考える人ドリー

2017年、再生可能エネルギーを讃える歌「都会の農夫」「新しい時代」を制作したのを機に演奏活動を再開。 再エネや種の大切さを歌った歌をはじめとして、言葉を重んじた日本語詩の歌を弾き語っています。 ここでは、主に自作曲の歌詩を掲載しています。

考える人ドリー

2017年、再生可能エネルギーを讃える歌「都会の農夫」「新しい時代」を制作したのを機に演奏活動を再開。 再エネや種の大切さを歌った歌をはじめとして、言葉を重んじた日本語詩の歌を弾き語っています。 ここでは、主に自作曲の歌詩を掲載しています。

最近の記事

小さな一日

朝が来ると 夜の町が服を一枚脱いだみたいに 色を変えて新しくなり 一日が始まる。        * どこにも見当たらない言葉を探して 今日の輪郭を見定めようとする、 何かに似ているようで 何ひとつ似ているものなど ないと思うよ。  恋をしてるみたいに  今日のすべてが輝いて見える、  どんな嘘もみすぼらしく  消え失せていくだけ。        * 誰もがたった一人の母と一人の父との たったひとつの出会いから 命をもらってここへやって来た 長くて短い物語。 もうこ

    • おまえは昏い眼をしてる。

      おまえの顔が歌っている、 傾く夕陽の光を浴びて オレンジ色に光る鼻で 眩い天使の歌を奏でている。 おまえの形のいい薄眉や つんと突き出たちいさな鼻、 つるんとしてまだ少女のような若さを見せる すべすべしたおでこ。  ぼくにとってそれは全部  ひとつの芸術品のようなもの。 《永遠》が溶けていった海の青よりも おまえは昏い眼をしてる。     *  おまえが横を向いた拍子に 折れそうなほどに細い首筋に くっきり浮き出る静脈が ピアノ線のように震えている。  おまえは薄

      • 昏い水のなかの夢

        しろく濡れた眼をして革命の話を聴いて 心がどこか遠くにとんでしまったような気持ち。 遠い雨の降る夜、窓の外の暗闇に 夜の匂いを探している。  窓のふちでは六月の雨粒がぶら下がっている!  ぼくたちの幼年が終わる。 新しい季節は物憂げに出番を待ちあぐねている、 息を潜めた獣のように。 開演前の舞台裏でぼくらは黙りこくって 何かの始まりを待っている。     *   昏い水のなかに浮かぶぼくらの目玉は安い電球のようだ、  古びた身なりは残骸のレインコート、  衣摺れの音も

        • 未決囚

          痩せこけた改造自動車が 白っぽい粉末を撒き散らしながら 中央通りを進んでゆく、 振り返った僕の眼の前で ふいにそれが消えて 心の内側にちいさな砂埃をあげた。  おおお、ガソリンスタンドには誰もいなくて  もとの砂漠にでも戻ったみたいだ。     *  市役所と裁判所、 律儀な背広のオンパレード、 外されたナンバープレートは受理済み離婚届、 いつの時代にも犯罪に必要なものは 欲求不満と渇ききったみすぼらしい焦躁。  おおお、ながく垂れ下がるホースから滴る濁る油(オイル)

          外苑の千の花

          もう二度と会えない そんなことも知らずに 過ごしていた昨日が 遥か遠くに見える。  いろんなことが浮かんで消えるけど  どうしてなのか、うまく思い出せない。     *  百年も前に植えられた樹々の傍らに集まり 森の音に耳澄ます。  いろんな声が聴こえてくるようで  どんな音も耳に残るよ。 あなたに手向けられた花、風にそよいで 忘れたくない音楽を奏でているようで。    *  忘れないように  忘れられるように  小さな灯火を持ち寄り集まって  命を傾け  雨の

          外苑の千の花

          『Ryuichi Sakamomo: CODA』を観て〜 被災したピアノに共振する魂の記録

          教授追悼の思いを込め、2017年12月にAmebaブログに書き綴った『Ryuichi Sakamomo: CODA』映画評を、こちらにも再掲しておきます。 あらためて、教授の「音楽と思索の旅」は、《自然》の声を忘れ去ってしまった現代人への重要な警告と示唆に満ちていると感じます。 以下、2017/12/19 アメブロより 「角川シネマ有楽町」にて、映画『Ryuichi Sakamomo: CODA』を観てきた。 上映前には、教授と映画評論家・樋口泰人氏によるトークショーが

          『Ryuichi Sakamomo: CODA』を観て〜 被災したピアノに共振する魂の記録

          春風と小鳥

          僕の胸の奥にかけられていたはずの鍵が いつまにかそっとこじ開けられていたみたいだ。 風のように形や影も見せやしないのに 知らぬ間にすっかり 全部盗みとられていたみたいだ。  おまえは怪盗か名探偵みたいに  絶対に開かない扉さえも開けてしまう! 今夜僕は叶わない思いを抱えて きっと終わらない夢のほとりへ向かう。       *  おまえは魔術師か妖精みたいに  この場所の色でさえひと息で塗り替えてしまう! きれいな小鳥を探しているうちに 迷いこんだみたい、抜け出せない

          殺し合いのルーレット

          いつの間にかルーレットが回りだす、 悪どい嘘と欲を動力として。 がらがら物凄い音を立てて 恐ろしいルーレットが回りだす。        * 豊かで肥沃な穀倉地帯に 不釣り合いに汚れた重装備が 進んで行く道のりは 絶望的に暗くて長く汚い。 もうどこへも進めない、 放った砲弾のせいで きれいな帰り道などもう無くしてしまった!  殺し合いのルーレットが回りだす、  恐ろしい兵器と正気と核を乗せて。  ひとたびそいつが熱を帯びれば  すべてが一瞬で灰に帰す。        

