『落下する日常』 小柳とかげ
著者は、日常生活の、ふとした瞬間に、ちょっとした違和感を感じ取る。
多分それは、誰よりも前ならえや右向け右が上手な子には感じられないものなのだ。
そして、前ならえや右向け右が下手くそな子にも、それは感じ取れない。
かといって、中くらいの子にも感じられない。
わかりましたか? 世の中とはままならないものなのだ。
誰もいない滑り台、観客のいない映画館、登ることの出来ないダム、いつもの日常のいつもの行動範囲から、ほんの少し外れたところに違和感はある。
それは死者達がこの現実に残した引っ掻き傷みたいなものなのだとわたしは思う。
著者は、そっと掌をその傷に触れ、瞳を閉じ、死者の声を聞く。
生きている者は愚かで、死んだ者は愛おしい。
遠くからお母さんの呼ぶ声が聞こえる。
そして目を開ける。
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