デルタ株と感染爆発に危機感を抱いて調べてみた

デルタ株に関するCDCのニュースはなんとなく知っていたが、先日都市部に向かう電車の中で何気なくネット記事を読んでいて、「1人から8~9人はヤバい。水ぼうそう並みをなめてた。。」と気付いた。

最近は契約している会員制自習スペースでのんびり過ごすことが多いのだがそれも取り止め、その日はナポリタンだけ食べてすぐに電車で引き返したのだった。
(今考えるとナポリタンを店で食べる方がリスクがある気もするが、強烈なナポリタン気分とトッピング無料券には抗えなかった・・・)

 

今後の外出方針を立てるためにも改めて自分なりに情報収集したので、まとめてみることとする。

 

 

CDCの見解

最近話題にもなったように、デルタ株は従来株やアルファ株に比べて感染力がかなり強いというCDC(米疾病予防管理センター)の見解が明らかになった。

“デルタ株は1人の感染者が平均8~9人に感染させる。これは水痘と同程度。一方、変異前のコロナウイルスは通常のかぜと同じく1人の感染者から約2人にうつるという。”

 

 

感染力を考える際の基礎知識

上記の数字を理解するために改めて整理してみた。

 

社会福祉法人済生会のHPによると、
「まだ誰もその免疫を持っていない集団の中で、1人の感染者が次に平均で何人にうつすか”を表した指標」である基本再生産数と、
「すでに感染が広がっている状況において、1人の感染者が次に平均で何人にうつすか”を示す指標」である実効再生産数があるとのこと。

通信速度の理論値と実測値、あるいは地震でいうマグニチュードと震度、放射線でいうベクレルとシーベルト、みたいなイメージだろうか。

 

こちらの朝日新聞デジタルの記事も参考にしつつ、CDCの「1人の感染者が平均8~9人に感染させる」はデルタ株の基本再生産数を示していることを再確認した。

次に、水痘(水ぼうそう)並みの感染力とはどの程度のものなのか?
自分なりにまとめてみたものが以下だ。

 

【 感染症名|基本再生産数|感染経路|病原体名 】

季節性インフルエンザ|1~3|飛沫・接触感染|インフルエンザウイルス
新型コロナ従来株(アルファ株も?)|2~3|飛沫・接触・(エアロゾル?)感染|コロナウイルス
新型コロナデルタ株|5~9|飛沫・接触・(エアロゾル?)感染|コロナウイルス
水痘(水ぼうそう)8~10|空気・飛沫・接触感染|水痘帯状疱疹ウイルス
麻疹(はしか)12~18|空気・飛沫・接触感染|麻疹ウイルス

 

※基本再生産数にはばらつきが見られたので、比較的信頼性の高そうなWebサイトを複数参照し筆者がまとめた。正確性を保証するものではない。

※厳密には、新型コロナウイルスの正式名称が「SARS-CoV-2」、このウイルスによって引き起こされる感染症のことを「COVID-19」と呼ぶのだが、ここではわかりやすさを優先して「新型コロナ」と表記した。

 

 

デルタ株の感染力

コロナ禍初期は、データよりも得体の知れないウイルスへの恐怖感が先行していただけの気がするが、
ある程度慣れが出てきたこのタイミングでそこそこ確からしい数字として報告されたデルタ株の基本再生産数は、実は体感以上に恐ろしいのではないか?とも思える。

 

さて、基本再生産数8・9以上のレベルになってくると、水ぼうそうもはしかもそうであるように、感染経路として「空気感染」が入ってこないと説明がつきにくくなるのではなかろうか。

ただいくつかの専門家コメントを読む限り、CDCの見解にも大きく振れ幅があり下限に近い5や6といった数字の方が現実味があるのではないかとされているようだ。
たしかに、「8~9人」や「水痘並み」といったセンセーショナルな言葉だけが切り取られてタイトルに使われ、やや恐怖イメージが先行した嫌いはある。

 

感染者の体内ウイルス量が1,000倍、加えてウイルス排出が早く/長くなるといった情報も出てきているので、感染経路うんぬんというよりもウイルスの暴露量が大きな要因なのかもしれない。

あとは、ウイルスが体内に侵入した際の「細胞性免疫からの逃避」と「膜融合活性を高める効果」が確認されたとの情報もあるようなので、それら複数要因の掛け算だろうか。

 

 

改めて ‘感染’ と ‘発症’ の定義を調べてみた

今さら感はあるが、感染症対策を考える上で外せない用語である「感染」と「発症」。
私の現時点での認識は以下の通りだ。

感染:菌やウイルス等の病原体が、粘膜等を通して人体組織に侵入すること。
発症:人体組織に侵入した病原体が増殖し影響力を増したことによって、人体に何らかの症状として表出すること。

 

