見出し画像

学振、気を付けること2つだけ

学振、それは日本アカデミア界隈の老若男女がみんなで盛り上がれるコモントピックであり春(申請)と秋(合格発表)の風物詩である※。


※本来は独立行政法人日本学術振興会(JSPS)の略であり科研費を含めた日本の科学研究の振興を担っている文部科学省所管機関自体を指す略称ですが、Twitterなどで学振と言うともっぱら若手研究者助成金であるJSPS特別研究員を指す事が多い(ちなみに今「学振」でググったところ特別研究員のページがトップに来たのでその認識で間違っていないはず)。

学振特別研究員について


JSPS特別研究員は博士課程の学生に月額20万円の生活費と年間約100万円の研究費を支給するDCと博士号取得後の若手研究者に対し博士研究員として月額36.5万円の生活費と年間約150万円の研究費を支給するPDがあります(後は国外での博士研究員になる際の海外学振などもあります)。

博士課程に対する助成金(生活費)類が充実している欧米と異なり博士課程が学生と見なされ無給の事がほとんどの日本では、JSPS特別研究員は博士課程に在籍しながら安定的に収入を得る事ができる数少ない手段です。
合格率はおおよそ20%前後(PDはもう少し低かった気もするけど近年ポスドクなんかになる人は少ないため合格率が上昇傾向だった気がする)と狭き門で、JSPS特別研究員に合格するかどうかは若手研究者にとって生活がかかった死活問題かつ研究者としての資質を問う大きな関心の的です※。

※本当は学振DC取ってるかは研究能力自体とそこまで関係ないと思っています。ただ、文系理系問わず全分野の研究者が出せる唯一のコンペティション的な側面があり、合格率20%とそこそこ辛いため話題に上りやすいのだと思われます。

今年度の締切は6月2日17:00ですが、これは大学事務からJSPSへ送付する締切であり大学内の締切はもう少し早いです(大学によってけっこう異なる)。私の母校である北海道大学はわりかし早くゴールデンウィーク明けすぐが締切だったが、ポスドクをしていた東京工業大学はかなりギリギリで最終締切5日前くらいだったためだいぶ助かりました。


という事で今年度の申請に対するtipsとしてはやや遅きに失した感があるのが恐縮ですが、これまでのJSPS特別研究員遍歴※からちょっとでもためになる事が言えたら、という事でこの記事を投稿しました。
今年度申請を終えた人はあーあるあるだなと見てくれたらうれしいし、今まさに仕上げの追い込みをかけている人はちょっとでも参考になる事があれば本当にうれしいです。あとは来年以降申請しようかなみたいな人もぜひ読んでみてください(今回はほぼベタ打ちなので来年までにちゃんと書きたい)。

※そもそも初投稿のnoteで経歴もクソもないのですが、自己紹介代わりにごく簡単に説明させてください。

申請者略歴(学振って何故か一人称申請者って言っちゃいますよね)


2016年-2020年 北海道大学大学院獣医学研究科博士課程(DC1
2020年4月-8月 東京工業大学情報理工学院博士研究員(SPD
2020年9月-現在  現職

以上のように、幸運にも学振はDCとPDそれぞれを面接免除で通りました(あと2019年度の日本学術振興会育志賞の最終候補者でした(最終面接で落ちた))ので学振の申請書書きについてはそこそこ適性があったのだと思います。
ちなみに学振SPDとはPD合格者のうち各大分野で0~2人が選出されるすごいPDの略です(本当はsuperlative)。自分は農学・環境学分野でPDに出しましたが、2020年度は205人が応募しこのうち21人が面接候補者、44人が面接免除内定、さらにこの44人のうち8人がSPD候補者として選出され、自分含め2人がSPDに採択されています。


という事で前置きが長くなったのですが、締切直前でも応用可能かつ大事かな、というものにしぼって2点だけ、自分が意識していたポイントを共有できればと思います。


①文章の難易度は「頭を使わないで」読めるくらいで

よく言われるコツとして申請書はなるべく平易に、とか、もっと具体的には自分のお父さんお母さんに見せて分かってもらえるくらい、とか言いますよね。
上記はオーバーな言い方ですが、ポイントとしては見出しに書いた通り「同じ学部内くらいの専門性の近い人が頭を使わないで読める」がいいと思っています。

