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読んだ歌集.log


2023年6月より短歌を始めた。
以下、読んだ順に歌集の記録。
短歌同人誌などもたまに含む。
読んだ時にいいと思った一首。

我がカープのピンチも何か幸せな気分で見おり君にもたれて
『サラダ記念日』俵万智

並の服屋で流れてきたイントロがその場かぎりで泣けそうにいい
『たやすみなさい』岡野大嗣

あっ、ビデオになってた、って君の短い動画だ、海の
『砂丘律』千種創一

生年と没年結ぶハイフンは短い誰のものも等しく
『サイレンと犀』岡野大嗣

牛乳のパックの口を開けたもう死んでもいいというくらい完璧に
『uta0001.txt』中澤系

暗い顔してどうしたんアメリカンドッグをたいまつみたいに渡す
『音楽』岡野大嗣

倒れないようにケーキを持ち運ぶとき人間はわずかに天使
『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』木下龍也・岡野大嗣

さくらっていちごと同じ発音で言わないときは君の名前さ
『つむじ風、ここにあります』木下龍也

となりの人が奥歯の方でかんでいるガムのぶどうの匂いでねむい
『日本の中でたのしく暮らす』永井祐

3、2、1、ぱちんでぜんぶ忘れるよって今のは説明だから泣くなよ
『水上バス浅草行き』岡本真帆

選ぶとは捨てること、じゃないだろう。夜、駅は舞台のように明るい
『千夜曳獏』千種創一

公園へチーズバーガー持っていき暗くてみえないベンチにすわる
『広い世界と2や8や7』永井裕

目がさめるだけでうれしい 人間がつくったものでは空港がすき
『たんぽるぽる』雪舟えま

死のうかなと思いながらシーボルトの結婚式の写真みている
『シンジケート』穂村弘

クリスマス・ソングが好きだ クリスマス・ソングが好きだというのは嘘だ
『標準時』佐クマサトシ

掠れている声で風邪だと気付かれてうざかった 初期のわたしの光
『4』青松輝

イルカがとぶイルカがおちる何も言ってないのにきみが「ん?」と振り向く
『花は泡、そこにいたって会いたいよ』初谷むい

右の翼にのこった麻痺のああぼくがすきだったすきだった消失
『わたしの嫌いな桃源郷』初谷むい

ずっと月みてるとまるで月になる ドゥッカ・ドゥ・ドゥ・ドゥッカ・ドゥ・ドゥ
『サワーマッシュ』谷川由里子

雨に濡れ赤信号に濡れながらかすかな加害浴が芽生える
『湖とファルセット』田村穂隆

椅子に深く、この世に浅く腰かける 何かこぼれる感じがあって
『水の聖歌隊』笹川諒

たかだかと父は掲げつ盆の夜の途切れなかったりんごの皮を
『人魚』染野太朗

テーブルに来たれる鴉、フェードルとみづから名乗り崩れゆきけり
『快樂』水原紫苑

革命歌作詞家に凭りかかられてすこしづつ液化してゆくピアノ
『水葬物語』塚本邦雄

夢に見たどのわたしにも遠い日のひどいといえばひどい菊展
『崖にて』北山あさひ

スノードーム割れてみーんないなくなるだから一汁一菜でええねん
『ヒューマン・ライツ』北山あさひ

朝。シャツを脱いできれいなシャツを着る異国の闇を手に探りつつ
『カミーユ』大森静佳

アダムの日記、イブの日記を盗み読みたったひとつの顔を洗った
『ヘクタール』大森静佳

嵐の夜は寝るだけ つぎの週末は水着をもって遊びにおいで
『ピクニック』宇都宮敦

泣けばいいのに泣かないからよ 妹はパン生地をこねながら笑った
『日々に木々ときどき風が吹いてきて』川上まなみ

過ぎ去ればこの悲しみも喜びもすべては冬の光、冬蜂
『やがて秋茄子へと到る』堂園昌彦

西暦はいつまでこんな清潔さ片手を挙げてきみは寄り来る
『てのひらを燃やす』大森静佳

スカートをまくって波の中に立ち「ふるいことばでいえばたましい」
『水中翼船炎上中』穂村弘

てのひらをくぼめて待てば青空の見えぬ傷より花こぼれ来る
『無数の耳』大西民子

水のごとく髪そよがせて ある夜の海にもっとも近き屋上
『メビウスの地平』永田和宏

太陽のような光に出逢いたく林檎をぱーんとふたつに割りぬ
『滑走路』萩原慎一郎

今日もまた渚カヲルが凍蝶の愛を語りに来る春である
