんないけど…」

二人は息を潜めてそう話しながら、何があったのかを盗み聞きしてみることにした。


その会議室の出入り口は前後二か所あったが、前の扉は教卓に近く見つかる恐れがあるのと、校舎の作りからして防音の設備もそこまで整ってはいないだろうとのことで、教卓から遠い後ろ側の扉に耳を近づけてみる。

聞き取れる音からして、男子生徒たちは凹んでおり、その中を大人の誰かが普通のトーンで淡々と話しているのが分かった。


「大体もう分かってんだけど。悪趣味なこの遊びっていうのは誰が始めたの?誰かから聞いたの?」


その問いかけに対し誰も反応する様子はない。


「あの~、○○なぁ。○○暫く学校来れないんだぞ。両手に傷も残るし」

(○○!?えっ!両手に傷も残る!?)
それを聞いたAさんは驚愕する。

そして…


一人暮らしの男性が自殺した話。
○○の両手に傷が残るという発言。
そして、昨日なぜか両手を後ろに回していた○○の姿。


なぜかは分からない。
しかし、なんとなくAさんはそれらを想起し、勝手に頭の中で連想してしまう。



(え!?え!?え!?ナニナニナニ!?)
とめどなく溢れる様々な情報を、上手く整理出来ずにいる。




一方会議室の中、その話を聞いた男子生徒の誰かが、(ぇぇ…)と低く小さな声を漏らしたか思うと、続けて【チキンレース】を始めるきっかけを話し始めたのだという。

「そいつがあの家の近くに住んでる奴で。この学校じゃないんですけど、同じ中学だった奴に聞いて『そういうのがある』って言って…。最初分かんなくてやってみたんだけど、肝試しみたいな感覚だったり、ちょっと悪い事してるけどそれがかっこいいじゃないけど…。そういうゾクゾクした、法律に反してるなぁ、みたいな…。背徳感っていうか、スリルがあってやってて…」

ゴニョゴニョと言い訳じみた言い草で彼はそう話した。



それに対して大人の声がこう言葉を返す。

「そっかぁ。廃屋に不法侵入してるから、悪い事してるなって気持ちは分かるんだけどぉ。なんでその日めくりをめくっていくとね、ゾクゾクしてチキンレースになるのか分かってんのか?」


「いや…あの…」

その言葉に答えあぐねているのか、彼は声を発せずにいる。










「■■■■雄さんがな。自殺したのってな。秋口だったんだよ」








■■■■雄。
男性のフルネームとおぼしき単語が聞こえたかと思うと、
『その男が秋口に死んだ』。
会議室の大人の声が、そう言い放つ声が聞こえた。




誰が住んでいるかも分からない一軒家。

その家を支える柱の一本。

そこにかけられた日めくりカレンダー。

クラスメイト達によって、それがめくられていく。

バァーっと勢い良くめくられ、どこかのページで止まった。

そのページの日付とは……。




Aさんは嫌な想像をしてしまった。

そして激しく動揺する。

(え?え!?え!!ウソでしょ!?)




それだけでも十分衝撃的だ。
しかし、Aさんは更にもう一つあることに気づいてしまった。





「お前らなにしてんだ?」




Aさんがそのことに気付いたのと同時に、自分たちの背後から声を掛けられた。

振り向くと、生活指導の教師と自分たちのクラスの担任がそこにいた。

そして再び視線を会議室に戻す。

そこには真っ暗の会議室が目に映る。



(あっ!)

クラスの男子生徒のほとんどがその中にいる。
そしてその中で何者かと話していた。
しかし、電灯の明かりも日の光もない暗闇の中でそれが行われているのは、明らかに異常だ。


Aさんは、反射的に扉を勢いよく開けた。
真っ暗な会議室の中には、男子生徒たちはテストを受ける時のように、等間隔で座っている。
そして、扉を開けた音に反応する様子もなく、ただ静かにうなだれていた。