学振の審査員って専門が近い准教授~教授クラスの研究者ですよね。ちょっと想像してみてほしいんですが、自分の指導教官で数十人分の申請書をじっくり読み解いてくれる時間がある人、いますか?
よくある誤解として、教授クラスになるとどんな難解な研究もパッと理解してくれるみたいな印象があると思うんですが、教授も人間なので込み入った文章だと理解するのに時間がかかります
どうしても全部読まなきゃいけない論文だったら審査員も時間をかけて読解するのですが、あなたの申請書は審査員にとってはそうではないはずです(ちゃんと読み込んでいる審査員の方はすみません…)。
なので、どんなに良いアイディアでも、文章が難解で何回も読んでは前のページを見返して、を繰り返すようないわゆる頭にすっと入らない文章だと審査員に良さを分かってもらえない可能性が高いです。

しかしどのくらい平易な文章で書けばいいのか分からん、という時の目安として、想定読者である審査員=同じ学部の准教授~教授の先生が頭を使わないで読めるくらいを心掛けたらいいと思います。もっと言うと、院の別ラボの同期に一読(本当に数分で、流し見)してもらって彼/彼女が内容を一発で理解できてたらOKです。院生が一発で理解できるなら教授もイケます。

極論すれば、大事な点を太字+ゴシックにしたり箇条書きを使うのも「頭を使わないで」読んでもらうためですね。内容の良し悪しの前にしっかり読んでもらえる申請書じゃないと土俵にあがれません。


②○○が不明だから○○の解明を目指した、みたいな研究目的はやめよう

研究目的を書く際の流れとして、
①研究分野の概説→②問題点・不明な点→③研究目的
みたいな3段論法は定番ですよね。
実際これ自体はいいのですが、やりがちなミスとして不明な点が不明な事自体を研究の意義としている申請書が多いです。ちょっと分かりづらいので例として↓みたいな申請書があったとします。

タスマニアデビルはオーストラリアの固有種である。
これら特有の疾患として感染性の腫瘍であるデビル顔面腫瘍性疾患(DFTD)があり、個体数激減の原因となっている。しかしながら、DFTDがどのように個体間の免疫を回避し宿主への感染を成立させているかは不明である。
そこで、本研究ではDFTDの治療法を確立するためDFTDの免疫回避機構の解明を目的とする。

※注意、DFTDは実在の病気ですが上記の文章や下記の説明は即興で書いたものなので科学的には正しくないです。あくまで文章の例として見てください。

申請書でありそうな文章ですよね。一見スジは通っているのですが、実は論理の飛躍があります。最後の研究目的で「DFTDの治療法を確立するためDFTDの免疫回避機構の解明を目的」と述べているのですが、そもそも免疫回避機構を解明したら治療法につながるっていう確証はないですよね。
言い換えると、

①DFTDの皮膚透過機構が不明
②DFTDの抗癌剤感受性は不明
③DFTDへの感受性の性差は不明

などが不明だったとして、①~③のどれを「免疫回避機構が不明」と付け替えても文章が成立してしまうんですね。
(※繰り越しになりますが上記の文章はフィクションでDFTDへの正しい知見ではありません)
上記のように皆さんの研究対象には当然分かってない事が複数あると思うのですが、その一つを取り上げて○○が未知だから○○を解明するみたいな論理展開はやめた方がいいです。言い換えると、何故○○が未知という点に着目したかの必然性がないのが問題です。

だいたいの研究テーマが上記の「DFTDの治療法確立のために」「DFTDの免疫回避機構を解明する」の様に、「大きな社会的意義=大目的」「研究の具体的な目的=科学的な到達目標」2つから成り立っているかと思います。
改善点としては、何故(他の何物でもなく)その「科学的な到達目標」を達成すると「社会的意義」が達成できるのかという必然性を理由付けられればOKだと思います。
これを自信を持って説明できれば、研究目的の論理性と研究の着想、研究の意義の全てが解決しますよね。


最後に

このnoteを書こうと思ったのが昨日だったので手短になってすみません。
SPDと育志賞で学振の面接も2回経験したので秋の面接シーズンまでには面接の方の体験談やtipsをまた書きたいと思います(サムネは面接のとき撮った学振本部の写真)。

締切超ギリギリの投稿だったのですが、学振の申請書はどんなに頑張っても頑張りすぎはないと思います。

学振(DC1)の場合、この申請書で皆さんが得るお金は合計1000万円以上と、きっと今までの人生で稼いだことのない額になると思います。
今も睨めっこしている申請書の原稿を手に取ってほしいのですが、この10枚の紙きれが1000万円に変わる、と思うとグッと重みが増しませんか?

先行きの暗い話ばっかりの博士課程ですが、足を踏み入れたからには全力で取り組んで全力で明るい未来を掴み取ってください。






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?