『黒耀宮』黒瀬珂瀾

花と花に眠る犬の絵 ふんだんな余白が棺だと思わせる
『うれしい近況』岡野大嗣

あいみすゆー らぶみー きるみー
大学で服かわいい子と生理カブった
『ロマンチック・ラブ・イデオロギー』手塚美楽

たち切るも/たち切られるも/石のまくら
うなじつければ/ほら、塵となる
『石のまくらに(一人称単数)』村上春樹

なにひとつ願わずにいた背泳ぎの岸に頭をぶつけるまでを
『夜を着こなせたなら』山階基

励ましかた雑でごめんと詫びたあと音なく吸つてゐる〈朝バナナ〉
『体内飛行』石川美南

知らない海の話をすこし飽きるまで明日あなたの扶養をぬける
『風にあたる』山階基

サンダルの黒ずんでいるキティちゃんに口が無かった 蹴るように脱ぐ
『インロック』森口ぽるぽ

本当に足速い人はなにもかもちがう 嘘ついたことない人みたい
『気がする朝』伊藤紺

冷えながら耳は意識す海鳴りに囲まれてゐる国のかたちを
『架空線』石川美南

新年の季語だといいな機関銃 雪の野原できみと撃ちあう
『地上絵』橋爪志保

悲しみは言ふなきさらぎ身に雪を受けて埋もれて跡ぞしら雪
『フムフムランドの四季』紀野恵

鍵盤の白鍵、西暦二千年、なつかしくなる交通事故は
『かわいい海とかわいくない海 end.』瀬戸夏子

人の手を払って降りる踊り場はこんなにも明るい展翅板
『行け広野へと』服部真里子

午前五時わたしが放ったかのようにわたしから飛び立っていく鳩
『10月生まれ』乾遥香

朝、ユキが非常に抽象的な服装をして私を誘いに来た
『早坂類自選歌集』早坂類

陸と陸呼びあいながら遠ざかるあなたも鳥目わたしも鳥目
『遠くの敵や硝子を』服部真里子

地より湧く水を手桶になみなみと満たせど漏れつ逢わずにいれば
『またね』金沢青雨

こころとは異土のこと 尾を喪ひし人魚を夜の森に放てよ
『Lilith』川野芽生

ころがった硬貨は自販機の下で桜の面がおもてだろうか
『ブンバップ』川村有史

かみのけが今夜もすこしずつ伸びる さくらの下にいてもいなくても
『結晶質』安田茜

品川の手前で起きてしばらくは夏の終わりの東京を見た
『予言』鈴木ちはね

リベラルな学校の保守的な校歌 サビのところは本気で歌う
『遠い感』郡司和斗

結いてもまた寝ころんでしまふならぼさぼさ髪のまま野原まで
『砂の降る教室』石川美南

バーミヤンの桃ぱっかんと割れる夜あなたを殴れば店員がくる
『母の愛、僕のラブ』柴田葵

昼の陽に感情の底洗ひつつゆきかふ日々の靴が脱げさう
『Dance with the invisibles』睦月都

戻る?って関西弁で言うからさ踊る?って聞こえたんだ 踊ろ!
『老人ホームで死ぬほどモテたい』上坂あゆ美

折りたたみ傘を位牌のように差しだれかのさきをきみは歩める
『木曜日』盛田志保子

水の中で開けると痛い目をもってあなたを見下ろしている真昼
『青い舌』山崎聡子

まひるまに氷をできるだけ口に入れる遠くへ届く絵葉書
『O-U-I』より連作『手に指の笛』糀沢知世

きみはきみの絶滅危惧種、はなびらにまみれて自転車がやってくる
『O-U-I』より連作『きんいろ』浦川友希子

ぬるい水 見逃し配信のような40代をあなたも生きて
『O-U-I』より連作『氷上のバックフリップ』柴田千絵

祝福を 花野にいるということは去るときすらも花を踏むこと
『悪友』榊原紘

王冠を授けあうわたしたちのことまひるの裏番組が見ていた
『みじかい髪も長い髪も炎』平岡直子

約束がつぎつぎ反故になる日々にごみ収集車のゆるいブレーキ
『koro』榊原紘

君とわれのくちびるは話すためにある伊勢物語の絵巻をほどく
『くびすじの欠片』野口あや子

肩先に鞄をかるく反らせつつ歩くわがものがおはわがもの
『夏にふれる』野口あや子

歯間から中華の匂いをさせているきみのうなじを梳きあげている
『かなしき玩具譚』野口あや子

茶葉ふわり浮いてかさなるはかなさで夫と呼んで妻と呼ばれる
『眠れる海』野口あや子

近づくと鏡にでかくなる顔を雨に濡らして濡れて帰った
『あおむけの踊り場であおむけ』糀沢知世

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