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趣旨からの忘れない民法 その2 未成年者

民法は皆さん、最初から読むと思うんですけど、総則の最初の方に主体の話が出てきますよね。未成年者とか、成年被後見人、被保佐人、被補助人とか、法人とかも出てきますね。これって、原則じゃなくて例外の話なんですよね。普通はまず、原則の話をして、それから例外について書いてありますよね。ところが、ココは例外の話がいきなり出てきて、そのまま次の話題に行くので、

ワケがわからん状態になりませんか?

前回、書いたように、契約というのは口約束だけでも成立します(保証契約とか例外的なものを除いて)。それどころか、実際は身振り手振りだけでも成立します。暗黙の意思表示でもOKなので。
例えば、コンビニで弁当を買うとしますね。

「すいません、この弁当をください」

ってわざわざ、店員さんに言う人います?

普通に無言でレジに出しますよね。それに対して、店員さんはおもむろに、

「温めますか?」

と言います。おそらく、この時点で売買契約は成立です(店員さんが弁当を手に取った段階かも)。あとは同時履行の抗弁権が発生するから、お金と交換ということになります。

つまり、何の問題にもならないので、わざわざ、条文に書いていないんです。条文に書いていないものは当然、テキストには出てこないんです。だから、例外的な話だけが載っているんですね。例外的な話というのは何かというと、行為能力に制限がある人達です。法人はちょっと置いておいて、要注意なのは、未成年者と成年被後見人です。まずは未成年者ですが、未成年者は法律上、当然に、制限行為能力者になります。この法律上、当然ってどういう意味かというと、

特別な手続きは何も必要なく、未成年であれば、それだけで、法律上、制限行為能力者として扱われる

という意味です。民法は未成年者を特別扱いして、保護の対象にしているんです。年齢的に成熟していない存在だから、守らないといけないな、それじゃぁ、保護するにはどうしたらよいか?と考えた(民法制定当時の国会議員でしょうね)結果、

「そうだ、未成年者は単独では買い物出来ないようにしよう、うん、それがいい」
「それも、間違って要らないもの、買っちゃったら、どうする?」
「それも取り消せるようにしたらいいじゃない?」

そんな会話があったかどうかわかりませんけど、未成年者は特別に保護されることになりました。これは民法全体の趣旨である、

厳密さよりも、立場の弱い人を中心にバランスを取る

という考えからきていると思います。権利と義務は表裏一体なので、

義務は緩和してあげる代わりに、権利を制限しよう

と、こういう発想でしょうね。未成年者だけでなく、成年後見制度の3パターン(成年被後見人、被保佐人、被補助人)も、それぞれの事理弁識能力に応じて、制限を設けています。特に未成年者の取消権は重要です。買った後から、未成年であるという理由だけでキャンセル出来てしまうんです。お店側からすればたまったものじゃないですよね。そこで、今でも高い買い物は、

法定代理人(普通は親権者)の同意の証明があるなり、親権者が付き添って、代理で購入しない限り、買わせない

ようにしてあるはずです。個人的には未成年の時代にそんな高い買い物したことないので、想像ですが。ここで、大事なのは原則は有効ってことです。無権代理だと原則が無効なんだけど、本人の追認あれば有効になりますよという話と逆です。

後から取消出来るという、条件がついた、一応有効という契約になります。

それじゃ、お店の人は困るので、民法は催告という権限を契約の相手には与えました。

「取消するの、どうするの?」

という確認ですね。でも、これは、成人になった後の本人か、親権者に言わないと効果がないんです。だって、最終決断する能力がない未成年者に確認するのは意味ないので。民法がわざわざ、保護対象者にしたのですから、それができるなら、最初から、自力で買えるようにしてありますよね。で、親権者が、「めんどくせぇなぁ」と、黙ったままでいると、

契約は確定します

もう、取り消せません。こうやって、相手方の権利も一定程度認めて、バランスを取る。やっぱり、民法全体の趣旨がここでも出てきますね。ここで、注意しないといけないのは、催告出来る相手と、一定期間黙っていると擬制される効果が、

制限行為能力者の種類によって、変わる

ということです。「未成年者と成年被後見人は本人に言っても無駄だよ、行為能力回復後の本人か、法定代理人に言わないと」ということにしています。ところが、被保佐人とか被補助人となると、

