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ディストピアは本当にディストピアなのか

「ポスト・ディストピア」という概念が最近気になっている。近刊のSF映画小説では、小川哲さんの「ユートロニカのこちら側」が好材料になる。

ディストピアのポスト。それは、ディストピアは本当にディストピアなのか?という懐疑が原点にある。

ユートロニカ〜では、プライベートのあらゆる情報、例えば普段見たものや食べたもの、その際の心拍数とか血圧とか、その全てを情報会社に提供する代わりに、社会生活が保証される都市が描かれる。要するにプライベートを全て売り渡せば、お金をもらってリゾート生活が送れる。

一昔前であれば、それはディストピアとして扱われ、小説の展開も悲観的になる。しかし小川さんは、決して断罪はしない。この都市に惹かれて移る入居者がいる。中には精神をきたす人もいれば、反対に幸福極まりない人もいる。

以前であれば魔法のようなことも、私たちが日常的に触れるテクノロジーは現実にしている。だからSF小説も、テクノフォビアによるディストピアではなく、本当にディストピアなのか?ディストピアを回避する方法があるのか?を問うてくれる方が、力強い。そう感じる。

ポスト・ディストピアという言葉自体は、本の雑誌2月号で触れられているので、そちらを読むとイメージが深まる気がする。

#読書 #SF小説

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