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③ミャンマークーデター後のアメリカの経済制裁の可能性(アメリカ・ミャンマー関係)

前回に引き続き桐島です。
以下の質問をいただいたため、前回に続いて記事を書きます(笑)

ミャンマーとアメリカ関係に関する質問

「日本政府の次のアクションは、アメリカの出方次第ということですが、そもそもアメリカとミャンマーはどういう関係があるんですか?」

結論から言うと「アメリカとミャンマーは、ほとんど経済面で関係がなく、政治面での関係も失われました」(笑)

アメリカ・ミャンマー経済関係

それでは、まず経済面から見ていきましょう。
そもそも、経済関係がほとんど無かったので、アメリカは軍事政権に対して、1989年から2008年の20年間に外交的、経済的な制裁を課す一連の法律を可決しました。

※アメリカのミャンマーに対する制裁の詳細は、以下のアメリカ議会調査資料に詳しい。議会調査資料は全般的に質が高く、米国留学中もお世話になりました。

https://fas.org/sgp/crs/row/R44570.pdf

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アメリカのミャンマーに対する経済面での無関心を、京都大学中西先生の「ロヒンギャ危機」から抜粋します。

アメリカは軍事政権に対して20年以上にわたり制裁で圧力をかけてきた。たとえば、2003年に制裁が強化されて以降、ミャンマーで製造された商品のアメリカへの輸出は禁止されていた。アメリカとしても、中国のように市場規模が大きければ、多少のことは目をつぶっても経済関係を結ぶメリットはあっただろう。だが、ミャンマーの市場規模は小さい。2000年の国内総生産(GDP)は、隣国タイの16分の1ほどだ。この小国に、民主主義や人権という「普遍的な」価値を無視してでも経済進出するメリットはアメリカにはない。多くの先進国も対米関係を悪化させてまでかかわろうとしなかった。そして、ミャンマーは国際的に孤立していった。戦後賠償以来一貫してミャンマー支援に積極的だった日本も、ディペイン事件とその後のスーチー再軟禁を機に、人道目的ではない直接の援助は停止せざるをえなくなった。
(第3章 民主化の罠 P103、104)

これが、世の中の現実です(´・ω・)

アメリカは、ミャンマーのような小国相手に、力を割いている余裕は一切無かったのです。ミャンマーの2000年のGDPは89億ドルで、2019年のGDPは、ようやく760億ドルです。
※日本は2019年GDPが50,818億ドルなので、760億ドルは約1.5%

それでは実際に、
アメリカが、どのぐらいミャンマーとの経済関係が無いか、調べていきましょう。「JETROの世界貿易投資動向シリーズ」の助けを借ります☆
https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/gtir/2020/12.pdf

(1)ミャンマーへの直接投資

まずは、ミャンマーへの直接投資から見ていきます。
以下のデータは2018年度と19年度の各国からミャンマーへの直接投資額です

これを見ると、2019年度に日本は7億6800万ドル投資(合計6件)の直接投資をしていることがわかります。例)双日が出資するTTCLによるLNG発電所の建設およびLNGターミナルの建設・運営

一方、アメリカはというと、、、

あれ、4400万ドルでたった1件です(笑)

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お察しの通り、直接投資において、ミャンマーにとって、アメリカは何の存在感もない。アメリカも、ミャンマーへの投資機会は皆無ということがわかります。

注)シンガポール、香港からの直接投資は、元々の投資国が不明である迂回投資が主なため、グラフには含めていません。※で額を記載しています。

(2)ミャンマーからの輸出先

次に、2019年度のミャンマーからの輸出先主要国を見てみましょう。
ミャンマー⇒中国の輸出額が大きく、57億1,300万ドルで全ての輸出先国の32%を占めています。

そして、アメリカはというと、、、

8億2,900万ドルで全体の5%に過ぎません、、、
5%は、ミャンマーにとってあっても無くても困らない輸出先ですね!!!

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(3)ミャンマーの輸入元国(ミャンマーへの輸出国)

最後に、ミャンマーの輸入元国ですが、まあ中国が、トップで64億4,500万ドルで全体の35%を占めます。

そして、アメリカはというと、、、
いない、、、!
そうなんです。その他に入ってしまうぐらい少ないので数字に出てきていません。輸入元はほとんど、中国、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアといった近隣国に集中していることがわかります。

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以上、まとめると、「アメリカとミャンマーは、経済面でほとんど関係がない!」ことがわかると思います。

つまり、アメリカがミャンマーに経済制裁を課しても、ほとんど効果はありません。

補足:アメリカの経済制裁の例
●新規のアメリカからの直接投資規制
●ミャンマー製品の輸入禁止
●国際金融機関(世銀、IMF)の融資を含む金融取引の禁止
●軍事政権幹部のビザ発給規制、資産凍結、Facebookアカウント凍結


アメリカ・ミャンマー政治関係

それでは、政治面ではどうでしょうか?