本人の権利をなるべく尊重しないといけない

ので、未成年者ほどの制限はしていません。そのため、結局、取り消すかどうか、ハッキリしてよ催告も、本人に出来ます。
ただし、やっぱり、保護は必要なので、黙ったままだと、

追認擬制ではなく、取消擬制が起こります。

結局、民法は未成年者をかなり、特別扱いしているのがわかります。成年後見制度の場合は、法律上、当然にはなりません。家庭裁判所が認めないといけないようにしてあります。そりゃ、本人の為だと思っていても、制限が出ますし、未成年者のように、期限付(成人になるまでの限定)と決まっているわけではありませんから。

でも、何かおかしいな?って思いませんか?

未成年者と言っても、産まれたばかりの赤ちゃんも、17歳の少年少女も皆、同じ扱いって変じゃない?

と。そうです、実は民法はこの辺り、ハッキリクッキリさせていなくて、テキストで、権利能力と意思能力と行為能力と、説明があったと思います。それじゃ、未成年者はどうなんだというと、これは一律じゃないんですね。0歳から10歳未満くらいまでを解釈で、意思無能力者としているんです。意思無能力者だから、あれを買いたいといくらお店の人に言っても、契約は成立しません(権利能力は生きている以上、0歳でもありますし、胎児は停止条件で一定の権利があります)。

つまり、未成年者と問題文に出てきたら、反射的に制限行為能力の問題だと、決めつけられない

ってことです。特に不法行為が問題になってくるときは要注意です。法律行為ができるかどうかという問題とは別に、責任能力という問題が出てきます。意思無能力者だと、普通は責任能力はありません(これも刑法と違って、はっきり、年齢区分はしていません)から、709条の主体にはならないので、715条が問題になってきます。つまり、

親(監督責任者)しか責任の対象にならない

ってことです。でも、17歳だと、

本人が709条の対象者になる

ってことです。ちなみに、それじゃ、支払い能力の問題で、被害者が困るから、親権者の監督と因果関係あれば、親権者自身の709条に適用ということにしようという発想が、判例で出てきます。

民法はあくまで、行為能力として、年齢ではっきり区分しているだけで、他は実は曖昧にしているんです。なぜ、曖昧にしているかは、個人差を考慮していることと、なるべく相手のことを考えて、ケースバイケースにしようとしたのだと思います。
それくらい、制限行為能力を、法律上、当然に18歳で線引きしたことは、思い切った制度だと思います。だって、

年齢を理由に問答無用で取り消せる

って、すごいことですよね。でも、さすがにそれを悪用した者は保護しないよということで、

年齢の詐称をした(大人のフリ)未成年者は、年齢を理由に取消は使えないことにしています。今度は成人だと思って、取引したお店の人の方が弱者になりますからね。ここでも、

弱者を中心とした、バランス重視の民法の姿勢

が出ていますね。こういう、民法全体に貫かれているモットーは、あちこちの制度で出てきますから、暗記の助けになると思います。新しく制度を憶えるとき、

「そういや、相手側を保護する制度はないのかな?」

と考えればいいんです。大抵は一方的な制度にはなっていないですから。



余談 法律上の成年被後見人の定義について

制限行為能力の話なので、ついでに。
法律上の成年被後見人の定義は医学的には間違っていると思います。8条に

精神上の障害により判断能力を欠くとして、家庭裁判所から後見開始の審判を受けた人」

と定義されていますけど、今だと、高度の認知症の方が多いわけですね。認知症の原因疾患で一番多いのはアルツハイマーです。アルツハイマーは脳が変形委縮する、

純粋な身体の疾患であり、精神病ではありません。脳の病気です。

なぜ、民法の条文レベルでこんな、明らかに医学的な間違いを書いてあるのか、はなはだ、疑問ですが、脳と精神障害の区別は昔はあまり、されていませんでした(今でも曖昧な部分はありそうです)。民法は平成の大改正でも、ここは変えなかったようです。医学側の人達は何も言わないのでしょうか。

実務上、そんなこと、差がないからいい

ということなんでしょうか。それとも、原因が何であれ、精神障害の症状が出ているからなのでしょうか。でも、何を持って精神障害というのでしょうか?これも非常に曖昧です。

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