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2004年、医師臨床研修制度の変更。革命前後の医師が経験したこととは

医師に2年以上の臨床研修が必須化される「新医師臨床研修制度」が始まったのは、2004年のこと。

それまでの研修制度は、専門の診療科に偏った研修が行われていることや、処遇が不十分であるとの課題が指摘されていました。そうした状況を改善すべく、新制度ではさまざまな診療科の研修を受けることで、幅広い診療能力が身に付けられる総合診療方式(スーパーローテイト)による研修が広く採用されるようになりました。

ある種の「革命」ともいえる制度変更前後は、しばらく下の世代が入ってこない時期が生まれたり、指導体制が整っていないなかで臨床研修が行われたりするなど、従来とは異なる動き方を求められる場面もありました。

変化の前後の世代である2003年と2004年に卒業した医師は、制度変更をどのように受けとめていたのでしょうか。当時、経験したことや抱えていた思いをお聞きしました。

《プロフィール》
■2003年卒
・山岸秀嗣 先生(教学IRセンター)
・城島輝雄 先生(内分泌代謝内科)
■2004年卒
・菊池 仁 先生(救急医学)
・石黒 慎 先生(精神科)

■旧制度世代が感じていた新制度の魅力

――本日はよろしくお願いします。旧制度での研修を経験した城島先生は、制度変更についてどのように感じていましたか。

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城島:
よろしくお願いします。制度が新しくなり、率直にうらやましいと感じていました。 開業を最終的な目標としていた私にとって、内科から外科まですべての科を見ることができる制度はとても興味深いものでした。

また、入職する科を選ぶ上でも、初期研修医制度はとても魅力的だと感じていました。僕たちは臨床実習(BSL:ベッドサイドラーニング)を通し、入職する科を選んでいます。一方で、新制度による研修が導入されてからは、入職する前にさまざまな科を経験できるようになりました。 とてもうらやましかったですね。

――新制度に魅力を感じていたのですね。同じく旧制度を経験した山岸先生はいかがでしたか。

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山岸:
新制度では、ローテ―ト先の診療科のことについて広く学べる点がうらやましかったです。旧制度の場合でも入局後に勉強できる場面はありましたが、システムがきちんと構築されているわけではなかったので……。

旧制度では、その診療科を早く極められるというメリットはあります。しかし、診療科の選び方は、まるで部活を決めるかのように勢いで決めている部分がありました。勧誘が行われていたり、「○○先輩がいるから○○科に入る」といったことがあったりしていました。そのため、広い視野を持って検討することなく、決め打ちで入局先を選ぶような状況でしたね。

――なるほど、学びや診療科選びの面での違いを感じていたのですね。


■新制度の臨床研修で感じた先輩医師との差


――では、新制度での研修を経験したおふたりは、制度変更についてどのように感じていましたか。

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菊池:
じつは、私たちからしても旧制度の先輩達がうらやましかったです。先輩は一人前になるのが早く、すぐに医者として扱われているように見えていました。

一方で、私たちは良くも悪くも大事にされ過ぎているような感覚を覚えていました。たとえば、 先輩たちが残業しているのにも関わらず「君たちはもう帰っていいんだよ」と言われたことがあります。 一つ上の先輩は厳しくされているのに、私たちはお客様扱いで仲間としてカウントしてもらえていないのでは……と感じていましたね。

いま思うと、はじめの二年間の経験で大きな差は生まれないと思います。しかし、当時は一刻も早く一人前の医者になりたいと焦っている時期。先輩との差が大きく開いているように感じてもどかしかったですし、もっと頑張りたいのに……と歯がゆかったです。

――先輩医師との扱いの違いを感じていたのですね。石黒先生は、どのように感じていましたか。

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石黒:
私も旧制度の先輩たちがうらやましかったです。先輩とは1年しか変わらないにも関わらず、使える能力が全く異なるように見えていたので、キャリアが3年くらい離れている感覚がありました。