加えて言うと、体内である程度病原体が増殖してからでないと検査でも検出できないので、コロナウイルスに限らず感染症全般において感染直後は正確に検出できないことも多い、という認識である。

最近見かけた性病検査に関する現役医師のツイートでも、感染初期は検出できないことがよくあるので、検査結果よりも症状の方が大事だと書かれていた。

 

次に、大幸薬品サイトSARAYAサイト等を参考にして、確からしい定義を探ってみた。
※医学的見地が重要となる言葉のため、オンライン辞典よりも医療関係者や医療業界の出している情報が非常に参考になった。

大きな認識ずれはなかったが、こちらがより正確な解釈となる。

感染:病原体が人間の体内に侵入、定着し、増殖すること。
発症:人体感染後、何らかの症状が顕れること。「発病」の方が正確な表現かも? 発病した場合を「顕性感染」、しなかった場合を「不顕性感染」と呼ぶ。

 

 

ワクチンと感染・発症・重症化

これは私自身も勘違いしやすいので注意したい点だが、どんな方法にもゼロリスクはない。
ワクチン接種が2回とも完了したら最強!ではないし、マスクをしてれば全然うつらない!というわけでもない。

では実際、現行のワクチンにはどれくらいの効果があるのか?

 

Yahoo!ニュースでコンスタントに記事を書いている感染症専門医・忽那さんによると、60~90%の比較的高い確率でデルタ株に対しても感染/発症/重症化が予防できるという報告が各国から出ているそうだ。

※ファイザー社製のワクチンの報告例。詳しくは記事をご覧いただきたい。

 

とはいえ、2回のワクチン接種を完了した人でも感染する「ブレイクスルー感染」がアメリカなどでも報告されているし、以前から言われているように無症状者(不顕性感染)でもウイルスを広げてしまうリスクはある。

対策をゼロ⇔百で捉える誤ったリスク思考に陥らないよう意識しておきたい。

 

それから、少し前の記事でも書いたが、2回目の接種が終わる=抗体獲得ではないので、

●接種から抗体獲得までややタイムラグがある
●今後出てくる変異株への有効度合いはわからない
●接種によってできた抗体の持続期間も正確には見通せない

などの点には注意したい。

 

 

国内の感染拡大と各種データ

さて、国内の感染状況に目を向けてみる。

新規感染者数の急増については連日のニュースで頻繁に伝えられ、言わずもがななのでここでは省略するが、
あちこちで言われるように第4波のときの大阪のように医療崩壊がすぐそこまで迫っている可能性は高い。

 

※この手のデータは、例えば途中で母数が変わったり集計基準が変わったり、また検査体制・優先検査方針等の変化により数字が上下する可能性が多分にある。
ただ、それを考慮した上でもやはり数字を見て傾向を探らないことには始まらないので、今回参照したいと思う。

 

日本経済新聞の「チャートで見る日本の感染状況」に興味深いデータがあった。
感染者の年代別比率」である。

コロナ禍初期は検査体制が十分に整っていなかったため無視するとしても、2020年秋以降は概ね30代以下が50%、40~50代が30%、60代以上が20%くらいいの割合で推移している。
それがこの6月末あたりから明らかに、20~30代の感染割合が急増しているのである。

高齢世代でワクチン接種が進んだことが一因とも考えられるが、加えて今回の感染爆発は過去のそれとは明らかに規模が違う。
置き換わりが進んでいるというデルタ株の高い感染力と、エネルギッシュな若者世代の行動力がマッチしてしまったことが大きいかもしれない。

 

次に、重症者病床の使用率に着目したい。
感染者数の増加も重症者数の増加も問題だが、救えた命が救えなくなる医療崩壊を考えたとき、準備しているキャパシティーに対しての占有率は注視しておきたい。

私は、NHKの「病床使用率 全都道府県グラフ」サイトを参考にしている。
特に気になるのは、単位人口あたりの感染者数ぶっちぎりの1位をここ最近ずっとキープしている沖縄県だ。

 

沖縄県を全国平均、東京都の重症者病床使用率と比較してみた。
(2020年8月5日~2021年8月4日の毎週水曜日、計53週分)

沖縄県
重症者病床キャパ 現在84床 ◀ 1年前:47床*
県人口 約150万人
 ◇現在の使用率71%
 ◇使用率50%以上の週 約42%(22/53週)
 ◇使用率20%以上の週 約98%(52/53週)
 ◇2021年4月21日から現在まで、16週連続で使用率50%以上
 
東京都
重症者病床キャパ 現在1,207床 ◀ 1年前:400床
都人口 約1,400万人
 ◇現在の使用率69%
 ◇使用率50%以上の週 約28%(15/53週)
 ◇使用率20%以上の週 約94%(50/53週)
 ◇2021年7月21日から現在まで、3週連続で使用率50%以上
 
