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真夏の宴 #曲からチャレンジ



 真夏になると、夕飯の後で散歩に行くことが常となる。
 いつものように、さあそろそろまいりましょうか、とお犬を誘ったのであった。
 大喜びして行く行く、となるところが、様子が違う。
 やめとくわ、と言うのである。
 具合でも悪いのか?
 いやそうじゃなくて、まあ、ちょっと。
 ふうん。
 仕方がないので、一人でぶらぶらと歩きにでることにした。

 風が生ぬるい。
 住宅街のまばらな街灯を抜けて、神社の前を過ぎる。
 毎晩のように猫が集会を開いているあたりだが、今夜は誰もいない。
 ふっ、と暗くなる。月に雲がかかったのであった。
 また月が顔を出す。
 向こうまでぼんやりと明るくなる。
 あれ、こんなところに空き地なんてあったっけ。

 あ、猫さんたち、今夜はここにお集まりで。
 やけに数が多いね。
 ハチワレ猫が立ち上がる。
 すると、一斉に猫たちが

 輪になって踊り出した。

 キジトラ猫は器用な手つきで、麦わら帽子をくるくる回しながら、スイカのようにまあるいターンを繰り返す。
 三毛猫三姉妹は、息の合った掛け合いで、蚊取り線香を投げ合いながら舞う。
 アメショ女子が二人、「アブラダ」「アンコロ」「モッチモッチ」と謎の口上を唱えながら練り歩く。赤いリボンの麦わら帽を被ったマンチカンが、呪文に合わせて尻尾を上げたり下げたりする。
 あ、あの白いふさふさの尻尾を揺らしながら陶酔しているのは、猫ではなく。猫のお面をつけたうちのお犬ではないか。その隣をぴょこぴょこしている猫のお面からは、黒くて大きな嘴が飛び出している。
 ぴょんぴょん跳ねながら、電気コードを振り回し、ロックな動きを魅せる猫のお面からのぞくのは、茶色の長いうさぎ耳。
 そして輪の真ん中には金魚模様の浴衣を纏った、髭面にお団子ヘアの縄文人。一株分のしめじを一本も落とすことなく高速ジャグリングしながら、「ピリカピリカピリカ」と唱え続けている。その後ろには、麦わら帽の女性と、肩にはお揃いの麦わらをかぶった相棒さん。二人は星空へ花火を打ち上げる。

 ちょっと離れたところにすべり台があって、てっぺんにハチワレ猫が座っている。
 隣には桃色の猫。
「あーん」
 とか言いながら、サバ味のかき氷を食べさせ合いっこしているのであった。
 みんなそれを見ながら
 ヒューヒュー!
 と地面を踏み鳴らし、踊りはいよいよ、激しくなる。

 ああ、わたくしもあの輪に入ろう。
 と思ったとき、月に雲がかかったのであった。
 次に明るくなったとき、そこはほんの猫の額ほどの荒地で。
 ただ、黄色いマツヨイグサが妖しく群生しているのであった。

 家に帰ると、お犬はわたくしのベッドの真ん中で、天井にヘソを向けていびきをかいていた。


<了>



 ピリカさんの企画に3つ目の参加させていただきました!


 この企画、楽しすぎます!

 なので、思いっきり楽しいのを一つ、書きたくなりました。

 もしかして、アナタもこの中で踊ってらっしゃるかも、です。いつもありがとう! 

お気持ちありがとうございます。お犬に無添加のオヤツを買ってやります。