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ビール好きがノックアウトされたおもてなし

わたしはビールが大好き。ほんっとうに好き。とてつもなく好き。
一日の仕事にカタをつけて、飲むビールはおおげさでなく「きょうも生きてて幸せ」って気分になる。なかなか進まない作業をしているときは、「大丈夫。あと3時間でビールが飲めるから」と自分を励ます。ビールが私を走らせている。ありがたいわ。わたしをまっとうに仕事させてくれるビール。

ところで、お店で座るなりビールをオーダーして、最初の一杯が運ばれてきたときのことを思い出してほしい。
だいたいはドリンクがきたらついでに、「たべものオーダーいいですか?」となるのではないだろうか。
ところがどっこい。先日めちゃくちゃ素敵な進化系に出会ってしまった。

半個室が格子戸で間仕切られているそのお店では60歳ぐらいの細身で動きがしなやかなお姉さんがホールを回してらした。
身のこなしが洗練されているし、滑舌もさわやかだ。なんかかっこいい。
そんな彼女が、ビールを運んできてくれた。
よく冷えたジョッキに細かい水滴がびっしりついている。泡はきめこまやかで美しい。おいしそうだ。
ジョッキを置くなり、彼女はすっと個室から出て引き戸を閉めながらこう言った。
「乾杯をお待ちします。」
くぅううううう。ビール好きならきっと誰もがしびれる。
だって、目の前に「おいしいうちに早く飲んで」とせがむビールがあるんだもの。いつもなら、食べ物をオーダーしている間に少しずつ萎えていく泡を、心の中でひっそり惜しむんだもの。
引き戸のすぐそこでこちらの気配を図り、一口目のビールのおいしさがわたしたちの脳に到達したところで、お姉さんは再登場した。
「お料理のご注文どうぞ」と。

大根にこまかーく包丁を入れてあるお料理。お店で「大根」って言えばきっと伝わる。

むちゃくちゃ、かっこいい。
プロフェッショナルだ。
プライドもって気高くサービスしてらっしゃる。
ビールが来たら「おいしいうちに一刻もはやく飲みたい」というビール好きの悲願を叶えようという、覚悟がめちゃくちゃ誠実だ。
たぶんお姉さんも無類のビール好きだと思う。

おもてなしで感動すると、その時間の価値がはね上がる。


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