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⑩新書「ミャンマー危機 選択を迫られる日本」を読んで(2021年7月1日出版)

ご無沙汰です。桐島です。久々のミャンマーに関する投稿です。

今日は、2021年7月1日に発売されたばかりの、ミャンマージャポン(現地の日本語フリーペーパー)編集長の永杉豊氏の本を紹介します。

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まずはじめに、私は筆者のことは知りません。しかし、関係者の話では、あまり高い評価は聞いたことがありません

そのため、筆者の主観の部分は割り引いて読む必要がありますが、事実関係に関しては、最新の状況がうまくまとめられていると思います。
以下に概要を記載します。

<国軍の選民思想>
●4月9日国軍は「雑草や害虫は取り除く必要がある。必要であれば殺虫剤を撒く」「我々が本気を出せば自動小銃で1時間に500人を殺せる」と発言
●約40万人のミャンマー国軍は、入隊後に洗脳教育を受けて、非武装市民でも、国軍に逆らい従わない人間であれば、殺しても構わないという発想
生活面では、兵士の家族も一緒の軍の宿舎に入り、店も病院も敷地内にあり、友人も舎内だけという社会から隔絶された環境で生活を送っていて、実質的に家族が人質となってしまっているため、脱走や亡命が不可能
=4月16日に脱走したチャン・ミャ・トゥー二等兵によれば「若い兵士の80%はやめたいと思っている。しかし、家族のことや今後のことを考えると辞めたくても辞められないのが現実だ」
●軍は外国の侵略から自国民を守るために存在するが、ミャンマー国軍は鎖国の中で外国軍と戦闘したことがなく、少数民族や国軍に抵抗する市民に銃を向けた国内鎮圧ばかり。日本の江戸時代の武士と同じ状況で、武士と武家社会の存続自体が目的となり、国民の存在は二の次となる
●第二次世界大戦中に旧日本軍の下で日本式の教練を叩き込まれたミャンマー国軍は、異常なまでに上下関係・規律に厳しく、上官の命令には絶対服従するため、殺人を厭わない


<少年兵問題>
国軍と民族軍の双方により少年兵が多く徴用されてきた歴史がある(2002年国連調査では18歳以下の兵士が推定7万人、10歳の子供もいて世界最多数の少年兵が存在)
多くは貧困層で、拉致され、強制的に徴用され、入隊後は学校に行くことも許されず、銃を持たされ、軍の隔絶された世界で毎日厳しい訓練や戦闘を繰り返し成長
少年兵として10代から軍で訓練された兵士の多くが、市民に対して抵抗なく発砲しているという証言が多い

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<2月1日のクーデター>

●国軍は、2020年11月選挙で重大な不正があったと主張しているが、結論ありきの主張で不当
=証拠は、国軍が投票完了者を記録した『フォーム1』という名簿を開示・検証しないこと
●クーデターは数年前から周到に準備されていた。国軍幹部は自分たちの権力を失うことが恐怖
=4月に軍隊を脱走した少佐の証言


<国軍の市民無差別発砲・殺傷>
ヤンゴンには「第77軽歩兵師団」、ネピドーには「第33軽歩兵師団」が送り込まれた
=前者は長く抑圧された少数民族や孤児を軍事教育した兵士が主力で、ビルマ族に銃を向けることに抵抗が無い凶悪部隊。後者は2017年に少数民族ロヒンギャの虐殺を実行した最も悪名高い部隊


<日本人への被害>
●2月28日軍と警察が放った催涙弾が日本人(ヤンゴンの新町氏)住宅に着弾●4月17日日本大使館職員宅やJICA日本人職員が住む集合住宅に、銃を持った治安部隊が踏み込んできて家宅捜索(ジュネーブ条約違反)

<国軍記念日(3月27日)の虐殺と祝賀パーティー>
●ミャンマー国軍記念日の3月27日は114名の市民が殺された夜、国軍幹部は祝賀パーティを開催
=アメリカ、イギリス、日本を合わせた12ケ国の軍や自衛隊幹部が共同声明を発表して、ミャンマー国軍の暴力行為を強く非難

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<国民統一政府NUGの誕生>

●4月16日総選挙で当選した民主派のNLD議員により構成された連邦議会代表委員会(CRPH)が「国民統一政府(NUG)」の樹立を宣言
=国軍は、CRPHとNUGを非合法組織と指定し、閣僚に逮捕状を発出

