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『おすすめ文庫王国』の楽しみ方

12月10日付で、毎年恒例の『おすすめ文庫王国2024』(本の雑誌社)が刊行されました。100ページ超、まるごと文庫本の話を詰め込んだ雑誌。これを読まずして年を越せない。年末年始の読書の友です。その楽しみ方を整理したいと思います。


①本の雑誌が選ぶ文庫ベストテン2023年度

巻頭企画は毎回これ。本の雑誌社の編集者や営業社員、経理の方が匿名座談会で毎年のベストテンを選ぶ。でも、かなり適当。それが良いです。各員「これはベストテンに入れてほしい」という本を数冊、場合によっては10冊以上持ち寄って推薦する。それを「いいね~」と言い合いながら、最終的に「そろそろまとめるか」という感じで決定する。なので、人気投票ではない。「これは入れてよ」という意見がわりと通ったりします。

そういう形式なので、ベストテンにランクインしなかったけど、ある人が薦めた作品こそ、気になったりします。私はそれも含めて書き留めていく。

今年のベスト1は、ドニー・アイカー『死に山』(河出文庫)ですが、たとえば「発人(たぶん発行人)」は藤ノ木優『あしたの名医』(新潮文庫)をおプッシュされていました。産婦人科を舞台にした医療小説ということで、舞台設定が珍しく気になりました。


②私の文庫ベスト3

次の企画はだいたいこれ。順番に読み、気になった本をメモしていくのがオーソドックスな楽しみ方です。たとえば、翻訳者藤本和子さんが、イスラエルでヘブライ語を学んだ際のエッセイ『砂漠の教室』(河出文庫)は、徳永圭子さん推薦でした。

あとは、さまざまな方が同じ作品を推薦している傾向も見えるのが面白い。今回は、複数の方がジョン・スラデック『チク・タク・チク・タク・チク・タク・チク・タク…(※以下繰り返し略)』(竹書房文庫)を推しています。スラップ的らしいので、すぐに買いたいとまでは思いませんでしたが、みんながみんな面白いという本は気になる。


③ジャンル別ベストテン

「現代文学」「恋愛小説」「SF」などジャンルごとに、1人の選者がベストテンをチョイスしています。気になるジャンルを熟読するのが吉。書籍名が太字になっているので読みやすいです。人によって推し方が異なるのが面白い。たとえば、「エンターテインメント」の藤田香織さんは、1位の『死にたいって誰かに話したかった』(南綾子、双葉文庫)に関して、持ち分4ページ中2ページ使って熱っぽく語っている。


④サッカー好き書店員匿名座談会

その年の各レーベル(文庫出版社)の動向を開けっぴろげに語り、その勢いをサッカーリーグの順位にたとえて並べるのが面白い。知られざる出版界の内情が語られていて、読みどころがあります。今年は、伊坂幸太郎『逆ソクラテス』(集英社文庫)に比べて『シーソーモンスター』が全然売れていなくて、それは作品の質よりも帯の作り方のせいじゃないか、という話が大変興味深かったです。

⑤中公文庫おすすめ30冊

2023年は中公文庫創刊50周年ということで、特別企画。加藤秀俊『暮らしの思想』が一番気になりました。新刊では手に入らなそうか。

これもたしか恒例企画だったように認識していますが、山本貴光さんの「学術系文庫の一年」というコーナーでも、今年は中公文庫50年が一つの話題として大きく取り上げられていました。この中では、山口昌男『本の神話学』が気になりました。


⑥文庫新刊予告2024

トリはだいたいこの企画。各レーベルへのアンケート。一行情報で、「この本がついに文庫化されるのか!」と発見するのが面白い。

たとえば、朝日文庫は伊坂幸太郎『ペッパーズ・ゴースト』を刊行予定。ハヤカワ文庫JAでは逢坂冬馬『同士少女よ、敵を撃て』が待機中。

河出文庫では、サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』が、柴田元幸さん訳で登場予定だそう。「長らく品切れだった海外文学郡の復刊にも本腰を入れようかな、と」という宣言も気になります。

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