――なるほど。おふたりとも旧制度の方がよかったと感じているのでしょうか。

菊池:
いまは、新制度でスーパーローテーションシステムがあって良かったと感じています。というのも、私はスーパーローテーションがなければ、救命医になる選択肢すら思い浮かびもしなかったからです。

石黒:
私たちは在学中からスーパーローテーションを経て診療科を決めることがわかっていたので、進路を決めなくてもいい気軽さはありました。

また、私もスーパーローテーションがなければ、精神科は選ばなかったと思います。 私にとっては制度変更があってよかったのかもしれません。


■さまざまな科での経験を経て、いまの診療科を選ぶことができた


――おふたりとも、スーパーローテーションシステムでの経験が、いまの診療科を選ぶ要因になっているのですね。石黒先生は、どのように診療科を決めたのですか。

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石黒:
当初は、堅実な進路としてどこかしらの内科に入ろうと考えていました。
ローテーションは内科ばかりで組んでいて、精神科は一か月の止まり木的なイメージでした。

一年間のローテーションを経験をして気が付いたのは、科によって向き不向きがあることです。「とても楽しいし、やりがいがある」と感じる科がある一方で、「どうにもうまくいかない……」と感じる科もあったからです。

そうした状況で、精神科では「ここしかない」という不思議な感覚を覚えました。患者さんの症状が驚くほど良くなっていく様子を目の当たりにし「ああ、ここにしよう」と思いました。精神疾患がこんなにも回復するとは知らなかったので、強い衝撃を受けたのです。

―― なるほど。(菊池)仁先生はいかがですか。

菊池:
優柔不断で、なかなか決められませんでした。
内科に行けば「内科がいいな」と思い、外科に行けば「外科がいいな」と思っていましたね(笑)。 とはいえ、「毎日、心臓のカテーテルするとしたらどうだろう」「毎日、お腹の手術をするとしたらどうだろう」と想像すると、決めきれない部分もあって……。

最終的に私が救命を選んだのは、毎日違ったことを経験できるからです。スーパーローテーションでさまざまな科を見てそれぞれ魅力的に感じた部分があったからこそ、全部できる可能性がある救命を選びました。むしろ、一つに決めきれなかった私には救命しかなかったのかもしれません。

また、違う診療科を回っている際に、患者さんに急変が起きてからすぐに救命の先生が駆けつけてくれたことがありました。その姿を見て「かっこいいな。自分もそちら側になりたい」と思い、救命医を志したところもあります。

■旧制度と新制度の狭間で働き続けた日々

――では、制度変更が行われる前後の働き方について伺います。旧制度のおふたりは、印象に残っていることはありますか。

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山岸:
新制度の世代との違いとして感じたのは、労働体制
です。新制度の研修が導入されてからは、「研修医は労働者であり、その労働については各労働法規の適用を受ける」と明記されていました。たとえば、バイトを禁止し、研修に専念できるような処遇改善や、勤務時間、宿日直業務のルール化などがありました。

一方で、旧制度はルールが曖昧だったので、僕たちは結構働いていましたね。ローテーションで新制度の先生達がローテ―トしてしまうので、それまでは1年で交代だった医局の雑用も3年間担当していました。

城島:
あの頃はつらかったですね。当たり前のように当直が月12回~15回くらいありましたし、5連続で当直したこともありました。

入局してまだ一か月目で、一人で挿管や点滴もまともにできない状態で当直を担当するのはつらかったです。 術後でお腹に3,4本も管が入ってる患者さんがいて、そのすべての管から出血したこともありました。「助けて」といったところで誰も来てくれないので、「どうすればいいんだろう、どうにもならない」と困り果ててしまいました。

いまもつらかった出来事として、当直のことは思い出されます。

――とても大変な思いをされたのですね。労働体制は大きな違いといえそうです。


■新制度での研修で感じたつらさ


――では、新制度の研修を経験した先生たちは、2年間の臨床研修についてどのようなことを覚えていますか。

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石黒:
研修のはじめの頃と終わりの頃では、指導方法が大きく異なっていました。

