謹賀新年

初日の出だけが特別な太陽だと思っていたけれど、山谷で数ヶ月働いて毎朝日の出を見てみると、案外そんなことはなかった。普通だ。
金が無いと無いなりに幸せのハードルが下がっていき、日の出を見るためにいつもは走っていない時間の電車に乗れるだけで楽しかった。きっと「生きてるだけで丸儲け」なんて言葉は人の真理なんかじゃなくて、妥協に妥協を重ねた最後に残った幸せなのかもしれない。普通は小さ過ぎて気にならないだけだろう。

今年はあれやこれやで電車も走っておらず、さらに12月の分の給料は気合いを入れて返済に回し過ぎたおかげでロクに残っていなかったから、家の窓から日の出を待った。金が無くても4分の1の確率で日の当たる窓のある部屋には住める。貧する者が地下に追いやられる時代じゃなくて良かった。
毎年わざわざ江ノ島や千葉の端っこから水平線を見に行くミーハーな有象無象の僕だが、今年は都会のビル群を地平線として日本酒を飲みながら待ったものだから、8時頃にようやく初日の出を拝んだ。
毎月の初め、年始、誕生日。カレンダーの区切りが良い日は心機一転のチャンスだが、結局2021年も夕方まで寝てしまったおかげで決まりの良いスタートを切れなかった。もう正月に関しては仕方がない。スタートラインを4日の朝にズラして、3が日はデュエル・マスターズの召喚酔いみたいなものだと思うことにした。

2020年は最高の1年だったと言わざるを得ない。僕にサラリーマンとしての素養は全くなかったし、社会やコミュニティとの繋がりに依存もしてなければ積極的に関わろうとも思わない、限りなく生産性の低い個体であることがはっきりとわかった。アリの友達がたくさんいるキリギリスのようなものだ。人間に生まれる必要はなかったかもしれないが、人間に生まれてこなければこうして図々しく生き残ってもいなかっただろう。
去年の3月頃にピークを迎えた600万近くあった借金も、かれこれ400万くらいまで減った。"ちゃんと"やれている。ネット様様だ。

ネットと言えば、去年は少し露悪的になり過ぎたかもしれない。”クズで好き勝手やっている自分”が求められる自分になってしまったために、本来そうでもない場面での選択も少し煽り気味になっていた。働いて返済をしようとする自分も、1万円を増やしてなんとかその場を凌ごうとする自分も、両方純粋な僕のはずなのに、常に「こんなことやっちゃいました笑」みたいなスタンスのくだらないペルソナをネットに出現させることで再び話題になるのがやめられない。バズって物珍しいものが好きそうな人たちから仕事をもらった成功体験がそうさせている。どれだけ叩かれようとも全く堪えないのがその証拠だろう。メンタルが強かったわけではなく、「みがわり」を使っただけだ。でも今のところ特筆するべきデメリットも無いので今年も続けてしまう気がする。
SNSに侵されている、ということだろうか。今年はSNSの自分に飲み込まれないようにする一年にしたいし、SNSでも正真正銘の自分を好きに出し入れできると言い切れるようにしたい。Twitterは恐ろしい。僕は運良く感謝できるくらい良い事がたくさんあったが、それは状況が最悪なスタートだったからに過ぎない。人に見られている限り、評価される時代にいる限り、誰だってバケモノになる可能性はある。僕は人を傷つけないだけでバケモノには変わりない。

あとこれは見せてない僕の部分でもあるから全く理解されないかもしれないが、人を助けすぎないようにしたい。「自分」は持っていても「欲」がほとんどないから、去年は後先考えずにお願い事を聞いては損をする事が多かった。別に人を信用しないわけじゃないが、人を助けられるのは助ける余裕がある人だけだ。自分だけがその場を救える状況なんてのはきっと人生で数える程しかなくて、今の僕には「一緒に考える」くらいしかできない。日本人らしいたくさんの譲歩と遠慮を繰り返しながらようやく学んだ。
「せっかく助けてやろうと思ったのに」
という感情は傲慢そのもので、そもそも助けを求めている人は大抵助かってなお余りあるくらい好転はしないのだから、何かしら返ってくると思い込んでいること自体が間違っている。と思う。一方、僕もまた「助けてもらった恩を全部返すのはキリがないから」という思いからこんな考えに至ったのかもしれない。何が一番なのやら。

2021年、バイト続きのせいで何もしないことに少し罪悪感を覚えている。でも何を頑張りたいわけでもないし、やるべきことも見当たらない。とりあえずまたスマブラを頑張っている。いや、やっぱりカジノには行きたい。また給付金もほしい。変な仕事もしたい。でも就職はしたくない。パチンコは飽きたけど友達となら打ちたい。飯だって色んなものを食べたい。今年28歳になってしまう。人生はあっという間だ。でも酒もタバコも辞めたくない。会ってみたい人もたくさんいる。

あ〜、ラーメン二郎とか久しぶりに食いてー。