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(加筆修正)エッセイ「クラシック演奏定点観測〜バブル期の日本クラシック演奏会」 第13回 クラウディオ・アッバード指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団 来日公演 1988年

エッセイ

「クラシック演奏定点観測〜バブル期の日本クラシック演奏会」 

第13回 クラウディオ・アッバード指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団 来日公演 1988年 


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⒈   クラウディオ・アッバード指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団 来日公演 1988年 


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公演スケジュール 

1988年 

3月 

15日 大阪 

ザ・シンフォニーホール 


 ハイドン 交響曲第101番ニ長調「時計」 


モーツアルト 協奏交響曲 変ホ長調 

オーボエ ダグラス・ボイド 

クラリネット リチャード・ホスフォード 

バスーン マシュー・ウィルキー 

ホルン ジョナサン・ウィリアムズ 


メンデルスゾーン 交響曲第3番イ短調「スコットランド」 


 主催:朝日放送 

協賛:スコッチ・ウィスキー リズモア 


 16日 名古屋 名古屋市民会館大ホール 

17日 18日 19日 東京 サントリーホール


 generous support 

 The BOC Group 

ICI Financial Times 

 Osaka Sanso K.K. 

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 ※筆者が買ったチケット 

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筆者はクラウディオ・アバド(今回のパンフレットでは、アッバードと表記されているが)について特別に思い入れがある。


※本連載の、アバドに関する記事へのリンク

(1)第1回 クラウディオ・アバド指揮 ロンドン交響楽団来日公演 1983年


https://note.com/doiyutaka/n/n47f9b3d1ac01#4aA9a

(2)第10回 クラウディオ・アバド指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 来日公演 1987年 ベートーヴェン・チクルス


https://note.mu/doiyutaka/n/n930ac826a2ab

(3)(加筆修正・掲載順序入れ替え)
第28回 クラウディオ・アバド指揮 ヨーロッパ室内管弦楽団 来日公演 (ピアノ:マレイ・ペライヤ) シューベルト・チクルス&ベートーヴェン・ピアノ協奏曲全曲演奏  1991年


https://note.mu/doiyutaka/n/n501f87f51a29


クラウディオ・アバドを偲んで
http://ameblo.jp/takashihara/entry-11754770773.html



この連載の第1回でも書いたように、初めてクラシックの、海外オーケストラの生演奏を聴いたのが、アバド指揮のロンドン交響楽団だったからだ。それ以来、アバドの来日公演は、可能な限り聴き逃したくないと思っていた。だから、この連載の10回目に書いたアバド&ウィーン・フィルの来日公演も、高額なチケットを朝早くから並んで買った。

ところが今回、アバドがヨーロッパ室内管弦楽団と来日するというのでチケットを入手した時は、ウィーン・フィルの場合と違って価格も安かったし、それほど苦労なく購入できた。ウィーン・フィルの人気と、今回のヨーロッパ室内管弦楽団との格の違い、ということなのだろう。 そうはいっても、アバドが指揮するからには、オーケストラが新しい室内オケでも聴き逃したくなかったのだ。結果からいうと、筆者はこの演奏会で、アバドの生演奏に当たり外れはない、ということを確信することになった。 

いくらアバドが有名指揮者でも、もし並の指揮者だとしたら、ロンドン響、ウィーン・フィル、そして新顔の若手による室内オケ、という3つの異なる団体を指揮して、いずれ勝るとも劣らぬ演奏レベルを実現することは難しいだろう。しかも、それが海外遠征であれば、なおのことオーケストラのコンディションや会場のポテンシャルの違いもあり、ことごとく名演奏を実現するというのは難しいと思うのだ。ところが、アバドはそれを実現してしまう。もちろんロンドン響の時も、ウィーン・フィルの時もそれぞれの名門オケの名に恥じない素晴らしい演奏だった。今回、若手奏者の集団であるヨーロッパ室内管弦楽団の演奏で、名門オケ両者に比して劣らない演奏を実現するというのは、まさしくアバドの手腕であるといえる。

この新しい室内管弦楽団は、当時の筆者がよく知らなかっただけで、欧州ではメキメキ名声を高めつつあった敏腕集団なのだった。あとでそのことを知り、無知を恥じるばかりではあった。今回の演奏プログラムも秀逸な選曲で、ハイドン、モーツアルト、メンデルスゾーンの3人を並べて、まさに古典からロマン派までのクラシック音楽の王道で、正々堂々と日本のクラシックファンに挑戦してきたという印象だった。

ハイドンの交響曲101番「時計」は、ハイドンの数多い交響曲の中で「驚愕」と並んでよく知られている。アバドによるハイドンの交響曲録音はこの当時はまだ少なかった。アバドの指揮した古典派といえばモーツァルトの演奏が多いようで、ハイドンの演奏ぶりは、まだこの当時、筆者にはよくわからなかった。それでも、モーツァルトの交響曲よりももっと劇的で、かつメロディーが特徴的で、ベートーヴェンの先取りのような感じがしたことを覚えている。音楽史的にも、それでさほど間違いではないだろう。

