前回の続きです。いきなり質問です。
ルアンパバーンのすぐ北を通る中国の高速鉄道をどう評価すべきなのでしょうか?
私たち日本人が、日本人の尺度で考えてしまうと「ラオスの政治家や高官が中国に買収されて民衆の意見を尊重せずにラオスという国を売り渡した。しかも、鉄道の目的はラオスではなくラオスはあくまでも通過地点であり、真の目的はタイやシンガポールと繋がることで、物資や人の輸送を効率化して周辺地域を支配下に置こうとしているため、ラオスの国益にはならない」という結論になるのではないでしょうか?
それでは、質問のヒントになる参考資料を以下に3つ提示します。
フレッチャースクールで習った国際関係の手法に基づくと、ラオスの鉄道建設を1.国際システム、2.ASEAN(隣国)のなかでの関係性、3.ラオス国内の現状の3つの視点から考察することが必要です。
「何もなかった建設予定地、中国-ラオス鉄道が描く不透明な未来」のポイントは以下です。 この記事には、2.中国との関係性、3.ラオス国内の現状が触れられています。
●ラオスの本格的な鉄道建設は初めてであり、多くの現地人が中国に行くのが便利になり、中国製の製品がより入手したくなると期待している。
●他方、中国とラオス政府の取引内容を国民は知らず、知ろうともしない。
●今回の鉄道は、中国の雲南省昆明からラオスのビエンチャンまで全長427km。60%が高架やトンネルで、中国で普及している旅客貨物混用の線路が敷設される。
●最高時速160キロで、中国は2020年の完了を謳っていて、必要な10万人に達する労働者の多くが中国人の予定。
●ラオスにとって中国は最大の投資国で1998~2014年までの累計額は約54億ドル。 鉄道建設はラオス国内で史上最大のインフラ案件で、総工費は約60億ドルでそのうち42億ドルが中国が負担する。
●ラオスは周辺国との連結による経済発展を志向していて、今回ラオスの負担も10億ドルに満たないため懐疑的見方を改めた。
●タイとの連結はタイ政府の意向で当分難しい。
●2015年末に起工式が行われたのは、一帯一路構想と、華人政治家のソムサワート・レンサワット副首相の任期中最後の置き土産によるもの。
次に、ラオスとタイの関係性を示した文献を引用します。
下川祐治さんの旅行記『週末ちょっとディープなタイ旅』です。
ラオスとタイの二国間関係になると違った様相が見えてくるという面白い指摘があります。
この文章では2.タイとの関係性、3.ラオス国内が記載されています。
少し長くなりますが、以下引用します。
常日頃、東南アジアの現場を見ている下川さんの言葉だけに、現実味があります。ポイントは
①ラオスは小国として、タイ、ベトナムと親身になってくれる国を探してきたが、各国は自国の国益を一番に考えていて痛い思いをしたために現在は中国にすり寄っている。
②中国は、自国のための街をラオスに建造しているため不気味である。
という2点になります。
中国のインフラ輸出プロジェクトの受けが悪い理由はアフリカでもよく言われたことではありますが、中国は人・もの・金を全て本国から持ってくるために、相手先の国益に繋がらないためです。
最後に、ラオスのみならず中国の鉄道建設を1.国際システムから見た文献を引用します。中野剛志さんの『富国と強兵』です。
国際システムから見れば、中国の鉄道建設は経済的な合理性ではなく、資源確保、ユーラシア大陸からのアメリカの締め出しといった安全保障上の理由が主となっています。そのため、たとえ利益度外視であろうと構わないことがわかります。
それでは、上記の3つの引用を踏まえて最初の疑問に戻ります。
ルアンパバーンのすぐ北を通る中国の高速鉄道をどう評価すべきなのでしょうか?
最初の想定である「ラオスの政治家や高官が中国に買収されて民衆の意見を尊重せずにラオスという国を売り渡した。しかも、鉄道の目的はラオスではなくラオスはあくまでも通過地点であり、真の目的はタイやシンガポールと繋がることで、物資や人の輸送を効率化して周辺地域を支配下に置こうとしているため、ラオスの国益にはならない」は正しいのでしょうか?
1.国際システム
中国にとって鉄道建設は、対米戦略、資源確保戦略の一貫であり、ラオスは通過点に過ぎない。
2.ASEAN(隣国)のなかでの関係性
ラオスは小国として過去にタイ・ベトナムとバンドワゴンしていたが、現在は中国に傾きつつある。
3.ラオス国内の現状
華人政治家と中国との個人的関係がプロジェクトを促進。国民レベルでは中国嫌いもあるが、過去に鉄道が存在しなかったため、中国に行くのが便利になり利益をもたらすという期待もあり。国民生活レベルでは中国製品が一般的。
ラオスという国を通じて、国際関係を見ると小国の苦悩がわかります。ルアンパバーンの高速鉄道のみならず、ビエンチャン郊外のショッピングモール、国境地帯の森林伐採等においても中国の不気味さが表れているようですが、しばらく中国の影響力が強くなりラオスが呑み込まれていくと予想できます。
それは、中国のラオスにおけるインフラ関連プロジェクトが、経済的な理由ではなく、安全保障上であるため利益度外視で実行するからです。
ラオスという国は中国の一帯一路構想の進捗状況のバローメーターになるため、今後も注視していきたいと思います。
See you next from Myanmar.