          殺し合いのルーレット

          冬の野の犬

          故郷の町。 傾いた背中のうえ 白い大群がこの町を襲撃に来る。 春の大雪にぼくは心震わせて 黒い屋根瓦に最後の雪が降りつもる。  ああ、きみの影を曳きずりながら歩こう。  痩せた胸をそっと震わせよう。  ぼくはポケットの拳を握りしめて歩いていく。 ぼくの故郷は遠くにあるものじゃない、 心の内側でぼくを縛りつけるものだ。       * 故郷の道。 懐かしいものどもの群れ、 古い地下街は無名の人ごみもない。 裏の通りには今でも昔の赤煉瓦、 十年前のぼくたちにばったり出会っ

          鳥と鼠

          冬の街路に羽ばたく鳥たちは 雪の街灯かすめて小さな無名の旅に出る。 地上に残された者は 見えない荷物を背負っている、 やつれた空の頭のうえから足の先まで!  地上人ならば泥の翼もついていない、  おもい衣装をひきずって  身軽な犬や猫でさえもない。      * 重い病に倒れることだけが いまのわれらには残されている栄光か? 余命でも宣告されたとたんに ぼくは生きはじめる!  落葉の路を急ぎ足で駆けてゆく  ちいさな濡れ鼠にでもなれるかもしれないね、  ただこの坂道

          白い教室

          ぼくは教室の片隅ではじめて あなたの姿を見つけてしまった、 だけど《大きな人間》がやってきて ぼくらは整列して黒い頭を傾けた。        * ぼくらは黒い板と白い壁に閉じこめられて 動けずにここにいる。 黄色い肌をざわつかせて この時間が終わりを告げる《あの音》だけをじっと待っている。 ぼくらはひとり遊びがとても下手だ、 秘密の手紙が廻るとぼくらはゆっくりとざわめきだす。 ぼくらは指をさされて返事をする、 名前を呼ばれて立ちあがる、 答えられずにひっそり俯いて。

          そんなに違わない

          セプテンバーが物憂げに響くのは もう秋のせいだけじゃない。 貧乏を無力と思い知るのは べつに理想を捨てたからじゃない。 大統領の子孫には 残念ながら罪はない。 こう見えて見た目ほどは まともな人間じゃない。     * 気ぜわしい師走の風情に 悪い気はしない。 無意味におんなじ事柄を反芻する癖は 決して常人のそれじゃない。 いつまでも太陽を拝んでいられるわけじゃない。 爪や髪はまた伸びてくれるけれど 腕や脚や魂までは そんなふうにはいかない。 時間はセレブも金持ちも 待

          そんなに違わない

          夏の残り滓

          ちいさく背伸びをして 八月の空を見上げていたら ぼくの右眼にひと粒だけ つめたい雨が落ちてきた。  もう終わりなんだな、  夏の虫が高い樹でまだ騒いでいる。     * 消し忘れた扇風機が ばかみたいに頭を振っている、 夏の虫の死に殻がぺしゃんこになって 雨に打たれる。  思い出したように照りかえす日射しのなかで  過ぎてゆく夏の残り滓に  眼を潤ませているぼくがいるだろう、  ちょっと暑さにやられただけだ。     * 夏の残り滓が きみの肩のあたりで剥けかかっ

          泥コーヒーと夏 (酷暑篇)

          太陽の下で野良犬がのぼせあがれば 僕らは夏のシャツを躰に貼りつかせる。       * 太陽の下で僕はまだ冷えきった頭持て余す。 《夏の日に  僕はあなたの真似をして  苦いコーヒー啜り飲んでみる》 そのガラスコップのコーヒーは… そこまで云って君は口ごもる。 僕は君が飲みこんだ言葉 つづけさま吐き出してみせる。  僕らのコーヒーは何だか泥コーヒーみたい  濁ってるガラスの壁を苦渋の滴が垂れそうだ、  僕らの飲むコーヒーは何だか僕らの夢みたい、  苦く香る、ガラスを伝

          泥コーヒーと夏 (酷暑篇)

          太陽と海

          真夏の風に包まれて 僕はなぜか懐かしい感じがしている、 だけど素敵な思い出なんてたいしてない 憂鬱な熱が充満した季節。 色の白い君に恋をした。 くだらない教授の講義の間じゅう 僕は君の後ろ頭眺めている、 君は机に何か落書きをしている。  アルベール・カミュの言葉が書いてある、  僕はそれを見て笑った。        * やがて海辺は熱い肌を持て余している 男と女で満たされるだろう、 夏の終わりにはいい色に焼けた君が 僕をすっかりのめしてしまうだろう。  夏が過ぎてゆ

          廿世紀梨

          窓辺に立ち手を伸ばして 二十世紀梨嚙りながら ここで確かに生きてた証に 部屋の空気を吸い込んでみる。 僕によって吸われた煙草が 黙ったまま灰皿のうえで 折り重なって戦死したみたいだ、 だけどそれもまた僕の人生だ。  ああ、多くの言葉がまだ僕の胸に突き刺さったままだ、  そっと僕はそいつを眺めて引き抜こうともせず出てゆく。       * 無言の机が所在なさげに 彼の主人を待ちあぐねている、 僕は冷たく一暼して旅立つための荷物を背負う。  ああ、音楽も古びた馴染みのレ