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ひまわりと月明 (完結済)

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長編?作品『ひまわりと月明』のマガジンになります! 毎話ここにまとめていきます!
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2024年3月の記事一覧

ひまわりと月明 『第6話』

ひまわりと月明 『第6話』

私には、夢がない。

目標がない。

才能がない。

なのに、私の周りには眩しいくらいの才能を持った幼馴染が三人もいる。

○○は、中学生の中でも指折りのピアニストだろうし、××も県大会で大活躍できるくらいのバスケットボールプレイヤー。

アルノだって、思わず涙がこぼれてしまうくらい歌が上手。

対して私は?

私には何があるの?

運動神経、並。

学力、並くらい。

夢、無し。

目標、無し。

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ひまわりと月明 『第7話』

ひまわりと月明 『第7話』

休日の午前九時。

楽譜を広げ、イヤホンをはめてピアノに向かう。

ピアノを弾くのにイヤホンで別の音源を聞く奴なんて早々いないだろう。

しかし、今の自分にとってこれが最適解。

再生された音源に合わせてピアノを弾く。

耳はイヤホンから流れてくるアルノの声に集中し、目でひたすらに音符を追い、脳みそから指に指令を送り続ける。

何度も何度も弾いて、その録音を聞いて。

テンポも、強弱もバラバラ。

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ひまわりと月明 『第8話』

ひまわりと月明 『第8話』

九月に入った。

暦の上ではもう秋だというのに、照り付ける日差しも、焼き付ける様な暑さもちっとも夏から変わっていない。

じっとりとした汗が額から滲む。

エアコンをつけて、防音室の扉を閉める。

「あぁ~涼し~」

おっと、いかんいかん。

申し込んだコンクールまでそんなに悠長にしている時間なんてない。

朝の貴重な時間も無駄にしてはならないな。

いそいそと楽譜を広げて、ピアノを弾き始める。

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ひまわりと月明 『第9話』

ひまわりと月明 『第9話』

背中に伸びていた夏の暑さの魔の手も振り切り、葉も色づいてきて、すっかり秋の様相を呈す。

今月の末にはとうとう申し込んだコンクール。

大きなものではないし、このコンクールの結果次第で未来がどう変わるってわけでもないけれど、久しぶりだからか今からそれなりに緊張しているのも事実。

それは音にも如実に表れていて、聞き返す録音越しの演奏はどこかブレを感じる。

何度も何度も、弾いては聞いて、弾いては聞

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ひまわりと月明 『第10話』

ひまわりと月明 『第10話』

正直、焦りはあった。

自分は何を成しえているのか。

自分は何者になれるのか。

先週の○○のコンクールでの演奏を見るまでは、○○だってきっとそう思っているんだって、心のどこかで安心していた。

だけど、あの日。

あの日、間違いなく○○は何者かになろうとしてた。

昔の○○の姿を見た。

いつもいつも俺の前を止まらずに駆けていく○○の背中が、より一層遠くになった。

俺も、何か成し遂げないと。

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ひまわりと月明 『第11話』

ひまわりと月明 『第11話』

指の震え、膝の震え、肩の震え、視界の震え。

木枯らしが落ち葉を舞い上げる音も、雑踏も、今日は無駄に大きく聞こえる。

会場は前よりも大きいし、参加者も観客も前よりも多い。

前回出たコンクールとは規模もレベルも違う。

体の芯から震える感覚。

腹の底がむずむずとする感覚。

「○○……」
「…………あ、ごめん。ちょっとぼーっとしてた」

「ネクタイ、ずれてるよ」
「うわ、ほんとだ」

「直して

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ひまわりと月明 『最終話』

ひまわりと月明 『最終話』

春の陽気に包まれた公園は、子供たちの無邪気な声で溢れ、平和という言葉を具現化している。

ベンチに座って、優しく吹くそよ風を浴びながら目を瞑る。

こうして、何もしないで眠ってしまうのもまた一興……

「パパー!」

聞きなじんだ声に目が覚める。

「陽葵。どうしたんだ?」
「あたしね、ママといっしょにね、パパにかんむりつくったの!」

「おー!どれどれ?」

僕が頭を下げると、陽葵がそっとそこに

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