はじめの頃は、以前のように入局者扱いで無茶な依頼を受けるなど結構大変だと感じる場面も多かったです。

しかし、半年ぐらい経ってからは「ここまで教えればいいだろう」という雰囲気が出来上がりつつありました。時間が経つといなくなってしまうことを理解され始めたのでしょうね。

私たちが研修医として回り始めた頃は、新しい制度が始まったばかりだったので、指導医の先生も不慣れな時期であったのだろうと思います。

――指導側の方針も定まらないような状況だったのですね。仁先生は何か印象的だったことはありますか。

菊池:
科が変わるたびに、人間関係がリセットされてしまう
のがとてもつらかったです。

スーパーローテーションシステムの特性上、雰囲気にも慣れ仕事も覚えてきて、できることが増え始めた頃に違う科に回ることになります。 私は明るく見られがちなのですが人見知りなところもあるため、一からの関係性づくりが繰り返されるのは大変でした。

――それはつらい経験ですよね。

■スーパーローテーションシステムにより築かれた新たな関係性


――スーパーローテーションシステムが導入されてから年月が経ちましたが、メリットを感じる場面はありましたか。

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城島:
下の代の先生とコミュニケーションを取りやすくなりました。
スーパーローテーションシステムで後輩が全員回ってくるようになり、どの代の後輩も比較的多くの人が僕を知っている状態になったことで、情報交換がしやすくなったんです。

情報交換して得たことは、ディスカッションのトピックにしたり、患者さんへの治療に活かしたりとさまざまな場面で活用できるようになりました。

菊池:
医局はそれまで縦割りだったのが、スーパーローテーションシステムが始まってからは横のつながりが出てくるようになっていますよね。

後輩から「○○先輩にお世話になったから」と連絡が来ることもありますし、逆に私たちから後輩に「精神科の内容だから、何年か前に回ってきた○○くんに聞こう」と連絡することもあります。

石黒:
さまざまなオーベンと接しているので、他の科で困ったときに「助けて」と電話で相談できるんですよね。初期対応がしやすくなり、とても有難かったです。

下田:
なるほど。最近、研修医の先生が「○○先生に聞きやすいから、聞いてみます」と講師レベルの先生に連絡するのを目にするようになったんですよね。

相談できるような関係性を築けているのは、同窓だからなのではと考えていましたが、そうではなかった。スーパーローテーションシステムが始まり、顔が広くなったから聞けるようになったんですね。

――新たな関係性が築かれるようになったのですね。他に良かったことがあれば教えてください。

石黒:
消化器内科、外科、循環器内科……とさまざまな科を回り、それぞれの基礎を教えていただいたことが初期対応にとても役立っています。一つの分野の知識だけでなく、さまざまな分野の知識を活かして考えて診療に臨むことができているように感じます。

幅広い分野の知識を持つ重要さは、開業してからより感じるようになりました。私のクリニックは心療内科ですが、 メンタルの治療だけでなく血圧や糖尿病、パーキンソン病などの話をされることも多いです。その際に、ほんの少しでもアドバイスできるのはやはり役立ちます。

また、教科書では感覚的にわからないことを、先輩に直接教えてもらえるのは、分かりやすく力になりやすいと思っています。


■課題はそれぞれの医師の背景をいかに尊重するか

――では、スーパーローテーションシステムで改善した方がいいと感じている部分はありますか。

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城島:
制度改正前のようにストレートに診療科を決める方法と、ローテーションした上で選択する方法の二通りから選べるとよいのではと思っています。というのも、医師はそれぞれ背景を持ったうえで医師を目指しているため、どのような状況に置かれるかにより、モチベーションや個々の力の出し方も変わってくるからです。

たとえば、開業を目指すのであればさまざまな知識を求められるため、ローテーションシステムは向いていると思います。一方で、マイナーな科に行きたいのであれば、ストレートにその道に進む方がはやく技術を習得できると思います。

