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頬杖のスフィンクス

僕にとってそれは全部幸福な出来事で
僕の心を駆けぬけた美しい音楽、
貧しい胸をしめつけた雪解けのような恋、
ささやかではあったけれど忘れられない日々。

遠い眼をしている黒い髪の天使、
鼻の頭にまぶしい昼間の光あつめている。

 僕の頬が生気なくかさついているのは
 君への恋患いのせいかもしれないね!

     *

形のいい薄眉やすべすべしたおでこ、
つんと突き出ている小さな鼻の頭を
眺めている僕の頭をしめつける
幸福な君への告白についての物思い。

 黒い髪、長い足、おまえの痩せた腕、
 美しい薄眉や潤んだような瞳、
 瞬きひとつで何度でも僕を奪い去った
 まるで小さな大型ショベルカーのようだった。

頬杖を机に突き立てている、
悩ましげな眼差しで目覚まし時計に目をそらし…
そんなことを夢に見る起き抜けの寝床で
僕の頭を支配した片思い。

     *

上擦ったような熱っぽいような調子で
君は何事もなかったかのように
痩せた笑みこぼす。

一瞬で僕の心を鷲掴みにしたまま飛び去った
君は小さなスフィンクス!
 
 それは全部幸福なこと、美しい音楽、
 甘い恋、一瞬ではあったけど《永遠》。
 悲しみに濡れたバス停で昼の陽を浴びて
 僕たちを次の場所へ運ぶべきバス待つ。

 僕にとってそれは全部幸福な出来事で
 僕の頭を駆けぬけた美しい音楽。
 
  (1996年3〜4月、2020年一部改詩)

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