 モーツァルトの協奏交響曲は、管楽器のソロを4人用いた変ホ長調の方で、現在では偽作だという説が有力だ。それでも、この曲は、モーツァルトの書いた管楽器ソロを伴う楽曲の中で、特に魅力的だということも、また事実だ。特に、ホルン奏者にとってはモーツァルトのホルン協奏曲4曲以外で、オーケストラ伴奏付きのソロ曲の代表的な1曲だといえよう。ここでソロを担当したのは、同オケの奏者ばかりだ。いずれもまだ若々しいが、その後もキャリアを順調に重ねて行ったようだ。 

オーボエのダグラス・ボイドは、指揮者として、日本でも名古屋フィルを振った公演などでおなじみの存在となっていく。

 ※ダグラス・ボイド

 http://www.kojimacm.com/artist/boyd/boyd.html 


次に、メンデルスゾーンの交響曲第3番「スコットランド」は、アバドにとっては得意の曲だ。ロンドン交響楽団とのメンデルスゾーン交響曲全集でも見事な演奏を聴かせているし、若き日のレコーディング曲にも選んでいる。今回も、ロンドン響の場合よりかなり小編成にもかかわらず、その音楽づくりはロマンティックな情感にあふれ、ロマン派の代表的な交響曲として遜色のない、スケール感を持って演奏されている。


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⒉  ヨーロッパ室内管弦楽団とは?


今回の来日公演のあと、ヨーロッパ室内管弦楽団は、日本でも急速に人気の楽団となっていったようだ。何しろ、録音で次々リリースされるのがいずれも、日本でも人気の巨匠たちとのユニークな演目ぞろいだ。 


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 アバドとは、この来日ののちシューベルトの交響曲全集がリリースされ、大変な話題となった。今回の88年の公演ではシューベルトの第3番とロザムンデ序曲しか演奏されなかったが、全集録音でのアバドは、シューベルトの自筆譜を基本とした全く新しい解釈で演奏しているからだ。全集録音でのヨーロッパ室内管弦楽団は、やはり基本的に小さな編成で、引き締まった演奏を繰り広げている。それでいて、後期の交響曲では大編成オケと比べて全く遜色ない響きの充実で、従来のシューベルトの交響曲をイメージ一新した全集を作り上げている。このシューベルト全集については、次にこのコンビが来日する91年の公演の回で、詳しく書こうと思う。

ところで、ヨーロッパ室内管弦楽団について、日本では誤解が広まっているようだ。というのも、同楽団のウィキペディアによる説明が間違っているのだ。 

※ウィキペディアより引用 

《1981年にECユース管弦楽団(現EUユース管弦楽団)の出身者を中心としてクラウディオ・アバドにより自主運営団体として設立。》 

 

とあるが、実際は、この楽団の設立はアバドが呼びかけたものではないはずだ。来日公演パンフレットにも、アバド設立などとは書かれていない。 

 ※88年の公演パンフレットより引用 

《ヨーロッパ室内管弦楽団は、音楽を愛する人々の援助に力を得た意欲的な音楽家達によって組織されたユニークな音楽団体である。1981年の創立で、12カ国から参加した50名の楽員からなり、そのレパートリーは大編成の交響曲を除く、広い分野に及ぶ。》 


※91年の公演パンフレットより引用 

《ヨーロッパ室内管弦楽団は1981年にヨーロッパ12カ国から集まった世代を代表する若い音楽家によって創立された。》 


上記の設立由来は、録音CDのリーフレット解説でも踏襲されている。ということは、ウィキペディアの「アバド設立説」の方が間違いなのではないか?  もっとも、ヨーロッパ室内管弦楽団をアバドが設立したという説が書かれたのには無理もない面もある。この楽団のメンバーが多く所属していたのが、ECユースオーケストラだからだ。このECユースオケ、現在のEUユースオケもアバドが設立したのではないが、当初から親身に指導していたことは有名だ。 その後、アバドはECユースオケの汎欧州版というべき、グスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラを設立した。さらに、アバドを慕う若手音楽家や、かつて指導を受けたことのあるベテランたちが集まって結成されたのが、ルツェルン祝祭管弦楽団だ。 

このように、アバドは欧州の若手音楽家を指導する立場に長らくあったため、ヨーロッパ室内管弦楽団も、アバドが設立したと勘違いされたのだろう。 いずれにせよ、この楽団とアバドの関わりは、この公演後も長く続き、豊かな音楽的収穫を残している。 



⒊  アバドという指揮者の活躍ぶり


アバドの活躍ぶりというのは、この時期、まさに飛ぶ鳥を落とすばかりの勢いだった。公演パンフレットに、過去1年のアバドのシーズン記録が転載されているが、それをみても、いかにも脂の乗り切った感がある。 



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土居豊:作家・文芸ソムリエ。近刊 『司馬遼太郎『翔ぶが如く』読解 西郷隆盛という虚像』(関西学院大学出版会) https://www.amazon.co.jp/dp/4862832679/