山岸:
城島先生の意見には賛成です。急変した場合の初期対応など、医者としてベースとなる「人を救うための技術」を強みとして得たうえで、その先の進路を選択制にするのは理にかなっているのではないでしょうか。

――それぞれの医師の背景に沿って、キャリアを選べる仕組みづくりは必要そうですね。他にはいかがでしょうか。

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菊池:
いまの制度だと、どうしても向いていない診療科を回るストレスを抱えてしまう可能性があると思います。 とくに救命はドクターヘリで血まみれの重症の方が運ばれてくる場合もあります。そういう場面が苦手な人もきっといますよね。

また、残念ながらスーパーローテーションで回ってる間に心を病んでしまい、お休みしたりドロップアウトしてしまう人もいます。

こうした特定の診療科やいまの制度にうまく適応できなかった方も、前を向けるような救済措置が欲しいですね。

山岸:
全く興味のない科を回らなくてはならない、制度自体にも問題があるとも言えると思います。僕の感覚ですが、研修医の先生にとって興味のない診療科を回るときに夏休みなど長期休暇を充てることが多い気がします。興味のない科を休んでしまう状況であれば、もっと本人の勉強したい診療科をローテートできるように制度を変えるべきなのではと思っています。

城島:
研修医側は、「興味がない」「やる気が出ない」などのモチベーションの問題があると思います。指導医側は、将来的に部下になるかわからない人に向けてどこまで熱を持って指導するかは先生によって異なるため、どのように最低ラインを上げるかが課題だと思っています。

――ありがとうございます。制度自体の見直しも必要そうですね。


■後輩へのメッセージ

―― では、初期研修医先を迷っている方や初期研修中の方に向けて、メッセージをお願いします。

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石黒:
研修医時代は、精神科は止まり木のつもりでした。しかし、私にとって運命だと思えるのは精神科でした。 「他の科に選んだほうがよかったと感じますか?」と度々聞かれますが、私はこれで良かったと胸を張って言えます。

私のような例があるため、この科はないなと思っていてもまず向き合ってみるとよいと思います。人によって向き不向きはあると思いますが、これしかないと感じる科がきっとあるはずです。せっかく回るなら、一生懸命やってみてほしいと思います。

菊池:
悩んでいるようであれば、獨協医科大学にしてほしいと思います。意識高く有名な所へ行ったとしても、よい病院に行ったからといってよい医師になれるとも限りません。

獨協医科大学は人を大事にしていると思います。症例も多いですし、設備も充実しているので、やれることはたくさんあります。 もしどの診療科にするかで悩んだら、救命に入ってもらえると私としてはうれしいです。

城島:
獨協医科大学をぜひおすすめしたいと思います。共感性が高く、どの方も優しいです。うちの医局では、3S(smile:笑顔、support:サポート、sympathy:共感)を掲げています。一人で戦うのは難しいからこそ、この三つを根幹に医局を運営しています。こうしたことを大事にするのが獨協医科大学のよいところだと思います。

山岸:
獨協医科大学は、世代を超えて言いたいことを言える開かれた環境
ではないかと思っています。獨協医科大学の臨床研修センターは、下田先生をはじめとする教員、職員が個々の研修医の意見を受け止め、それに対して緻密なサポート体制ができており、とても恵まれている環境だと感じています。大学生へのアンケートでは本学における満足度の一位は「人間関係」です。本学の建学の精神である「学問を通じての人間形成」をまさに実践している結果だと考えます。

獨協医科大学病院は病床数全国6位、症例数全国13位の大きな病院です。症例数は豊富であり、臨床研究はしやすい環境です。また、アットホームで、分からないこともすぐ相談できます。自然豊かで、スキー場、ゴルフ場、温泉なども多く、研修の疲れもすぐに癒してくれる環境です。都内まで100㎞ですので、すぐに行くこともできます。臨床研究学問をするにはとてもよい環境だと思います。

―― 本日はありがとうございました。このようなかたちで今後も発信していきますので、何かしらの形でサポートしていただければと思います。

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