日に日に強まる中国の影響を緩和するために、アメリカがミャンマーと仲良くし始めたことを知っている方がいらっしゃるかもしれませんね♪

遡ること、2012年11月19日に、オバマ大統領、ヒラリー・クリントン国務長官が、ビルマを訪問しました。
以下はヤンゴンのシュエダゴン・パゴダを訪れた様子です。裸足が印象的!

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ピボット戦略

アメリカは、2011年10月(※)に、中東・アフガニスタンから、アジアに回帰をするピボット戦略(Asia Pivot Strategy)を採用しました。
※ヒラリー・クリントンが雑誌フォーリン・ポリシーの2011年10月号に寄稿した記事の冒頭に「イラクでの戦争が曲がりなりにも終わりに近づき、そして、米兵がアフガニスタンから引き揚げ始める中、アメリカは旋回(ピボット)の時を迎えた」と表現された。

イメージは、オバマ大統領の以下の図です。

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アメリカ大統領として、初めてミャンマーに訪問したことは、「ピボット戦略」の一環です。

アメリカは、ミャンマーに民主主義を求めて、民政移管を後押しして、中国の影響力を排除しようとしました。

経済関係がほとんど無いなかで、政治面だけでも対中で何かしなければいけない、という発想から、アメリカは実質的に全ての対ミャンマー制裁を解除したのです。そのことで、ヨーロッパや日本も、ミャンマーに近づけるようになりました。

この契機になったのは、スーチーさんが、2012年4月1日に行われたミャンマー連邦議会補欠選挙にNLDより立候補し、当選を果たしたことです。

アメリカは、民主主義のシンボル、スーチーさんを対話の窓口にしました

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2011年10月頃ピボット戦略開始⇒2012年4月1日スーチー議員誕生⇒2012年11月19日オバマ大統領ミャンマー訪問⇒経済制裁解除⇒他国も制裁解除

という流れが実現した背景にあるのは、以下の流れです。

中国のミャンマーに対する経済的影響力が強まり、それにつれ政治的影響力も伸張する中、アメリカは歯止めになりたい(アジアピボット戦略)
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しかし、経済的関係が無いため、経済的影響力は行使できない。
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スーチーを窓口にして、ミャンマーの民主化を推進するという政治的影響力が行使できる!!!

以上、アメリカ・ミャンマーの政治関係は「アメリカが、スーチーをフック(手掛かり)にして、ミャンマー民主化を推進して、少しでも中国の影響を排除したい」というものです。

余談ですが、
このミャンマー民主化の一連の流れを作った立役者が、カート・キャンベルです。オバマ政権(バイデン副大統領)時代に国務次官補(東アジア・太平洋担当)を務めました。
バイデン政権では、ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)で、新設ポストの「インド太平洋調整官」として、大きな権限の下、アジアを含むインド太平洋地域の政策を統括します。

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彼の著書の「Pivotアメリカのアジア・シフト」では、結びの箇所で、カート・キャンベルの任期中の最後の出張が、オバマ・ヒラリーのヤンゴン訪問だったこと、シュエダゴン・パゴダに大統領を立ち寄らせることをその場で提案したこと、などのエピソードが述べられています。

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脱線しましたが、
こういう流れで、うまく民主化が進むことを期待してきましたが、その矢先で起きたのが、今回のクーデターでした。

まとめ

以上を踏まえて、
読者のみなさまは、すぐにアメリカが制裁を発動できると思うでしょうか?

歴史を振り返ると、アメリカはミャンマーに経済的な利害関係(stake)が無かったため、軍事政権下では経済制裁を課してきました。
しかし、中国の影響力が伸張すると、ピボット戦略の下、ミャンマーの民主化促進のために、まずスーチーを窓口(showcase)として政治的な関係を構築するために、2012年11月オバマ大統領の訪ミャンマーが実現して、経済制裁を解除しました。

アメリカにとっての民主主義のアイコンのスーチーとのパイプが無くなったからといって、経済制裁を復活させて関与を減らせば、中国の影響力が増して、中国の思うつぼなのです。

しかし、バイデン政権は、民主党らしく民主主義・人道主義を軸にした価値観外交を目指すため、何もしないわけにはいきません。

恐らくアメリカ(カート・キャンバル)は、軍事政権に対してのみ影響ある制裁を課したいでしょう!
しかし、ミャンマー側も経済制裁効果が薄いことに気付いています。
そこで、有志国と連携をして軍事政権にのみ効果的な制裁を課すという選択肢を望むはずです。
しかし、それには調整に時間がかかるはずです。

このような、アメリカがほとんど切れるカードがない中で、どういったゲームをアメリカが組み立てていくのか、愉しみですね、、、( ;∀;)

See you soon.


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