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<国軍内部にもクーデターに対する批判も>

●今回のクーデターは、ミン・アウン・フライン国軍総司令官の個人的な野心で引き起こされたという批判がある。今年で定年の予定だったが2月4日に任期を65歳までとする軍司令を撤廃。自分の影響力が残るよう権力基盤を作り上げ、大統領の座を狙っているという噂も
年間2000億円以上ある軍事予算は、彼の裁量次第


<日本の対応>

●2月26日日本政府は、ミャンマーへのODAの新規案件の採択を当面停止する検討に入った
●2019年度の日本のミャンマーへのODAは、円借款1688億円、無償資金協力138億円、技術協力66億円で、最大の支援国


<日本のODAの取り仕切る日本ミャンマー協会(渡邉秀央氏)>
●日本ミャンマー協会は、日本とミャンマーの民間レベルの経済交流の推進を目的として設立され、最高顧問に麻生太郎内閣副総理・財務大臣、各社が軒を連ねている。2012年に自民党出身で元郵政大臣の渡邉秀央氏が設立
渡邉氏は国軍との太いパイプがあり、特にティラワ経済特区(以下の地図)に開発が肝入り。2011年に就任したテイン・セイン大統領から提案を受けて、すぐに巨額の援助と投資、約50億ドル(約5400万円)相当の債務帳消し保障を政府と民間金融機関から取り付けた
●ミャンマー側のビジネスパートナーは、国軍と関係の深い建設業財閥ドラゴンインターナショナル社の総帥で当時ミャンマー商工会議所会頭のウィン・アウン氏
●これを機に日本ミャンマー協会会員企業は渡邉氏に頭が上がらなくなった

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<現地で軍事政権と市民の間で板挟みの日本企業>

●民主化から10年間で、日本企業は約2500億円と投資してミャンマーに中継局、アンテナを建設して4G通信回線を整備する等、通信環境の劇的な改善に貢献
=2014年で約10%の携帯普及率⇒現在100%越え
●しかし、現在はティラワ経済特区内の日本企業は、従業員不足(市民不服従運動(CDM)参加のため)、通関手続きの遅れによる資材の調達問題、現金不足(銀行ATMの現金引き出し制限)などの問題あり


<ミャンマーへ触手を伸ばす中国>

中国はミャンマー国軍支持のため、民衆は反中デモや中国製品不買運動を実施
●クーデター発生直後に国軍が国際航空路線を閉鎖したが、中国・雲南省昆明市から貨物船5機がヤンゴン国際空港に到着
●SNSで、国軍の中に、色白で中国人のような顔つきの武装兵士の姿があると投稿があり「既に国軍兵士の中には中国の人民解放軍兵士が紛れ込んでいるのではないか」という噂が拡がる
●中国は、ミャンマーのヒスイやルビーの採掘鉱山でも、ダイナマイトで山ごと爆破するような強引な開発を進めるため、市民の嫌中感情は悪化
●クーデター以降の5月7日に国軍は、中国からの25億ドル(訳2700億円)の液化天然ガス発電事業を許可


<ミャンマーからの技能実習生を日本企業が敬遠>

クーデター以後、ミャンマー人の技能実習生の雇用を断る企業が出始めている
=理由は、技能実習生として日本に入国後、難民申請をされて会社からいなくなったら困ること
●本来であれば、彼らが窮地に立つ今こそミャンマー人の雇用を増やすべき


<今後のミャンマーの見通し>

●2014年から5年間、駐ミャンマー大使を務めた樋口健史氏は「残念ながら、明るい展望は描けない」と予想
市民の抵抗がさらに継続拡大し、40万人の国軍との徹底抗戦を選び、国家として体制が機能しなくなり、内戦状態に突入する可能性がある。過去の民主化デモと違い、すでに10年間の民主社会を経験してきた国民は今回のクーデターを「今まであった自分たちの民主主義を奪われた」と感じており、もう一度軍政を受け入れることはないであろうし、そして徹底的に国軍を戦うことを選ぶはず

ミャンマーの現状を学ぶたびに、ミャンマーが置かれた歴史の難しさ、市民の苦悩、解決の困難さが身に染みてきます。

関心を持たれた方は、まずは、ミャンマー料理屋さんに足を運びましょう♪

See you soon.


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