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さっぽろレインボープライド2024を振り返る

今年も、さっぽろレインボープライドが終わった。

2017年に4年ぶりに、学生たちが中心となって復活した1回限りのパレード「さっぽろレインボーマーチ+」から、シスジェンダーアライとして、パレードに関わり始めて8回目のパレードとなった。私が、2019年に当事者以外で初めての実行委員となった大切な経験から、すでに5年が経った。

今年は、パレード参加者が1000人、来場者数が3万人と、昨年を超えて過去最大の規模となった。札幌市役所には、初めてレインボーフラッグが掲げられた。コロナ禍を越えて、昨年から新たなステップを迎えたように、個人的には感じている。

そんな中でも、原点を決して忘れないのが札幌のパレードの良さだと思う。

プライドパレードは当事者の祝祭であって、これは多くの祭りに共通することだと思う。収穫祭や商店街の祭り、神社の例大祭などがわかりやすい例だろうか。
一方、祭りには記憶を継承する、尊い犠牲を払った人への弔い、敬意の表出といった役割もある。古い祭りに、死を遂げた人への慰霊の要素があることは多い。そして、クリスマスも「キリストの生誕祭」ではあるけれど、そのような要素があると思う。

さっぽろレインボープライドは、まさにこの両面の要素を持ったパレードであって、どうしても「当事者の祝祭」ばかりがクローズアップされるけれど、「尊い犠牲を払った人への弔い」「記憶の継承」がしっかりと息づいている。

札幌のレインボーフラッグには、白い三角形が描かれている。デザインしたのは、前身の「レインボーマーチ札幌」で実行委員を務めた西澤裕敬さんだ。

2024年9月14日 札幌市役所前に掲げられた「札幌のレインボーフラッグ」

その西澤さんが、札幌独自の旗をデザインした。2006年9月に札幌のパレードが節目の10回目を迎えることに合わせ、独自の旗を作ろうという話が盛り上がったのがきっかけの一つだった。
白い色を使うのは、当時の主催団体としての案だった。メンバーの一人だった桑木昭嗣さん(43)は「白い色には、ヘイトクライム(憎悪犯罪)などで亡くなった方への追悼や、今も様々な苦しみと闘う仲間への共生の意味を込めようとなった」と振り返る。
その上で、西澤さんはいくつかのデザインを作った。その一つが、白い色の三角形が旗の根元にあしらわれていたものだった。西澤さんは「ナチス政権下のドイツで強制収容された男性同性愛者の着衣の胸に付けられた逆三角形の印『ピンクトライアングル』を参考にした」。こうして新しい旗は生まれた。

死を選んだ息子、残したレインボー旗 札幌の空に舞う日
朝日新聞北海道版 2019年9月14日 

西澤さんは、パレードを2ヶ月後に控えた2006年7月、自ら命を絶った。遺書もなく、死を選んだ理由はわからない。42歳だった。

さっぽろレインボープライドのロゴデザインにも、しっかりと「札幌のレインボーフラッグ」が描かれている。

14日は、ステージイベントやブース出展がメインの1日。今回は、パレードで知り合った知人・友人だけでなく、私がパレードに関わっていることを、最近まで知らなかった知人・友人の来場もあった。私は、人を巻き込むことが正直上手くない。そんな私が、拡がりを感じられるようになってきた。

当日運営に関わるボランティアも、2日間で延べ150名以上の方が関わっている。年々若年層のボランティアが増えている。そして、毎年参加するボランティアも、私が知る限り20名ほどいる。
そして、実行委員経験者が数名加わって、当日を迎えている。これだけの大規模なイベントが、自主的な関わりで運営されているのは、あまり見かけないのではないかと思う。

当事者を含め、若い出展者、参加者が増えている。
医療系学生のチーム「IFMSA-Japan SCORA」、帯広畜産大学の公認サークル「かしわの虹ハウス」、マイノリティ支援・居場所づくりに関わる若者チーム「Hi-STORIES」。主に20代前半の若い方が新しい形で関わり始めている。

医療系学生のチーム「IFMSA-Japan SCORA」のブースより。
「医療でもやもやしたこと」「医療現場に求めること」を
来場者から付せんで意見募集していた。

ポジティブなメッセージにあふれているけれど、このようにLGBTQに限定しない、人権や差別について取り組む展示があるのも、主催者のメッセージが伝わっているのだと思う。

札幌市のブースでは、DVやヘイトスピーチを扱った冊子配布も。

15日のパレードを振り返ってみる。

当初から、外国籍の方の参加も多いけれど、年々増えていることを実感する。通りかかった外国からの観光客も「プライドパレードが札幌にもあるんだ!」といった反応が見られた。そして、多くの人が、パレードに手を振ったり、「HAPPY PRIDE!」と声をかけてくれる。

今年は、5番目のフロートとして、ゆっくりと歩く「ハピネスフロート」が設けられた。徒歩で約45分の距離があるパレードコースを、1時間半かけてゆっくりと歩く。

車いすでパレードに参加する方と介助者。

今年は、パレードの沿道にいる人たちとも会話する機会が多かった。テレビ出演もある、副実行委員長の満島てる子さんを見にきた方、パレード参加者の家族や友人、そして、パレードに参加しなかった・できなかった方。それぞれが抱える思い、葛藤、疑問。当日どうしても余裕がなく、やっとそれらと向き合うことができたように感じた。

