見出し画像

伏し浮きができた話

人間椅子のライブの後で「伏し浮き」の話をする人もなかなか居ないと思うけど・・・

以下は「スイムど素人(これまでスイミングスクールの類に通ったこと無し)」の私が、自分なりに「そういうことか」と理解できたことを記すものである。従ってちゃんとした経験者の方からすると「プッ、そんなの当たり前じゃん」とか「いや、それ理解が間違ってますよ」ということがあるかも知れない。

伏し浮きとは

水泳の基本技能(?)の一つに「伏し浮き」と言うのがある。競泳をやるような人なら当たり前のようにできる、むしろできないと話にならない類の、速く効率よく泳ぐために非常に大切な「正しいストリームライン」を形作るための姿勢で、静止して浮き続けることを言う。

これを初めて知ったのは、10年以上前だったか、元オリンピックメダリストの萩原智子選手がNHKの水泳番組に出演して「これが伏し浮きです」と言って実演して見せたときだった。

衝撃だった。彼女は水面に身体を伸ばしてスーッと浮き上がり、そのまま浮き続けていた。自分の(非常に大したことない)プール経験からして「物理法則を無視している」かのように見えた。

ネットの情報などで、伏し浮きを続けられるようになると蹴伸びで浮き続けて10メートル以上、上手い人になると25メートル行ってしまう、という話は見ていたが、ネット特有の「盛り話」の類のような気がしていたし、今のようにYouTubeで何でも見られるものでもなかった。

できない理由

実際、自分が蹴伸びをやってみると、5メートルも進む前にただちに脚が沈み始める。どんなにストリームラインを意識してしっかり腕を伸ばしても全然ダメだった。まして壁を蹴らずにその場で浮こうとしても、脚の方が重いし、肺(浮心)はどう考えても身体の重心より上(前)にあるんだから、沈むに決まっている。

要は、こういうことだ。①が浮心(たぶんこの辺)、②が重心(たぶんこの辺)である。

脚の方が重い、浮袋たる肺は上の方にある→脚沈む

この絵(ちょっと極端だけど)を見ると「脚が浮く筈がない」と思えてくる。しかし、実際ハギトモはプカーと浮き続けていたし、彼女とNHKが全国民を騙すためにトリックを仕込んだとも思えない。

モノの本やらネットやらを見ると、やれ「腹を引っ込めろ」だの「身体に芯を通せ」だの「肺を意識しろ」だの「もう既に出来る人」が観念的なことばかり書いていてさっぱり参考にならない。どう頑張っても脚はむなしく沈んでいくばかり。

いつしか伏し浮きへの興味は失われ「まぁいいや泳いでキック打ってる分には脚は一応浮いてるし、ましてトライアスロンではウェット着るし」と思って気にしなくなっていた。

救世主現る

そんなとき、ふとしたきっかけで以下のようなYouTube動画がお勧めに表示された。「伏し浮きは10秒でできる」「力学原理」・・・??またなんかウソくさい動画だなぁ・・・まぁ一応見てみるか。

詳細は割愛するが、この動画で制作者が訴えていることはただひとつ。

「腕を水面から上げろ」

これだけだった。えっこれだけ・・・??

どういうことか。これは「水中にある物体には浮力が働く」ことを理解していれば分かってくる。

脚は腕にくらべ、たいへんに重い。これは事実だ。しかし、その重い脚も、水中に沈んでいるときにはその体積に応じた浮力が掛かっている。脚の比重は1より大きいから、その分沈みやすいというだけだ。

一方腕の方も、脚より軽いとは言え、両腕で一定の体積があり、水中にあればそれなりの浮力が掛かることになる。これが最初の図の状態だ。

比重が1以上だから重力の方が大きい、そして脚の方が重い→沈む

さらに重心より上(前方、図の左)にある肺は浮袋だから圧倒的に浮力がある。かくして脚は沈むしかないことになる。

そこで「腕を水面から上げる」とどうなるか。

水面から上に上がった腕の体積分の浮力がなくなる

水面から上に持ち上がった腕には、水の浮力が掛からないため、純粋に重力だけが働くことになる。したがって、浮力と重力で相殺された「沈む力」が相対的に脚よりも大きく(重く)なるのだ。これによって、重心が上(前方)に移動して浮心と一致し、水平に浮き続けられることになる。

腕は水上にある分、相殺される浮力が少ない(重くなる)→バランスが取れて、浮く

この時、注意してほしいのは「頭は上がってない」ことだ。腕を上げるとともに頭も上げてしまうと、結果的に上半身が全部起きてしまい、それに引きずられる形で下半身が沈んでしまう。

従ってこの姿勢を実現するためには、よく言われているとおり「肩の柔軟性」が非常に重要であることが改めて理解できた。自分ではしっかり頭を挟んで腕を伸ばしているつもりだったが、不十分だったのだ。

要するに、ハギトモの伏し浮きはトリックでもなんでもなくて、水泳選手なら普通にやっている「正しいストリームライン」を実践すれば、勝手に浮くということなのだ。まさに目からうろこだった。

YouTubeのコメント欄には「これを意識してやってみたら、できました!」というコメントがいくつか寄せられていた。マジか・・・これは・・・試してみなくては・・・まだ、その時は半信半疑だった。

数日後、ようやくプールへ行くことができた。さっそくフリーエリアでやってみる。しっかり腕を伸ばして、水面から上げる意識で・・・うーん・・・まだ沈む、、、ダメか?もう一度やってみよう。グッと伸ばして、上げて・・・

できたあああぁぁぁ

浮いてる・・・浮いてるぞ!脚が沈まない・・・!!やった!!伏し浮きができた!!うおおおお・・・

何という事だ。還暦まで秒読みみたいな歳になって新たな開眼があるとは。これはトライアスロンの神様からの「オマエ、まだスイムを諦めんなよ」という思し召しかもしれない。来期はもう少し頑張ってみよう。

・・・と言いつつ、この時以来一ミリも泳いでないのだった・・・

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?