何も知らない教師二人は、
「なになになに?何してんだお前ら!?なんの遊びだ!?なんの冗談だ!?」
と、当惑している。

Aさんは視線を教卓側に目をやる。
しかしそこには誰もいない。
明らかに、そこから声がしていたはずなのに…。


教師二人は絶えず、男子生徒たちに声をかけ続けるが、彼らは微動だにせず、中には静かに泣き始めている生徒もいる。

「ナニナニ!?集団パニックか!?」
「オイ!オイ!」
とりあえずその場にいる4人で、全員の肩を叩くなどしながら呼びかけてみる。

Aさんの心中は、(それどころじゃねえな…どうしよ…)という思いでいっぱいだったが、教師等に倣って同様に(オイ!オイ!!)と声をかけ、彼らの反応を伺う。





ふとAさんは、再び教卓を見た。

その会議室の教卓には黒板はなく、代わりにホワイトボードが設けられていたそうが、そのホワイトボードいっぱいに書かれていた。






【■月■日】






明確な日付けは伏せられている。

しかし、はっきりと言えるのは、
丁度、秋口の日付であったという。





(アッ!!!)

Aさんは、それを見てしまった。
しかし、(これ以上誰かが見てはいけない!)
そう思い立ち、一気にホワイトボードに駆け寄ると、書かれていたその日付を消した。



その後は、大きな騒ぎになった。
幸い救急車や警察のお世話になることはなかったが、会議室に集められた男子生徒たちの親御さんに連絡した結果、方々から押し寄せることとなり、高校側はその対応に追われることとなったという。



暫くして、○○は復帰してきた。

しかし以前よりも元気はなく、ずっと長袖を着続け、両腕を晒すことはその後一切なかったという。





そしてAさん。
前述の通り、彼は件の廃屋には行っていない。

しかし、会議室のホワイトボード。
そこに書かれた日付を見てしまった影響なのか、
それ以来、ある夢を見るようになってしまったのだという。



ハッと気づくと、ちゃぶ台や黒電話などが置かれた昭和風の古い装いの部屋に、一人でいる。

そして、ふとその部屋の一角にある柱を見る。

そこには、まだ破かれていない新品同然の日めくりカレンダーがある。

それを見た瞬間。

Aさんは憑りつかれたかのように、その日めくりカレンダーを勢いよく破き始めてしまう…




そんな夢を現在に至るまで見続けているのだという。




A「定期的に見るんですよねぇ……まぁでも…それで体に怪我してるとか、そういうことではないからいいんですけどね…」

かぁなっき「イヤイヤイヤ、まぁ…ねぇ…!現実にならなきゃいいんですけどね!」

この話を聞いていたかぁなっき氏は、『現実に』という言葉を重点的に用いつつ、努めて明るくAさんにそう相槌を打っていたそうだ。

しかしその言葉につられてか、
「『現実に』はちょっとあるんですね」
と、Aさん。




曰く、流石に日めくりカレンダーは買っていないが、それらに形が近しいメモは買っており、固定電話の横に置いてあったのだという。

そして、何度目かの『めくる夢』。

いつもならば、例の日付に行く前に目を覚ますことが出来るそうなのだが、その日はいつまでたっても目が覚めず、8月分もめくり終わるその時になるまで夢が続いてしまったのだという。

間一髪覚醒し、
(あっぶねぇ…あー怖かったー)
と思いながら、固定電話の近くに行った。






メモがビリビリに破かれて、床に散らばっていた。






(アレ……現実に来始めてる……)





〖配信当時はここで話が終わっている。故に『○○はどうなったか、○○や男子生徒等の身に何が起こったのか』等の点は不明であったことをここに記しておく。また、語り手かぁなっき氏により、提供された話の一部内容を変更して、発表されたことも併せて明記しておく。〗



出典:【禍話インフィニティ 第三十八夜】

(2024/04/06)(1:02:03~) より


本記事は【猟奇ユニットFEAR飯】が、提供するツイキャス【禍話】にて語られた怖い話を一部抜粋し、【禍話 二次創作に関して】に準じリライト・投稿しています。


題名は【ドント】氏(https://twitter.com/dontbetrue)の表記の題名に準じています。


【禍話】の過去の配信や告知情報については、【禍話 簡易まとめWiki】をご覧ください。


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