全国
重症者病床キャパ 現在5,364床 ◀ 1年前:2,794床
全国人口 約1億2,500万人
 ◇現在の使用率30%
 ◇使用率50%以上の週 0%(0/53週)
 ◇使用率20%以上の週 約51%(27/53週)
 ◇1年前から現在まで、使用率50%以上の週なし

 

*当該日だけ極端に病床数が減っていたので、平均的な値を見るため翌週の値を採用した。

※比較期間の始点を「1年前」、終点を「現在」と表記した。
※感染状況(ステージ1~4)を判断する政府指標を基にして、重症者病床使用率20%(ステージ3の指標)と50%(ステージ4の指標)に着目した。

 

 

デルタ株の蔓延度合い

国内におけるデルタ株の広がりについては、これまた日本経済新聞のサイトが便利なため参照する。
具体的な株の種類については、全数調査ではなく一部サンプルを抽出調査して母集団全体における割合を推測しているものと認識している。

都道府県別累計データを見ると、既に全国各地でデルタ株が検出されていることが分かる。

また、都内については東京都の変異株スクリーニング検査の結果を見てもわかるように、ここ1カ月ほどで急速にデルタ株系への置き換わりが起きていることが確認できる。
※ページ内のモニタリング会議資料抜粋PDF資料にて、4月末からの推移も確認可能。

 

次に、国外にも目を向けてみる。
(なんとなく抽出した国・地域なので、網羅性・完全性は保証できない。)

スウェーデン:感染者数は抑えられているが、デルタ株が主流になっている。
 
イギリス:直近はやや落ち着いてきたものの、5月から6月にかけてデルタ株が支配的になり7月にかけて感染者数が急増している。
 
フランス:7月に入り感染が再拡大。デルタ株が80%を占める。
 
ドイツ:感染者数は抑えられている一方で6月から急速にデルタ株への置き換わりが起き、現在は84%を占めるまで上昇している。
 
ロシア:6月から7月にかけて感染者数が急増。急増期のデルタ株割合は66%だったとのこと。
 
イラン:6月末から感染者数が急増。政府は7月頭から繰り返しデルタ株の国内感染拡大に言及している。
 
アメリカ:7月に入ってから感染者数が急増。90%以上がデルタ株系
 
ブラジル:感染者数が減少傾向にある中、デルタ株が少しずつ確認され始めている。
 
韓国:6月末から感染者数が急増。7月18~24日の1週間におけるデルタ株割合は48%まで上昇しており、急速に置き換わりが進んでいる。
 
中国:かなり抑え込みが成功しているが、7月10日の航空便をきっかけにデルタ株感染が広がるなど、リスクは依然としてある状況。
 
台湾:感染者数は抑えられている。デルタ株も確認されているが、依然アルファ株が主流となっている。
 
フィリピン:7月末から感染者数が増加。7月16日に初確認されたデルタ株は、直近の1週間で330例に上る。
 
インドネシア:6月から7月にかけて感染者数が急増。5月から6月にかけてデルタ株が急激に増えており、現在は新規感染者数の80%を占める。
 
ニュージーランド:デルタ株感染が広がっているオーストラリアとは対照的に、感染はほぼ封じ込められている。デルタ株割合についての情報は探し出せず。

 

こうして並べると、イギリスがやや先行しているものの、多くの国で6・7月にデルタ株が急速に広まり感染者数を押し上げているように見える。

 

 

急速な感染拡大と免疫回避(突然変異)

1つ危惧していることがある。

イギリスを取り挙げた以下の記事では、イギリスが「新たな変異株を生み出すのに最適な環境」下にあると警鐘を鳴らしている。

 

以前NHKの番組で知ったのだが、今般の新型コロナウイルスは常に変異を繰り返している。
細かい小さな変異、あるいは人間への脅威とならない変異も含めすべてトレースすると、膨大な数になるそうだ。

私たちが日々のニュースで目にしているのは、その中のほんの一部、人間にとって脅威となる可能性が高い株でしかない。

 

記事では、ウイルスが免疫を逃れる方法を進化させていく「免疫回避」が高まる条件を2つ挙げ、“部分的な免疫力があり、なおかつ依然感染が広がっている状況が突然変異に最も適した環境” だと説明する。

条件1.ウイルスに変異する機会がどれだけあるか?
条件2.免疫システム回避はウイルスにとってどの程度のメリットになるか?

 

日常生活の制限を一気に緩和するというイギリス政府の発表を聞いたときは「大丈夫だろうか?」と私も心配したが、
世界的にデルタ株が新規感染者数を押し上げている今、イギリス以外の国々でも上記の環境条件が揃いつつあるのかもしれない。

 

'21/08/11 最終更新

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