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 ユーラシアの覇者たち――杉山 正明『遊牧民から見た世界史』

 紀元前500年ごろから紀元後1800年ごろまでユーラシアは中国、インド、中東と大きな文明が周辺地域を文化的軍事的経済的に圧倒していたように思える。
 
 しかし、本書によれば、各文明の存立を決定したのは、中国の北京からイスタンブール、バグダッドに至る中央ユーラシアの広大な空間を自由に駆け巡るモンゴルやトルコなどの蛮族といわれた遊牧民だった。
 
 中国は秦の成立から唐、モンゴル、清に至るまで遊牧民の助けを請うたり、遊牧民そのものが支配者になっていた。中東も、古代からペルシアやトルコ人などの遊牧民が尽きることのない覇権を競い合っていた。

 筆者が強く訂正を迫るのは、「○○国は○○人が治めるべきだし、治めなければならない」という近代的な民族主権の観念だ。
 
 そこで思い出したのは「それは金毛獣のある一群のことであり、戦闘的体制と組織力をもって、数の上では優勢である(略)住民の上に逡(ため)らうことなく恐るべき爪牙を加える支配者の一族のことだ。

 実にこのようにして地上に「国家」は始まるのだ。国家は「契約」をもって始まるとなすあの妄想は片付けられてしまった」(木場深定訳『道徳の系譜』)という哲学者ニーチェの言葉だ。

 ニーチェに言わせれば、合意によって国家は成立するなどというのはまやかしであり、国家は何よりも「力」によって成立し、そのこと無視しては何も解明できないということだろう。遊牧民の歴史的な活躍を眺めているとそのように感じてくる。

 ともあれ、本書は文明の狭間で文明から野蛮視され、正当に位置づけてこられなかった遊牧民が、歴史的にいかに大きな存在だったかを文明の記録を“透かし読み”することによって生き生きと描き出している。

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