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歯は大切という話

若い頃は歯には無頓着だった。しかし特に歯が丈夫だったわけではなく、ご多分に漏れずあちこち虫歯の治療痕がある状態だった。ついでに歯並びも悪い。

でもわざわざ痛くもないのに歯医者に行くという習慣は当然なくて、20代から30代に掛けては何度か虫歯の治療をしたことがある、という程度。そのうちの一回はかなり酷くて、奥歯の神経を抜いたりしている。

歯医者に行くたびに、先生からは「定期的に検診に来てください」と念を押されるのだが「ハイハイ」と聞き流し、その後は放置するばかり。一応教えられる通りに歯磨きは丁寧にしていたつもりだが、やはり月日がすぎるにつれ面倒になって細かいところがおざなりになりがちだった。

そうしているうちにも、以前に治療した詰め物が取れることは度々あった。特にキャラメルがヤバい。あの、詰め物が外れたときのイヤーな感じはトラウマになっていて、今でも時々夢に出てうなされるぐらいだ。そういう時は仕方なく急患で歯医者に行ってまた埋めてもらうしかない。

しかし40代になり、例の鬱からの山奥の隠遁生活になってからは、そうそう簡単に歯医者に行ける環境ではなくなってしまった。元から「電話をして予約する」ことを非常に億劫に思う性格も災いし、詰め物が取れても「これ自分でくっ付けとけばいいんじゃね?」と思ってアロンアルファで付けるという酷い対処をするようになってしまった。

当然のことながら、そんなことをしていれば早晩詰め物の隙間から虫歯が浸食し、その歯はどんどん悪くなっていく。でも歯医者に行くのはめんどくさい・・・そうして数年が過ぎた。当時は山奥に暮らしつつ社会復帰はして横浜に単身赴任していたのだが、月に何回かは週末京都の山に戻る、という生活をしていた。

そんな週末のある日、突然右下顎がズキンズキンと痛み始め「あっこれはマズイことになった」と直感した。しかしすぐに歯医者に行けるでもなく、痛み止めを飲んで一晩様子を・・・見ている状況ではなかった。どんどん下顎が腫れてきてたちまち「見て分かるほど」パンパンに。嫁さん「アーッハッハ面白い顔!はよ歯医者行きや!はい痛み止め」ぐぬぬ・・・

やむを得ず休日急患を見てくれる歯医者を探し、山を降りて駆け込む。「ははーこれは酷いね〜、ずいぶん放置しましたか?」「はい・・・」とりあえず応急処置を施してもらい、翌日横浜に戻って以前掛かっていた歯医者に恥を忍んで診てもらう。案の定、神経までやられていた。

だいぶ治療期間を要したが、不幸中の幸いで歯を抜くことだけは免れた。これは本当によかったと思う。それ以来、心を入れ替えて必ず年に数回は定期検診をしてもらうようになった。

たいてい数回に一回は「この隙間にまた虫歯が〜」とか「ここの歯茎が腫れてるのでレーザーで焼きましょう」となったり、歯ブラシのチェックをされては「利き手はどっちですか?ここの裏がいつも手薄ですね、練習しましょう」などと指導されているうちに、だいぶうまく磨けるようになった。

そんなこんなでそれ以降その歯医者さんにはずいぶんお世話になったのだが、まったく想定外のことが起きた。コロナ禍で会社がフルリモートになり、事業所が整理統合されて新横浜のオフィスが廃止されてしまったのだ。

当然、その歯医者さんには「出社するからこそ、ついでに」受診できていたのだが、職場がなくなってしまってはそうも行かない。別に電車を乗り継いで行っても良いのだが、そんなことをするとまた足が遠のいてしまう。

「かくかくしかじかで、長年お世話になりました」と挨拶をして、自宅近辺で良い歯医者を探すことにした。しかしこれまた生来の腰の重さ(電話を掛けるのが嫌い)が災いし、コロナ禍だったことも相まってなかなか行動に移せなかった。

ボヤボヤしてるうちに2年が経過。いくら何でもそろそろまたダメなところが出ているに違いない、と言う頃に丁度嫁さんが歯の治療をすることになり、近くの歯医者さんを発見。受診したところ丁寧で良い先生だという事で自分もそこに通うことにした。

何とその先生は自転車乗りだった。ヒルクライムにちょいちょい出ているという。診察室の脇にも前乗っていたというロードが置いてあり、少し話をするうちにたちまち仲良くなって、いつも診察に行くとニコニコ出迎えていただき、合間に「こないだは○○峠に行きましてね」などと話に花が咲く(アウアウとしか言えない状況も多いが)。

こちらとしては歯医者に行くハードルが激下がりと言う訳で、願ったりかなったりであった。診察していただくとやはり不如意な二年間の結果あちこちに小規模の虫歯や以前治療した被せの劣化などがみつかり、半年ぐらいかけて治療する必要があった。

そんなこんなで、若いころは全く軽視していた「歯の健康」について深く考えることが多くなり、自分の歯を維持していくことの大切さを痛感するようになった。歯医者でも特に歯茎の健康状態を重視し、歯槽膿漏にならないよういつも診断されるようになっている。

歯が悪いと食べる(食べられる)ものに大きく影響する。それは最終的には全身の健康状態を悪化させることに繋がる。そうでなくても、虫歯菌を口腔内に飼っていること自体、様々な臓器に悪影響を与えるという話もある。そして歯を食いしばることができなければ力を出すこともできないから、筋力も低下していくだろう。

実際、親族の中でも入れ歯になっている人より、自分の歯を多く残している人の方が圧倒的に健康な余生を過ごしている。8020運動(80歳で自分の歯を20本残す)というのがあるが、自分はまだ28本ある(親知らずは4本とも埋没しているため放置)のでこれをできるだけ維持したい。

実は五島に向けて準備しているまさに今、先週あたりから以前神経を抜いた奥歯がジーンと痛み始め「よりにもよってこのタイミングでーっ!!」と暗澹たる気分になった。歯が痛いとレースどころではなくなってしまう。

ところがしばらく様子を見てから予約して受診したころには痛みが引いていて、診察の結果「抜歯した歯には時折ある炎症」とのこと。数日で痛みが引くなら大したことは無く、下手に治療しないほうが良いとのことで胸をなでおろした。

歯は本当に大切です。いま歯医者に行くのをためらっている方、是非(勇気を出して)検診に行くことをお勧めします。

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