漫画評『らーめん才遊記』
期間限定無料に乗じて一気に読んだ。面白かった。本当に面白かった。興奮が残っているうちに感想をまとめてみたい。
どんな作品か
本作は、第一作「らーめん発見伝」の続編である。作品タイトルよりも、ラーメンハゲこと芹沢達也の方が有名かもしれない。
芹沢はラーメン屋を対象としたコンサルだ。ラーメンへの高い見識を活かし、活躍している。そんな芹沢の会社「清流房」に、本作の主人公である汐見ゆとりが入社するところから本作は始まる。
彼女は料理研究家の母親をもつ天才肌の天然娘だ。しかし、母親の方針からか、ラーメンについてはロクな経験がない。このようなアンバランスな人材が、ラーメン業界のコンサル1年生として働くのだから面白い。
目指すは究極の一杯ではなく、商売繁盛
ゆとりは料理の天才だ。だから美味しくて画期的なラーメンのレシピを提案できる。しかし、ラーメン店が抱える問題は、なにもメニューやレシピに限った話ではない。立地や他店舗の存在、広報戦略の妥当性や店主の特性など、多面的に問題の解決を考えていく必要がある。
ゆとりは料理の天才だが、コンサルとしては素人だ。だから、なかなか店舗ごとの欠点に気づけない。そんなゆとりが主人公であることで、ラーメン屋のコンサルタントという職業の意義が浮き彫りになっていくのだから、見事なものだ。
このようなアプローチであるため、ストーリーも単に美味しい一杯のラーメンを作るという話にとどまらず、さらに大きな枠へと広がっていく。つまり「そもそもラーメンとは何か」とか、「ラーメン業界の未来」といったテーマだ。
考えてみるとラーメンという料理の立ち位置は本当に面白い。大衆食としての地位を確立しておきながら、本物の料理として深めることもできる。懐の深い料理といっていいだろう。
本作は、料理の天才であり、ラーメンの素人という汐見ゆとりの成長物語と、「ラーメンとは何か、ラーメン業界の未来はどこに向かうのか」という問いの両方が絡み合い、進行していく物語なのだ。
キャラクターの魅力
本作の主題だけでも十分興味深いのだが、何よりキャラクターがいい。どのキャラも、「単なるいい人」ではないのだ。主人公のゆとりは、自分勝手で生意気だし、芹沢は端的に性格が悪い。
しかし、そういった負の要素のおかげで、主人公であるゆとりは「ムキになって戦う」ことが多い。それは未熟と言えば未熟なのだが、ドラマとしては俄然イキイキとしたものになってくる。
考えてみると、作中の人物が何かに挑戦したり、競い合ったりするときに「単に求道者として高みを目指したい」とばかり言われてもつまらないだろう。
なにくそ、一泡吹かせてやる、というぐらいで挑戦しているほうが見ていて面白い。そんな構図が、ゆとりと芹沢の間で自然に作られていくのだ。
ゆとりが負けて泣いているとき、芹沢が「きもちいー!」と最高の笑顔を浮かべるシーンがあるのだが、一切の不快感なく爆笑してしまった。
シメるときはシメる
芹沢の言動は全体的に性格が悪いのだが、それがなぜだか不快感に繋がらない。思うに、ラーメンに対する見識が本物であること、なんだかんだでゆとりの成長を促しているところなどが作用しているのだろう。
そして、ごく重要な時にだけ見せる、ラーメンに対する情熱は、日ごろの言動があるからこそ本当にカッコよかった。
第1作より先に続編に手を付けるというポカのせいで、十分に感動できなかった場面もあったのだが、しかたない。機会を見つけて『らーめん発見伝』の方も読んでみたい。