ゴール地点の大通公園3丁目で、以前よりSNS上で知っていた#就活セクシズムのゆーぼーさんと話す機会があった。非常に真摯に自身の問題意識を表現し、問い続ける方。正直、ひとつひとつの言葉が刺さり、手強かった。でも、その「手強い問い」がパレード参加はもちろん、CSR(企業の社会的責任)やダイバーシティをポーズにしないために必要と思う。もう少し、いや粘り強く、組織の中で闘ってみようと決意。

公式のアフターパーティーも5年ぶりに開催。昨年は、元実行委員や当事者のイベンターが作る「公認パーティー」だった。

今回は、フロアとステージが近く見応えがあった。出演者に渡すチップをチケット制にしたり、踊れるメインフロアと、まったりできるサブフロアの構成もよかった。90年代のいわゆる「ハッピーハンドバッグ」から、最新のダンストラック、J-POPまで幅広い選曲で、しっかり踊ってきました。
(クラブカルチャーとLGBTQの関係は話すと非常に長いため割愛)

ポールダンスのパフォーマンス。
華やかなパーティーでも、ショービズとマイノリティの関係、歴史を感じる。

すすきのは、LGBTQという言葉のない時代から、性的マイノリティの当事者にとって大切な街。カルーセル麻紀が職業人生を始めたのも、すすきのだった。SNSやマッチングアプリの時代となっても、リアルで交流する場として、「飲み屋」は大切な存在だ。

パレード以外にも、同時に多くの関連イベントがあるのも、さっぽろレインボープライドの最大の特徴だ。
パレードに参加しなかった・できなかった当事者にも、居場所がきちんとある。もちろん、すべてを満たすことはできないけれど、見捨てることのない強い意思を感じるのだ。

パレード後に多くのメディアに記事掲載があった。
その中で、札幌市内にポスティングされるフリーペーパー「ふりっぱー」のWeb版記事を取り上げてみる。

「ハッピープライド!」を合言葉に行進
15日には札幌中心街を練り歩くパレードも行われました。この日はあいにくの雨模様で気温もやや肌寒い天候。華やかなメイクとドレス姿の皆さんが山車用の車に乗り、「ハッピープライド!」とコールしながら大通公園をスタート。
参加者の皆さんはレインボーフラッグを手に、その後をついて行進していきます。いわゆる「ドラァグクイーン」のような華やかな装いだけではなく、普通にTシャツやジーンズなどのラフな服装の方も見られます。また、外国人の姿もあちこちで見られました。さらにLGBTQ+当事者だけではなくアライ(※)と呼ばれる支援者の方も一緒にパレード。札幌中心街約3㎞を練り歩きました。大通公園では、開催中のさっぽろオータムフェストの来場客や出店者、観光客からも声援が送られたりと、ひときわ注目が集まりました。

華やかなパレードを通して、誰もが生きやすい社会を実現させようとアピールするプライドパレード。それは「ありのままのあなたであること」を祝福するパレードでもあります。
パレード終了後は、「一人じゃない、私たちはここにいる。明日からまた同じ空の下を歩いていきましょう」と力強いスピーチと拍手で締めくくられました。 

※アライ(Ally)…LGBT当事者ではないが、LGBTの人たちの活動を支持し、支援している人たちの総称。

https://www.fripper.jp/topics/2678/

今まで、報道としてのニュースで取り上げられることがほとんどだった。イベントレポートとして取り上げられたのは、OUT JAPANの記事を除けば、初めてのことではないだろうか。記事の中見出しにある「企業ブースも出店、変わりつつある社会」という言葉が、まさに変化を捉えているように思える。

気になったことを最後にまとめておく。

団体参加が年々増えているが、各企業・団体の PR の場としてではなく、当事者に向き合えているかどうか、気になることがあった。各企業・団体の中にも当事者がいるはずで、パレードを歩くことは、その当事者と共に行動する、そして生きる姿勢を表明する場であってほしいと私は願っている。

企業の商業的な姿勢は、容易く批判されることが多い。しかし、それだけではダイバーシティや、CSR(企業の社会的責任)、ES(従業員満足)、といった課題に真摯に取り組んでいる人たちをへし折ってしまう可能性がある。良いところは褒め、悪いところは継続的な改善へつなげていく目線が必要と私は考えている。

各団体について思うことは、あくまでも当事者の幸福や自己決定権を犯して欲しくないと私は願っている。政党や労働組合、宗教団体が「●●はあなたを守ります」とスローガンを掲げる時、守られる対象があくまでも構成員に限定されているように、私は感じてしまう。
そして、自らのメンバーシップに加わってほしいという意図を強く感じることがあった。メンバーシップへ加わる・加わらないは、あくまで当事者が各々で決めることで、それをもって権利を認める・認めないであってはならないと私は思う。

企業の中にあるホモソーシャル、旧来の団体の中にある父権主義的なカルチャー、そして共通項のように横たわるボーイズクラブ。これらは、支援する側>される側という上下関係を形作ってしまう。
LGBTQ当事者の存在を知ること、そして当事者が抱える問題について考えること。その点は、イベントやパレードで共有されていると思う。
だからこそ、自らに目を向けて、内なる偏見や差別、その温床となっている上記の問題に向き合ってほしい。
それが、当事者であるかを問わず、働きやすい企業風土や、活動しやすい組織風土につながっていくはずだ。

9月15日
雨上がりのレインボーカラーに
ライトアップされた札幌テレビ塔

そして、これからもパレードは続いていく。
これからもライフワークとして、力の続く限り、関わっていきたいと心から思っている。
それは、パレードで出会った大切な仲間と、生まれた札幌の街への愛なのだと思う。

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