雑感:『NHKにようこそ』
少しだけアプリで読んで、苦手なヤツだと認識していた作品。でもTwitterでは特別な作品として扱われているようだったし、kindleセールでバカ安くなっていた。ちょっと頑張って読んでみることにした。
主人公の言動が本当にキツかったが、読破したら自分に何か残るはずだと、ページをめくっていった。次第に面白くなってきて、久々に睡眠を後回しにして最後まで読まされてしまった。とりあえず雑感を書いておこう。
一発逆転の夢
このマンガのテーマ、それは一つには「自分を肯定できない人間が抱く、一発逆転の夢の脆さ」だろう。
自分の現状が悲惨だ。積み上げてきたものも何もない。未来は真っ暗だ。
人はそんな現状に耐えられない。悲惨な現状を直視して、イチから着実に積み上げるなんて想像もしたくない。
だから大きな夢をぶち上げる。そうすれば「デカい夢を追う人」にランクアップできるからだ。
だが、「デカい夢」の扱いにはちょっとコツがいる。デカい夢を実現するには、努力の積み重ねが必要だ。何も積み上げてこなかった自分には、99.999999999%実現できない。だから、本当に実現しようとしてはいけない。すぐに身も蓋もない絶望に直面してしまうからだ。
だが、実現に向けての動きがゼロなのもNGだ。「デカい夢を追う人」ではなくなってしまう。自分を肯定できる材料がなくなってしまう。
ではどうするか。夢を牛歩で追うのだ。
もちろん、牛歩で夢に到達できるはずもない。でも、ずっと夢を追っている状態に留まることはできる。
…もちろん、主人公はその自己欺瞞に気づいている。
夢を牛歩で追い、自己欺瞞に苦しみ、次の夢をまた牛歩で追う。
大きな夢はともかく、小さな夢が実現しそうになることもある。だが、実現を目の前にして気づく。
「いま、この夢を達成してしまったら、それでも現状が何も変わらないということが確定してしまうのでは?」
だから、実現の半歩手前で立ち止まる。絶望を確定させてはいけない。
そんなサイクルを延々と見せられ続ける。頭がおかしくなりそうだった。
それでも、最終的には人間的成長を経て、地獄のサイクルから一歩踏み出すところが描写される。いい終わり方だった。別に壮大な夢を実現しなくてはいけないわけではない。同世代との差を意識しても仕方ない。重要なのは、地に足つけて、一歩ずつ進むことなのだろう。