おぼれる


 今日の現場。おばあさんが朝起きたら亡くなっていた。同居の孫娘が第一発見者。
 そんなことで警察、と思われるかもしれない。ずっと、病院にかかっていて、お医者さんが「ああ、このせいで亡くなったのね」と説明できる場合は、警察は不要だ。死亡診断書が書かれて、火葬することができる。
 一方、病院にかかってない人だと、なんで亡くなったのか、調べなくてはならない。お医者さんに検案をお願いすることになる。疑問がなければ、死体検案書、というものが書かれて、火葬することができる。これも警察は不要。
 つまり、今回は、お医者さんが検案して、むむ、不審なり、という場合なのだ。そこで、僕と警部補が、検視に訪れたというわけ。

「おばあちゃん、夜中に大騒ぎしてたんです」
「何で、その時に様子を見に行かなかったの」
「いつも寝言がすごいんです」
「寝言」
「起こすと、いつも、夢見てたのに、いいところだったのにって怒るから」
「ゆうべは、どんなこと言ってたの」
「大喜利だー、山田くん座布団90枚、わー溺れちゃう、助けてー、とか」
「助けてって言ってるのに、行かなかったの」
「だからいつも、映画みたいな夢を見て騒ぐから、慣れちゃって」
 しくしくしく。
 あたしがあの時、起こしてたら。
 しくしくしく。
 おばあちゃん、いつも元気だったから、まさかこんな。
 しくしくしく。

「妙なホトケだ」
「あの孫娘がやったんすか」
「いや、乾いた土左衛門ってとこかな」
「えっ」
「まあ、お前にはまだ無理だな」
「わかんないす」
「行くぞ、司法解剖だ」

 そして今、解剖に立ち合っているところだ。
「先生、どうでしょうか」
「不思議なご遺体です」
「ははあ」
「溺れてるんですよ」
「やっぱり乾いた土左衛門」
「うまいこと言いますな」
 先生は、ピンセットで何か取り出してみせた。
「これが、詰まっとりました」
「綿?!」
「やっぱり、あの孫娘が詰めたんすね!」
「それが、鼻から気管から、気管支から、そのまた奥の、肺の隅までぎっしり」
「えっ」
「他人が詰めるのは不可能ですな」
「綿で土左衛門」
「警部補の言われるとおりですな」
「座布団の海で溺れた、か」
「なんすか、それ」
 その時、先生は、おや? という顔をして、慎重に何かをつまみあげた。
「これは一体」
「これは」

「どうして、しめじ」
「しめじ」


<了>


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こわい。


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