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この広い世界の中で、

・信じて欲しい。私もこの考え自体は数年前から頭の片隅にあったんだ。同姓同名の人物が出てくる物語。私は別に小説家でもなんでもないのだが、話題になってることも妙に悔しくなって少し前にこの本を読んでいた。

・『同姓同名』という名の書籍が書店で平積みされている様子を見て思わず膝を打った。かつて数学の授業をサボって高校の図書室で小説を読んでいた文系一直線の私は、同じ名前の全く異なる人物が出てくる物語を書いて新進気鋭作家としてデビューしようと画策していたのだ。3日間ほどはその情熱は続き、プロットを書こうとしたが滅茶苦茶になってすぐ頓挫した。人間は諦めが肝心。時は金なり。

・一気に思い出されるあの頃の思い出。薄い内容の思い出なので5秒もあれば全て振り返れた。私は膝を打った勢いのままこの本を持ってお会計を済ませ、そのまま一気に読んだ。

・読了。とんでもなく面白かった。まず、同姓同名がこの小説に何人出てくるかご存知だろうか。なんとその数総勢10名。登場人物ほぼ全員同じ名前。作者は何故ここまで人数を増やしたのかは今でもわからない。ドラゴンボールの数より多い。ゲシュタルト崩壊していく大山正紀。一気に読まないと絶対忘れると思い1日で読まざるを得なかった。

・10人も同じ名前が出てくるのでゆっくり慎重に読み進める。よくこんなに各人物の書き分けができているなと感嘆。物語の展開も同姓同名ならではの鮮やかさが随所に見られた。

・この物語はとても現代的である。責任を全くとらない無責任な媒体。匿名性に甘えてSNSで好き放題に発言する名もなき仮想住人。SNSには誹謗中傷は大量に簡単に載せられるが僅かばかりの思いやりの心みたいなものはSNSの大きな流れの中では無力に等しい。

・ある女児殺害事件の犯人と同姓同名の彼等は週刊誌やSNSという第3者発信での制裁を受け、生活に多大な影響を及ぼされる。酷い事件内容なので、その影響も殊更に大きい。

・私だったらどうだろう。このような話の当事者になるかならないか。攻撃対象が氏名である以上、それは自身で選ぶことは出来ない。私を含めた私と同じ名前の人間が悪さをしないよう願うことしかできない。自分は日本国民から総出で守られるような高尚な人物ではないので、残念ながら仮に私の同姓同名人物が大犯罪者になった場合、どうか世間に見つからないようにと願い、周りの人間に謝りながら生きていくことしかできないのだ。

・冒頭、私も同じ様な考えはあったのに!と謎の憤慨をしたが、何故こんなことを思ったのか。最初に思いついた高校生の時は特に理由もなかったが、大学に入ってから出会った大の親友が同じ名前なのだ。そのため実はこの高校生時代の思いつきは時々思い出していた。彼女とは苗字は違うが名前は同じ。名前の漢字は違うが読み方は勿論一緒。

・でも、人間性はまるで違うのだ。細かいことは気にせず唯一上司から評価されるのが強靭なメンタルであり、謎のアクティブさを発揮しつつ深夜ラジオをこよなく愛する私。同名の親友は金曜の夜に電車のホームで酔っ払って倒れ込むサラリーマンにしゃがんで声をかけるような人柄(ほっとけばいいのにと思ったし、よくよく考えると普通に彼女の身が危ない)。細やかな気配りを忘れず、私よりは少し気にしいだけどとても優しい。自炊もしているし、美容系または料理系YouTuberを教えてくれる。

・私たちは大学も違うけど、偶然出会い、とても仲良くなれた。同じ名前はこの場合は全く不快ではなく、特に違和感もない。

・だが、とんでもなく気が合わない同じ名前の人間も絶対存在する。私は運良く出会ってはいないけど。名前が同じであることは同族意識を芽生えさせる。苗字も同じなら尚更だ。

・でも、作中にでてくる10名の同姓同名人物はきっとこんなことがなければ出会うはずがないのだ。この出来事は必然ではなく、偶発的な運命に他ならない。

・あと何人、現実の生活で同じ名前の人間と会話することがあるのだろう。小説では10名だが、私はまず5人あたりを目指そうか。

【補足】記事の写真は、今年秋に同じ名前の親友と旅行に行った際に作成した灯りです

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